JR北海道の赤字ローカル線問題について、各社報道が相次いでいます。おおざっぱにいって、輸送密度200未満の路線については廃止協議を進める一方、石北線や宗谷北線、花咲線などについては、JR北海道が自治体などに費用負担を求めるようです。
輸送密度200人未満はバス転換
読売新聞2016年10月25日付は、「輸送密度200人未満の3線区を廃止し、バスへ転換することを念頭に沿線自治体と協議する方針を固めた」と報じました。
北海道新聞同日付も、「留萌線の深川―留萌間と根室線の富良野―新得間の2路線2区間について新たに廃止を伴うバス転換を検討している」とし、「廃止検討路線は(中略)札沼線(北海道医療大学―新十津川)を含め、3路線3区間となった」と報じています。
8区間で費用負担検討へ
NHK2016年10月25日放送では、さらに詳細が報じられました。「13の区間について『単独では維持できない』と位置づけ、特に利用が低迷している3区間はバスへの転換も含めて地元と協議する方向で検討を進めている」としています。
さらに、「2000人未満の路線のうち宗谷線の名寄・稚内間など8つの区間については鉄道は維持したいものの単独では費用が賄えないため、今後の費用負担について地元と検討を始めたい区間と位置づける方向」と報じています。
「費用負担で協議の8区間」については映像で示し、室蘭線沼ノ端~岩見沢間、日高線苫小牧~鵡川間、根室線滝川~富良野間、同釧路~根室間(花咲線)、宗谷線名寄~稚内間(宗谷北線)、富良野線、石北線、釧網線の各全線が表示されていました。
北海道新聞2016年10月26日付では、これを後追い報道したうえで、日高線全線を「単独では維持困難な路線」、宗谷南線と根室線帯広~釧路間を「協議の対象となる可能性のある区間」としました。
輸送密度200人で区切る
これらの報道をまとめてみると、JR北海道は、当面の廃止議論を輸送密度200人で区切る一方、輸送密度200人以上2000人未満の区間に関しては路線ごとに判断し、維持の可能性も含めて協議するようです。2000人以上に関しても、将来の協議可能性を提示するようです。
JR北海道の2016年3月期決算によりますと、輸送密度200人未満の区間は以下の通りです。
・留萌線 留萌~増毛 67
・札沼線 北海道医療大学~新十津川 79
・石勝線 新夕張~夕張 118
・根室線 富良野~新得 152
・留萌線 深川~留萌 183
このうち、留萌線留萌~増毛間は2016年12月に廃止が決まっており、石勝線新夕張~夕張間は、すでに地元の夕張市が路線廃止に合意しています。
残る札沼線北海道医療大学~新十津川、根室線富良野~新得間、留萌線深川~留萌間の3路線について、これから廃止協議が始まるとみられます。
簡単にまとめると、輸送密度200人未満の5区間は全て廃止方針ということです。
輸送密度4000人未満の区間
JR北海道の資料では、輸送密度200~4000人の区間は、以下の14区間あります。
日高線 苫小牧~様似 298*
宗谷線 名寄~稚内 403
根室線 釧路~根室 449
根室線 滝川~富良野 488
室蘭線 沼ノ端~岩見沢 500
釧網線 東釧路~網走 513
函館線 長万部~小樽 690
石北線 上川~網走 1061
室蘭線 室蘭~東室蘭 1366
富良野線 富良野~旭川 1477
石北線 新旭川~上川 1481
宗谷線 旭川~名寄 1571
根室線 帯広~釧路 2266
函館線 函館~長万部 3799
*日高線は2014年度、それ以外は2015年度。海峡線は除外。
函館山線は外れる
NHKの報道では、2000人未満の区間のうち、函館線長万部~小樽間(山線)、室蘭線室蘭~東室蘭間(室蘭支線)、宗谷線旭川~名寄(宗谷南線)について、協議対象から除外されることを示しています。北海道新聞でも宗谷南線を「協議の対象となる可能性のある区間」とし、ただちに協議対象に入らないことを示しています。
函館山線は、北海道新幹線の並行在来線と位置づけられ、札幌開業時に分離されることが決まっているので、今回は協議対象から外れたとみられます。室蘭支線は電化区間、宗谷南線は高速化完了区間のため、今後の設備更新費用が少ないことが配慮されたのでしょう。
NHKでは、日高線苫小牧~鵡川間を協議対象として表示する一方、災害で不通の鵡川~様似間には触れませんでした。ただ、鵡川~様似間の復旧には巨費がかかるため、バス転換の方針とみられます。
北海道新聞では、日高線全線を「単独では維持困難」に分類しています。扱いの違いはありますが、内容的にはNHKと同じとみていいでしょう。
JR北海道の方針をまとめると
これらの報道をまとめると、JR北海道の方針は、以下のようになります。
—–バス転換↓—–
留萌線 留萌~増毛
札沼線 北海道医療大学~新十津川
石勝線 新夕張~夕張
根室線 富良野~新得
留萌線 深川~留萌
日高線 鵡川~様似
—–費用負担協議↓—–
日高線 苫小牧~様似
宗谷線 名寄~稚内
根室線 釧路~根室
根室線 滝川~富良野
室蘭線 沼ノ端~岩見
釧網線 東釧路~網走
石北線 新旭川~網走
富良野線 富良野~旭川
—–協議可能性↓—–
宗谷線 旭川~名寄
根室線 帯広~釧路
—–存続↓—–
函館線 長万部~小樽
室蘭線 室蘭~東室蘭
函館線 函館~長万部
函館線は「存続」に分類しましたが、函館~長万部~小樽間は北海道新幹線開業時に分離されることが決まっています。
公的補助があれば存続か
NHKでは、「単独では維持できない8区間」を「今後の費用負担について地元と検討を始めたい区間」と表現しています。言葉を換えれば「運行経費について公的補助があるのならば、存続したい」とJR北海道が考えている、と受け止められます。
JR北海道も鉄道会社である以上、闇雲に路線を廃止したいわけではないでしょうし、可能なら広域ネットワークを維持したいと考えているのでしょう。
透けて見えるのは、輸送密度200人未満の区間は廃止し、それ以上の区間は残せるものなら残す、という姿勢です。
富良野~新得間はもったいないが
輸送密度200人未満の区間に関しては、客観的に見ても廃止に驚きはありませんし、やむを得ないようにみえます。
そのなかで、根室線富良野~新得間は道内ネットワーク維持の観点からは廃止はもったいない気もします。ただ、絶対的な沿線人口の少なさと、山岳路線としての維持の大変さを考えると、やはりやむを得ないともいえます。
国土の骨格路線をどうするか
200人以上の区間に関しては、JRのみならず、国や北海道も難しい判断を迫られます。とくに石北線や宗谷北線、根室線(花咲線)は、国土の骨格路線だけに、輸送密度だけで判断するわけにもいきません。これら区間に関して議論の余地を残したのは妥当といえますし、今後の焦点となるでしょう。
宗谷北線を例に取れば、延長182kmの沿線人口は5万人にすぎません。東京~静岡間に相当する距離に5万人しか住んでないのですから、そんなエリアで鉄道路線を企業が維持するのは不可能ですし、地元自治体でも支えきれないのは明らかです。経営安定基金を考慮しても、JR北海道が維持できる限度を超えているでしょう。
国土の骨格をなす鉄道であっても、利用者が少なければなくしていいのか。それともインフラと考えて、税金を使った費用負担に踏み切るか。国を含めた鉄道補助のあり方を考え直すタイミングが、そろそろ訪れているのではないかと思います。(鎌倉淳)