JR東日本が、輸送密度2,000人未満の区間について収支状況と営業係数を公表しました。気になる線区をみていきましょう。
34路線62区間
JR東日本は、利用者が少ない線区について、2022年度の収支状況と営業係数を公表しました。対象となったのは、2019年度に輸送密度2,000人未満だった34路線62区間です。
前年度まで開示していた路線のうち、津軽線中小国~三厩間、米坂線今泉~小国間、小国~坂町間、陸羽西線新庄~余目間は、今回は開示の対象外となりました。津軽線と米坂線は災害による不通が生じており、陸羽西線は工事の影響で運休が続いているためです。
また、輸送密度2,000人未満の路線でも、只見線会津川口~只見間と上越線越後湯沢~ガーラ湯沢間も非開示です。只見線は上下分離をしているためとみられます。ガーラ湯沢は、新幹線施設の一部を使用しているからでしょう。
東北のローカル線が対象に
まず、開示している路線を全体図で見てみましょう。下図で黄色、橙色、赤色に塗られている線区が開示対象です。
東北エリアのローカル線の多くが開示対象になっています。すなわち、輸送密度2,000人未満ということです。
なかでも赤線区は輸送密度500人未満で、将来的に存廃を含めた議論になってもおかしくない利用状況です。東北地方を横断する線区が目に付きます。
首都圏では房総半島に輸送密度の低い路線があります。久留里線久留里~上総亀山間は、首都圏唯一の赤線区です。
収支状況と営業係数
次に、これらの路線の収支状況と営業係数の表を掲載します。以下の通りです。
久留里線久留里~上総亀山間
久留里線久留里~上総亀山間9.6kmは、東北地方のローカル線を抑え、営業係数ではJR東日本ワーストの区間です。2022年度の数字は16,821に達します。
この区間の年間費用は2.46億円と公表されました。年間収入は100万円と表示されていますが、これは四捨五入の数字ですので、営業係数から計算すると146万円程度の収入のようです。365で割ると、1日あたり約4,000円の収入しか得られていないことになります。
上下計17本の列車を運行していますので、1列車あたり235円です。ディーゼルカーを9.6km動かして、235円の収入では、たしかに大赤字でしょう。
営業距離9.6kmの運賃は210円ですので、単純計算すると、1列車あたり1人分くらいの運賃収入しか得られていないことになります。
輸送密度は54人なので、実際には1列車平均3人くらいは乗っているようです。それで1人分の運賃収入しか得られていないのは、単価の安い通学定期の利用者が多いからでしょうか。
久留里線木更津~久留里間
同じ久留里線でも、木更津~久留里間は営業係数が1,153で、輸送密度が1,074です。末端部に比べればいい数字ですが、それでも低水準であることにかわりありません。
気がかりなのは、木更津~久留里間の輸送密度が、2019年度に比べ激減していること。同区間の2019年度の輸送密度は1,425でしたので、コロナを挟んで25%も減っています。まだ存廃が問題になる水準ではないですが、このままのペースで数字が減っていくと、危険な水域に入ります。
営業係数3,000以上の線区
改めて説明すると、営業係数とは100円稼ぐのにいくら費用がかかるかを示す指標です。国鉄末期に「日本一の赤字線」と呼ばれた美幸線の営業係数が3,000~4,000程度でした。
そこで、営業係数3,000以上の線区をみてみると、以下が挙げられます。
・飯山線 飯山~戸狩野沢温泉 3,029
・飯山線 戸狩野沢温泉~津南 12,746
・大糸線 白馬~南小谷 3,944
・北上線 ほっとゆだ~横手 4,244
・久留里線 久留里~上総亀山 16,821
・五能線 能代~深浦 5,386
・水郡線 常陸大子~磐城塙 5,776
・只見線 会津坂下~会津川口 3,448
・只見線 只見~小出 3,836
・花輪線 荒屋新町~鹿角花輪 10,751
・磐越西線 喜多方~野沢 3,427
・磐越西線 野沢~津川 13,980
・磐越西線 津川~五泉 3,691
・磐越東線 いわき~小野新町 3,283
・山田線 上米内~宮古 5,337
・陸羽東線 鳴子温泉~最上 15,184
多くは県境をまたぐ区間です。県境区間では、ローカル線の主な利用者である高校生の流動が少ないこともあり、収入が少なく、営業係数が高くなりがちなのでしょう。
磐越西線の営業係数が他と比して悪いですが、その理由ははっきりしません。新型車両GV-E400系の減価償却費や、2022年夏の豪雨被災からの復旧費用などが計上されているのでしょうか。
日本海縦貫線という重荷
収支に目を移すと、赤字の絶対額が大きいのは日本海縦貫線です。羽越本線新津~新発田が約9億円、村上~鶴岡間が約49億円、酒田~羽後本荘が約29億円。奥羽本線東能代~大館間が約33億円、大館~弘前が約24億円。合計で144億円に達します。
これは輸送密度2,000未満の区間だけの数字なので、直江津~青森に至る日本海縦貫線全体を合計すると、200億円以上に達する赤字となっている可能性もあります。日本海縦貫線は特急列車と貨物列車が走る大動脈なので、維持費がかかるのでしょう。
上越線の水上~越後湯沢間も約19億円の赤字と、大きい数字です。上下線が別れていて、新清水トンネルを初めとした長大トンネルの維持費がかさんでいるようです。
JR東日本は将来的な方針として、ローカル線複線区間の単線化を掲げています。赤字額をみていると、こうした巨額赤字の地方幹線で単線化が行われる可能性はありそうです。
全部廃止なら50%増益
収支を公表した62線区の2022年度の収支は、合計で約648億円の赤字となっています。同年度の同社の連結営業利益は1406億円ですので、営業利益の46%にあたる金額です。仮にこの赤字がなければ、単純計算で同社は50%近い増益を成し遂げることができたわけです。
もちろん、鉄道はネットワークですし、そう単純な計算ではありません。国鉄改革の経緯からも、同社がローカル線だけを片っ端から切り捨てることは許されないでしょう。
とはいえ、厳しい数字であることに変わりはなく、今後、路線によって、あり方の議論が起こりそうです。(鎌倉淳)