JR西日本が、ICOCAエリアの普通列車が乗り放題になる「JR西日本無限大パス」を発売します。使い道を研究しましたが、お得に楽しむのは難しそうで、ちょっと謎のきっぷです。
ICOCAエリアが30日間乗り放題
JR西日本が発売するのは、「(ICOCAでGO)JR西日本無限大パス」です。JR西日本のICOCAエリアの普通列車が30日間、実質乗り放題になります。
発売期間は2025年2月14日から3月12日。利用期間は2月15日から4月10日の連続する30日間です。価格は50,240円です。
七尾線、城端線を除く、JR西日本のICOCAエリアで利用可能で、普通列車(新快速、快速含む)の普通車自由席が利用できます。
ICOCAエリアというのは、ざっくり書くと、京阪神近郊と、山陽本線全線と、その沿線都市圏、伯備線、山陰中心部(鳥取付近は2025年3月15日以降有効)です。
特急列車、普通列車グリーン車指定席、普通車指定席は、別途料金券を購入すれば利用できます。ただし、新幹線は一切利用できません。
「JR西日本無限大パス」の概要
「JR西日本無限大パス」の概要は以下の通りです。
■発売期間
2025年2月14日(金)~3月12日(水)
※利用開始日の1ヶ月前~当日の23時30分まで発売。
※3月12日利用開始分まで発売。
※枚数限定。上限に達した場合、発売期間にかかわらず、発売を終了。
※購入後、利用開始日の変更は不可。
■利用期間
2025年2月15日(土)~4月10日(木)のうち連続する30日間
※購入時に指定した利用開始日から30日間有効。
■価格
おとな50,240円(1名様あたり)
※こども用の設定はなし。
■購入方法
「KANSAI MaaS」アプリでのみ発売。
※購入には、アプリのダウンロード及び会員登録が必要。
■効力
・JR西日本ICOCAエリア内(一部除く)の普通列車(新快速、快速含む)の普通車自由席が30日間乗り放題。
※七尾線、城端線は利用不可。
・特急列車や座席指定券等が必要な列車に乗車する場合は、別途料金券が必要。
・新幹線は利用不可。別途、運賃・料金が必要。
・関西主要駅の対象店舗で、ドリンクのサイズアップや割引のクーポンを合計8回まで利用可。
しくみは少し複雑
「JR西日本無限大パス」のしくみは、少しばかり複雑です。まず、発売場所は、広域型MaaSアプリ「KANSAI MaaS」に限られます。
利用する場合、「KANSAI MaaS」アプリにICOCA(SMART ICOCA、モバイルICOCA/Apple PayのICOCA含む)を登録し、JR西日本の券売機などでWESTERポイント(チャージ専用)サービスの利用登録をしておく必要があります。
そのうえで、「JR西日本無限大パス」を購入し、登録済みのICカードを使って、自動改札機を通り、JR線に乗車します。
このとき、運賃はいったん支払います(ICOCAから差し引かれます)。しかし、利用月の翌月末に、ICOCAエリア内をICOCAで利用した運賃相当分について、WESTERポイント(チャージ専用)で全額返却されます。
要するに、50,240円を先払いしておくと、利用開始日から30日間で乗ったぶんが、あとでポイントで返ってくるというしくみです。
たとえば、約5万円でパスを購入し、10万円分乗車した場合、乗車ごとに運賃を支払って、10万ポイントが返ってくる、というわけです。このとき、10万円分は立て替え払いとなりますので、約15万円の「資金」が必要となります。
元を取るには?
ということで、まずは、現状でICOCAやWESTERポイントを使っていない人には、扱いづらいきっぷです。
そのうえで、気になるのは、約5万円の元を取るには、どのくらい乗らなければならないのか、ということでしょう。
JR西日本の例示によれば、大阪駅発で利用する場合、以下のような金額がかかります。
・新宮へ旅行 往復9,680円
・豊岡へ旅行 往復6,160円
・敦賀へ旅行 往復4,620円
・京都~三ノ宮 30日間往復 66,600円
※いずれも特急料金は含まない。
つまり、新宮へ6往復、豊岡へ9往復、敦賀へ11往復すれば元が取れます。京都~三ノ宮間の場合は、23往復で元が取れます。
30日のうち、平日に毎日京阪神を往復して、やっと元が取れる程度、というわけです。同一区間の1ヶ月往復なら、当然定期券のほうが安いので、現実には、同一区間利用者向けのきっぷではありません。
週末旅行を繰り返すと?
