JALとANAの国内線共同運航を視野に入れた議論が開始されそうです。国内航空のあり方を議論する有識者会議で、国土交通省が、需要が減少した路線について、複数の航空会社がコードシェアをするという考え方を提示しました。はたして、実現するのでしょうか。
国内航空のあり方の方向性
国土交通省は、コロナ禍後に経営難が続く航空会社が、国内路線を維持するための方法を、「国内航空のあり方に関する有識者会議」で議論しています。
その第2回会合で、航空局説明資料として、「国内航空のあり方の方向性」を示しました。
資料では、「国内航空のあり方としては、基本的には、これまで同様に、競争環境の下で各航空会社の事業展開がなされ、市場において調整が図られることが前提であるべき」とし、市場原理に基づく競争環境を維持していく大方針を示しました。
ただ、「一定程度の類型化された路線については、ある程度の調整は必要」という考え方を否定せず、類型にあわせて、関係法令と照らし合わせながら対応する方針も示しました。
同時間帯に複数航空会社が出発する問題
類型として示された例の一つが、同時間帯に複数航空会社が出発する問題です。たとえば、1日片道5便しかない路線で、A社とB社が8時頃、12時頃に、それぞれ便を出している路線があるとします。
8時頃の便の需要が高いため、競合する両社が譲りません。12時前後の便は、8時に始発便を出すと、運用上、次便が12時頃になるという場合が多いです。
利便性が向上するダイヤの調整
A社もB社も、搭乗率と単価が高い8時便を設定したいですが、利用者としては8時頃は1便でいいので、その他に10時頃にも便があったほうが便利です。
そのため、国交省が介在して、ダイヤを調整し、10時頃に便を設定し、14時頃にも便があるような運用にするという考え方が浮上します。
国交省は、これを「利用者利便の向上に資するダイヤの調整」と表現しています。
変更前は、同じ時間帯に異なる航空会社が重複して運航していて、利用者の時間帯の選択肢は3つしかありませんが、ダイヤ調整をおこない、等間隔化することで、変更後は利用者の選択肢が5つに増え、利便性が向上する、というわけです。
需要が減退した路線の対応
国交省は、さらに踏み込んだ類型として、需要が減退した路線における航空会社の対応イメージも提示しました。
複数航空会社で計5便を運航している路線で、需要が減退した場合、現状の対応は、それぞれが減便するか、どちらかの会社が撤退するか、という対応になります。
これに対し、国交省は「利用者利便の向上に資すると考えられる」取り組みとして、複数社が協調して時刻と便数を調整したり、1社に運航を集約しコードシェア(共同運航)を実施する方法を示しました。
便数調整かコードシェアか
このとき、「便数調整」は、高需要便をどの会社が運航するかが難しい問題になります。また、他路線との接続など、時間帯ごとや、会社ごとに存在する需要に適合しないおそれがあります。
いっぽう、「コードシェア」ならば、こうした問題が生じません。ただし、運航航空会社が1社になることで、運賃面での不利益(高止まり)が生じる可能性があります。
コードシェアで競争が維持されるか
国交省資料では、このコードシェアの運賃面の課題について、さらに状況を調査しています。
それによれば、福岡~天草(AMX、JAL、ANA共同)や、小牧~福岡(FDA、JAL共同)を例に挙げ、「コードシェア便においては、各社がそれぞれ自社販売席の運賃を設定しているため、座席販売面での競争環境や利用者から見た選択肢は維持されている」としています。
コードシェア便でも、それぞれが自社席を仕入れて販売しているのだから、競争は確保されているという考え方です。先に触れた「競争環境の下で各航空会社の事業展開がなされ、市場において調整が図られる」という前提は守られるという判断を示したわけです。
JAL、ANAのコードシェアを認める方向性に
一般論ですが、国土交通省が「論点」を提示し、「方向性」を示し、「状況」を調査して、問題がないと示唆した場合、提示した方向性で政策を進める場合が多いです。
今回に当てはめると、「利用者利便の向上に資する場合」という条件で、JALとANAの便数調整やコードシェアを認める結果になるのではないか、ということです。
その場合に、独占禁止法などの関係法令に適合する形にしなければならないので、そのための調整を始めるということではないでしょうか。
伊丹~秋田をみてみると
現実に航空ダイヤを見てみると、同時間帯に複数社が運航していて、利用者としては使いにくいと思うことは、確かにあります。
たとえば、伊丹~秋田線をみると、伊丹発時刻はこのようになっています。
JAL 07:50
ANA 08:05
JAL 12:00
ANA 12:50
JAL 16:35
ANA 19:15
1日6便ありますが、朝が8時前後、昼が12時台にまとまっています。これを8時、10時、12時、14時にバラせば、利用者の利便性は高まります。
羽田~帯広をみてみると
別の例として、羽田→帯広線の場合、羽田発はこのようになっています。
ADO 06:55
JAL 07:50
JAL 11:15
ADO 11:45
JAL 12:55
ADO 17:00
JAL 17:30
この場合、1日7便ありますので、7時、9時、12時、15時、17時、19時の6便にすれば、1便を減らしても、利用者の利便性は高まるでしょう。
ADOはANAとコードシェアをしているので、JALとADOがコードシェアをすれば、3社共同運航となります。
ANAは、北海道路線でADOとの共同運航を進めてきたため、帯広に限らず、旭川や釧路、女満別路線などでも、JALを加えた3社共同運航が考えられます。
伊丹~函館線の場合
極端な例としては、伊丹~函館線があります。1日2便ありますが、伊丹発は以下のようなダイヤになっています。
JAL 11:00
ANA 11:10
1日2便がこのダイヤでは、さすがに利便性が悪いので、大手2社が共同運航「すべき」路線といえるかもしれません。
本当に競争が維持されるのか
航空会社の国内線の収益性が急速に悪化するなか、航空各社は協力してコストを下げながら、過度な運賃競争を避けたいと考えはじめているようです。いっぽうで、日本には新幹線という強力なライバルが地上に存在し、とくに本州・九州路線では、航空会社の運賃高騰の歯止めになっています。
ただ、北海道や沖縄路線は航空会社の独壇場といっていい状況ですし、各社でこうした「協調」がおこなわれれば、運賃が高止まりする恐れもあります。
国交省が予想するように「座席販売面での競争環境」が本当に維持されるのか、利用者としては、しっかり見ていきたいところです。(鎌倉淳)