岩手県北自動車(岩手県北バス)とヤマト運輸は、路線バスで宅配荷物を運ぶ「貨客混載」を2015年6月3日に始めました。盛岡-宮古間の都市間バス「106急行」と宮古-重茂(おもえ)半島間の路線バスで1日1便運行します。
混載用の専用車両も投入されます。ヤマトによる「貨客混載便」は岩手県交通に次ぎ全国で2例目で、専用車両を使った本格的混載は全国初です。
車両後方の座席を荷物室に
新しい専用車両は「ヒトものバス」と銘打ち、車両後方の座席を減らして、荷台スペースを確保しています。このスペースに専用ボックスを置きヤマトの宅急便などの荷物を載せます。盛岡―宮古間の106急行では、座席数が45から32に削減されます。1日1便で運行開始され、盛岡発午前11時40分発の106急行が混載便となります。
この貨客混載バスは、ヤマトが県北バスに提案したとのことです。貨客混載により、バス会社は過疎化が進むエリアの路線網維持に役立ちますし、ヤマトはドライバー不足解消に役立ちますので、双方にメリットがあるしくみといえます。岩手県北自動車はみちのりホールディングス傘下ですが、同グループの福島交通などにも貨客混載を広げることが検討されているようです。
写真:ヤマト運輸
十数年前は成功せず?
バスでの貨客混載は禁じられていたわけではなく、これまでも行われてきました。2002年にまとめられた国土交通省「生活交通確保のための先駆的取組み・活性化事例集」という資料をみると、岩手県交通の北上-湯本間のバス(約40km)にヤマト宅急便の貨物の一部を積載するという事例が掲載されています。この取り組みは1993年に開始され、資料によると荷物運賃は1個あたり370円です。
ただ、この取り組みはあまり成功しなかったようです。資料がまとめられた2002年の話ですが、以下のように記されています。「宅配バスを開始した当時と比較して貨物の取扱数量が8割程度減少してきている。これは、宅配事業者側の輸送方法の選択肢が増え、導入時と比べ宅配バスを利用するメリットが少なくなっていることが要因として考えられる」
2002年当時はドライバーは足りていて、ヤマト側にバスを使うメリットは大きくなかったのかもしれません。それから13年が経ち、人口減少などによるドライバー不足が深刻になってきました。また、過疎が進み、地方での輸送効率も落ちてきたのでしょう。そうした環境変化を受けて、ヤマト側が再びバスに目を向けたのが今回の事例、ということなのかもしれません。
トラックによる有償旅客輸送が解禁か
今後は、さらに一歩進んで「宅配便が乗客を乗せる」という段階に進む可能性があります。というのも、国土交通省が、貨客混載輸送の拡大を次世代の地方交通の施策として掲げ始めたからです。
同省が2015年2月にまとめた「豊かな未来社会に向けた自動車行政の新たな展開に関する小委員会 中間整理」の資料には、以下のように記されています。
「特に貨客混載については、現行制度上、バス、トラック事業者等が一定の条件の下で行うことが認められているが、既存事業者の営業が行き届かない過疎地域等において、安全性について配慮しつつ、タクシーによる有償貨物運送やトラックによる有償旅客運送を可能とすることが適当である」
つまり、タクシーが荷物を運んでいいし、トラックが客を乗せていい、という規制緩和を行う方向なのです。そして国土交通省の別の資料を見ると、この「トラック」が宅急便の配送車をイメージしていることがわかります。
第2回豊かな未来社会に向けた自動車行政の新たな展開に関する小委員会・配付資料11より
宅急便が過疎地輸送を担う?
これまで、路線バスの維持が難しくなった過疎地の地方交通は、コミュニティバスやデマンドタクシーへ転換されてきました。しかし、コミュニティバスやデマンドタクシーは、輸送コストは下げられるものの、専用の運転手が必要なことに変わりはなく、乗務員不足の壁に当たりつつあります。
そのため、今後、規制緩和が行われた後に、過疎地の交通網維持は、こうした宅配便などによる貨客混載便が担うことになるのかもしれません。となると、近い将来、乗客席が設置された宅急便配送車が登場するのでしょうか。