ホーム 鉄道 JR

JRで「ユニバーサルサービス料」導入か。鉄道ネットワーク維持へ、運賃・料金に上乗せも

ローカル幹線維持へ新たな枠組み

国土交通省の有識者会議が、鉄道ネットワーク維持のための新財源を確保すべきという提言をとりまとめました。JR利用時に課すユニバーサルサービス料や新税を想定しているようで、利用者には新たな負担となりそうです。

広告

「基幹的鉄道ネットワーク」を定義

国土交通省の「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」は、2026年4月10日に、課題整理と新たに取り組むべき方向性について、とりまとめを公表しました。

とりまとめでは、鉄道ネットワークの基本的なあり方として、特急列車が運行する区間や貨物列車が走る区間、災害時に走行する可能性の高い区間などを「基幹的鉄道ネットワーク」として位置づけ、「維持することが重要」と整理しました。

さらに、「基幹的鉄道ネットワーク」について、あり方を検討するのは国の役割であり、コスト負担やサービス水準についても検討する必要があるとしました。

いわゆるローカル線のうち、骨格路線について、国の責任において維持する方向性を示したうえで、その維持費の検討も求めた形です。

N700S東海道新幹線

広告

安定的な財源が必要

JRのローカル線の赤字は、現在、大都市部や新幹線の黒字で穴埋めされています。これを内部補助といいます。基幹的なローカル線においては、とくに巨額の赤字が生まれており、運営するJRの重荷となっています。

そのため、JRでは近年、内部補助だけでローカル線を維持するのは難しいという姿勢を鮮明にしてきました。JR東日本は、検討会の聞き取りで「過度な内部補助は、本来高品質なサービスを提供するべきご利用の多い線区に対する公平性の観点からも問題」などと訴えています。

これらを踏まえ、とりまとめでは、「基幹的鉄道ネットワーク」について、持続的に支えるために、内部補助以外の「安定的な財源の確保が必要」と指摘しました。

具体的には、「幅広い受益者から負担を収受する仕組みを導入することが考えられる」としました。

広告

受益者負担の仕組みとは何を指すのか

「幅広い受益者から負担を収受する仕組み」が何を指すのかは、とりまとめ本文で示されていません。

ただ、参考資料としてアンケート結果が添付されていて、そのなかで、「ローカル鉄道維持のための利用者負担の形」として、「税金、ユニバーサルサービス料 、クラウドファンディング」が選択肢としてあげられています。

クラウドファンディングは「安定的な財源」になりませんので、導入するとすれば、税金かユニバーサルサービス料でしょう。

このうち、導入しやすいのは、ユニバーサルサービス料でしょう。現行のバリアフリー運賃と似た形で、運賃や料金に一律で上乗せする制度です。

広告

特急料金か運賃か

導入する場合に気になるのが、徴収範囲です。これについては、「基幹的な鉄道ネットワークの受益者が、その維持費用を負担する」という考え方に基づいて設定されるとみられます。

鉄道ネットワークの受益者という視点でみると、新幹線・特急の利用者から徴収するのが、一つの考え方でしょうか。特急料金に上乗せする形です。

たとえば、東海道新幹線の利用者は、年間1億6800万人(2024年度)です。新幹線特急料金に1回100円を加算すれば、168億円の財源が生まれます。正確に計算したわけではありませんが、全国の新幹線・特急の料金に一律100円を加算すれば、400~500億円程度の財源が生み出せそうです。

いっぽう、貨物列車の受益は全国民です。それを踏まえて「幅広く負担」という視点でみると、JR運賃に一律で加算するという考え方もあるでしょう。

JRの利用者は、年間約84億人(2023年度)です。一律10円の加算で800億円の財源が生まれます。定期外利用者に限れば約35億人で、一律10円として350億円です。