では、週末旅行で目一杯使った場合、どのくらいお得になるのでしょうか。週末4日で、遠距離区間を往復する案として、以下のルートを考えてみます。
・大阪~下関 片道8,910円
・大阪~出雲市 片道6,600円
・大阪~新宮 片道4,840円
・大阪~城崎温泉 片道3,410円
・合計 片道14,850円、往復29,700円
これでも往復3万円弱で、元を取るには足りません。つまり、週末旅行で元を取るのは、かなり困難です。「JR西日本無限大パス」をお得に使いこなすには、平日にも利用することが前提となります。
お得感は乏しく
となると、お得に使えるのは、平日に近畿各地へ頻繁に出張する、といった人でしょう。ただし、新幹線が使えないので、中長距離での用途は限られます。
鉄道旅行者にとっては、ICOCAエリア外がフリーエリアに含まれないので、使い勝手が悪いです。
しかも、このきっぷは、ICOCAのシステムの仕様上、1度に乗車できるのは200kmまでです。201km以上を乗車する場合は、いったん改札口を出なければなりません。そうしないと、ポイント付与の対象外、すなわち乗り放題になりません。
同様に、エリア外にまたがって利用した場合も、全乗車区間がポイント付与の対象外です。エリア外に足を伸ばす場合は、エリアの境界駅で改札口を出なければなりません。
こうした制限もあるので、利用対象は限られるでしょう。
「青春18きっぷ」と比較してみる
「JR西日本無限大パス」は、約5万円のきっぷです。30日間のうち、20日間利用するとして、1日あたりざっと2,500円です。「青春18きっぷ」の5日間用が1日あたり2,410円なので、同水準といえます。
「JR西日本無限大パス」は、「青春18きっぷ」では乗れない特急に、別途料金を支払えば乗れるという大きなメリットがあります。しかし、ICOCAエリア外に行けないのは、大きなデメリットです。
「青春18きっぷ」は、5日間用が12,050円ですので、4セット買えば20日間が48,200円で利用できます。「JR西日本無限大パス」とほぼ同価格で、20日分乗り放題ができるわけです。「青春18きっぷ」なら、ICOCAエリア外も利用できます。
逆に、「青春18きっぷ」を30日間使おうとするなら、6セットで72,300円です。「JR西日本無限大パス」より高いですが、行こうと思えば東京にも行けます。
「JR西日本無限大パス」は、フリーエリアが限られているのが、やはり弱点です。普通列車だけに乗るのであれば、「青春18きっぷ」に対して優位性を見出すのは難しいでしょう。
定期券とも比べてみる
定期券とも比べてみましょう。
JR西日本の通勤定期券は、100kmまでが47,510円です。大阪起点の東海道・山陽線でみると、5万円を上回るのは竜野(1ヶ月53,110円)や南彦根(同52,130円)からです。
その他の路線では、大阪起点でたとえば御坊が1ヶ月62,520円、福知山が54,770円です。これだけの遠距離通勤をするのであれば、「JR西日本無限大パス」を使う意味があります。
ただし、3ヶ月や6ヶ月の定期券もありますし、わざわざ1ヶ月の間だけパスに切り替えるかというと、微妙でしょう。定期券なら新幹線を別途料金で利用できるというメリットもあります。
どういう利用者を想定しているのか
こうして見てみると、「JR西日本無限大パス」は、活用する方法が難しく、どういう用途を想定しているのかがわかりにくい、「謎」のきっぷです。
お得に使うには、在来線特急を活用して、近畿エリアの広域を、頻繁に乗車することでしょう。
週末だけの旅行者には向きませんし、京阪神エリアだけを主に日常利用する人にもお得感がありません。業務で近畿エリアの在来線を頻繁利用する、ヘビーユーザー向けに感じられます。いわば業務用のサブスクです。
正規運賃を支払ってポイントバックという形なので、ヘビーユーザーが出張旅費をちょっと浮かす程度の使い道にはなりそうです。
実験的な位置づけか
販売枚数に制限があることから、JR西日本としても、ばんばん売ろうというきっぷではなさそうです。こうしたサブスクに、どれだけの需要があるかを見極めるための、実験的な位置づけではないでしょうか。
将来的に、交通系ICカードのシステムがクラウドに移行すれば、同様のサービスを、より長距離で、新幹線も利用できる形で提供できるかもしれません。今回の販売状況をみたうえで、新たなサービス展開を検討するのでしょう。
現段階では、旅行者にとって、使い道は乏しいように感じられます。この価格なら、青春18きっぷを4セット買って、20日間普通列車に乗ったほうが、より楽しめそうです。(鎌倉淳)