熊本空港アクセス鉄道を、JR九州が運営することが決まりました。上下分離で整備し、豊肥線の機能強化と快速運行も実施します。これにより、熊本駅~熊本空港間が、快速列車39分で結ばれます。開業目標は2034年度末(2035年3月)です。
肥後大津~熊本空港6.8km
熊本空港アクセス鉄道は、JR豊肥線肥後大津駅と熊本空港を結ぶ、全長約6.8kmの鉄道新線計画です。肥後大津駅から南へ分岐して、国道57号や白川を横断。空港南側に新設する空港駅に至るルートです。
熊本県は、整備の具体化に向けて、概算事業費の見直しや、運行形態の整理、需要予測、費用便益分析(B/C)などの精査をおこなってきました。その調査結果がこのほど公表されました。
上下分離方式を採用
まず、空港アクセス線の運行形態については、JR九州を第二種鉄道事業者とする、上下分離方式を採用することが決まりました。鉄道施設を県が設立する第三セクターが運営し、列車運行はJR九州が担います。
つまり、空港アクセス線はJR線となり、豊肥線と一体的に運行されます。いわば、「JR熊本空港線」が誕生するわけです。
熊本空港アクセス鉄道の開業にあわせて、豊肥線の機能強化も一体的におこないます。具体的には、東海学園前駅を交換可能駅にするほか、武蔵塚駅、原水駅で、交換時に同時進入ができるようにします。
これにより、豊肥線の運行ダイヤを効率化し、熊本~空港間で快速運行ができるようになります。
快速は毎時1本か
運行本数は普通列車を1日47本、快速列車を14本と想定します。これは往復の数字なので、快速は1日あたり7往復。つまり、日中時間帯に毎時1本程度の運行のようです。
空港駅~肥後大津駅の所要時間は普通列車で約8分、快速列車で約7分です。空港駅~熊本駅間は、普通列車で約48分、快速列車で約39分です。
空港駅~熊本駅の総延長は約29.4kmで、東京駅~横浜駅(28.8km)に匹敵します。空港駅から熊本駅への想定運賃は950円です。
総事業費610億円
1日の利用者数は約6,500人を見込みます。これは、熊本空港が掲げる2051年度航空旅客目標値622万人(国内線447万人、国際線175万人)を基に算出しています。
総事業費は、空港アクセス鉄道整備に約610億円、豊肥線の輸送力強化に約60億円と見積もられました。その場合の、新線整備の費用便益比は、30年が1.21、50年が1.43です。
新線整備には、国交省の空港アクセス鉄道等整備事業費補助などの利用を想定します。同補助の現在の補助率は18%です。JRの負担金は、空港アクセス鉄道の開業後、JR九州の既存路線で生じる増益額の一部を対象に、総事業費の1/3を上限に計上します。
一方、豊肥線の機能強化事業のスキームは未定です。熊本県では、国やJR九州などと協議のうえ、活用できる国の財政支援メニューを考慮しながら、最適な事業スキームを検討するとしています。
熊本県は、国に対し、地域産業構造転換インフラ整備推進交付金の適用を求めてきましたが、現時点で決定したことはないようです。
総事業費は1.5倍に
概算事業費は、2022年9月に公表された約410億円に比べ、約200億円も上振れしています。たった3年で1.5倍というのは驚かされますが、熊本県によると、上昇分の8割(160億円)は、物価や人件費上昇分を反映したもので、近年の物価高騰が大きく影響しているそうです。
そのほか、信号やトンネル、空港駅、交差部の構造を精査したことで、約30億円の上振れとなりました。さらに、将来の運行計画を想定して必要車両数を増やしたことなどで、10億円が増えています。
2027年着工目指す
空港アクセス線では、途中駅の設置も検討されています。これまでに公表されている整備計画案では、肥後大津~熊本空港の中間付近に、交換設備を整備する予定です。地元・大津町では、交換設備だけでなく、駅を整備する構想を検討しています。
現時点で、中間駅については具体化していないようです。ただ、空港アクセス線内の所要時間で、普通が8分、快速7分と差を付けているので、普通列車の途中駅停車、快速の通過を見込んでいることは確かなようです。
整備期間は8年間を見込みます。熊本県では、2026年度中に国の事業許可を得て、2027年度中の着工、34年度末までの開業を目指します。順調にいけば、「JR熊本空港線」は、2035年3月に開業することになります。(鎌倉淳)