広告

基幹的鉄道ネットワークの赤字額

収受したサービス料の交付対象は、JRの「基幹的鉄道ネットワーク」です。特急・貨物列車が運行する区間のほか、貨物列車が災害時に走行する可能性の高い区間なども該当します。

羽越線や山陰線といった、各地のローカル幹線に加え、北上線や磐越西線のような、災害時に貨物列車が運行しそうな区間も含まれるということです。

JR東日本が開示している資料によると、たとえば羽越線・鶴岡~酒田~羽後本荘間で、年間約47億円の赤字が生じています。奥羽線・東能代~大館~弘前は約62億円です。北上線は約16億円、磐越西線は約28億円です。

これら区間だけで、赤字額は軽く100億円を超えてしまいます。かように「基幹的なローカル線」の赤字額は大きく、全額穴埋めするなら、1,000億円単位の財源が必要になります。

つまり、基幹的な鉄道ネットワークの赤字の全額を、ユニバーサルサービス利用料で穴埋めするのは、相当に金額を高くしないと難しいということです。したがって、JRの内部補助とあわせて分担することになりそうです。

広告

内部補助より公平?

ここでポイントになるのは、JR全体のネットワークの「ユニバーサルサービス」という考え方に基づけば、収受したお金を、必ずしも収受した会社で使うことにはならない、ということでしょう。

JR東海が徴収したお金を、JR西日本やJR四国、場合によっては、JR北海道のローカル線の維持に使う可能性もある、ということです。

JR共通で徴収すれば、「JR東海の路線なら維持されるのに、JR西日本では廃止される」といった、JR各社間の経営体力による扱いの差はなくなります。もともとすべて国鉄だったという歴史的な経緯を踏まえれば、内部補助より公平な制度といえます。

ただ、利用者の感情としては、東海道新幹線を利用したお金が、石北線の維持に使われるとすれば、納得しづらい部分が出てくるかもしれません。

広告

交通税で導入するなら

いっぽう、税金で導入する場合は、どのような形が考えられるでしょうか。

いろんな案があるでしょうが、現在滋賀県で検討されている交通税の場合は、県民税に数百円を上乗せする形です。個人だけでなく、法人にも課税し、あまねく負担を求めます。

しかし、同様の仕組みを国税にも設けて、「ローカル線維持のため」という大義名分で所得税に上乗せしようとすれば、さすがに異論が噴出しそうです。

広告

宿泊税の可能性

受益者負担という考え方に立てば、たとえば宿泊税のような形で、旅行者に負担を求める形も考えられます。ただ、ホテルの宿泊者は必ずしも鉄道利用者ではありませんので、受益と無関係な旅行者も多額の負担をするスキームになってしまいます。

北海道など、観光利用の鉄道利用者が多い地域で地方税として導入し、基幹的でないローカル線の維持のために使う程度なら可能かもしれません。しかし、全国的な鉄道ネットワークの維持に、沖縄のホテルの宿泊者に負担を求めるのは筋が通りません。

いずれにせよ、「基幹的鉄道ネットワーク」の維持を目的として新税を創設するのは難しい気がします。それよりは、ユニバーサルサービス利用料のほうが合理的で、実現性がありそうです。

広告

ローカル線維持の代償

今回のとりまとめは、政府における今後の議論へ向けた、たたき台です。したがって、JRのユニバーサルサービス料などについて、決まったことはありません。

ただし、国交省の有識者会議で「幅広い受益者から負担を収受する仕組みの導入」が提起されたことは重要で、鉄道利用者に対して新たな負担が課される可能性は高そうです。

あわせて、「基幹的鉄道ネットワーク」を国の責任で維持する方針を示したことも重要です。少なくとも特急が走るようなローカル幹線は、新たな仕組みにより、今後も維持される可能性が高くなりました。

全国を旅する鉄道旅行者にとって、ローカル幹線の維持方針は歓迎すべきことでしょう。ただ、その代償として、相応の負担を求められることになるわけです。(鎌倉淳)

広告