神戸市と阪急電鉄が、北神急行の事業譲渡の協議を始めます。実現すれば、神戸市営地下鉄西神・山手線が谷上まで延伸する形になります。同線には阪急神戸線との直通運転構想もあります。今回の北神急行譲渡と関連があるのでしょうか。
六甲山を貫く鉄道
北神急行電鉄は、新神戸と神戸市北区の谷上とを結ぶ鉄道会社です。六甲山を貫く7.5kmの路線で、新神戸~谷上間を8分で結びます。1988年に開業し、神戸市営地下鉄西神・山手線と直通運転を開始。六甲山北側と神戸市中心部を劇的に短絡しました。
ただ、建設費用の負担が重く、開業以来、経営難が続きました。当初は神戸電鉄が親会社でしたが、さまざまな救済措置が施され、現在は施設を神戸高速鉄道が保有し、北神急行は運行を担う第二種鉄道事業者となっています。
大株主は、阪急電鉄と神戸電鉄、神鉄エンタープライズなど。阪急阪神ホールディングスの連結子会社です。
神戸市と阪急が協議開始
利用者サイドから見ると、北神急行は神戸市北部と三宮方面を結ぶ便利な交通機関ですが、運賃の高さが負担です。神戸市の補助金が投入されていますが、運賃は360円。三宮まで利用する場合、神戸市営地下鉄の初乗り運賃が加算されるので、総額で540円にもなります。神戸市北部のニュータウン開発は停滞していますが、この高運賃もネックの一つとされてきました。
状況を改善しようと、このほど、神戸市が阪急電鉄に対し北神急行線の事業譲渡の協議を申し入れ、阪急が合意しました。2018年12月27日に発表された合意内容は、以下の通りです。
・北神急行線は、都心まで約10分という極めて優れたアクセス性を有し、通勤・通学の足として、また台風・豪雨等の発生時にも都心と北区を結ぶ公共交通インフラとして極めて重要な役割を担っている。
・しかしながら、これまで北神急行電鉄の自助努力のほか、関係者が運賃低減をはじめ様々な支援を講じてきたものの、他の交通機関と比しキロ当たり運賃は依然として高いこと等から乗車人員は伸び悩んでいる。
・そこで神戸市では、今後人口減少社会・高齢社会を迎える状況の中、このインフラを安定的に運行し、利用者利便性の向上を図ることが、北区・北神地域の更なる魅力向上に繋がるものであるとの認識のもと、運賃低減に向けた検討として、神戸市交通局での一体的運行(阪急電鉄グループからの資産譲受)の可能性について、阪急電鉄に協議を開始することを提案した。
・阪急電鉄では、今回の提案はグループの重要な事業拠点である神戸三宮の活性化につながるものと考え、神戸市との協議に応じることとした。
現段階では、協議開始について合意したのみで、事業譲渡について合意したわけではありません。とはいえ、阪急は「今回の提案はグループの重要な事業拠点である神戸三宮の活性化につながる」と評価しているわけで、譲渡実現の可能性は高いと言えそうです。
運賃は半額に?
事業譲渡が実現した場合、新神戸~谷上間は市営地下鉄に組み込まれ、運賃を値下げすることができます。
三宮~谷上間は8.8km。現在の神戸市営地下鉄の運賃水準をそのまま当てはめるなら、270円に相当し、現状の半額となります。
実現すれば、神戸市北部の居住者には朗報です。一方で、神戸電鉄への影響は大きくなります。たとえば、山の街から三宮へ向かう場合、神鉄三田線の新開地経由は560円です。
谷上経由は現状で780円ですが、北神急行線の市営化が実現すれば、510円程度になる可能性があるわけです。時間的にも谷上経由が速いため、神鉄三田線の鈴蘭台~谷上間の利用者は減少しそうです。
このエリアでは、神戸市バスの利便性も高いため、北神急行が神戸市営に移管された場合、神鉄三田線の経営は市営交通により圧迫されることになります。一方で、神鉄三田線の谷上以北については、北神線の運賃が下がれば利用者増の要因になるという側面もあります。
阪急・地下鉄直通構想
ところで、阪急神戸線と地下鉄西神・山手線には直通運転構想があります。ただ、両線をどこで接続するかが難題で、新神戸、三宮、長田、板宿の4案が浮上しています。詳細は下記記事をご覧ください。
阪急・神戸地下鉄の相互乗り入れ「新神戸案」「長田案」を考える
このうち、線形的に接着が容易そうなのは新神戸案と長田案です。ただ、新神戸案の場合、阪急の列車をどこで折り返すかという運用上の問題が生じます。
これに対し、長田案の場合は、阪急三宮駅を現位置に残しますので、阪急の折り返し問題が生じません。阪急側は、三宮~長田間で神戸高速鉄道を走るため、同線の線路容量の問題が残るものの、トータルで実現へのハードルが低そうなのが、長田接着案とみられます。
神戸市の政策課題に合致
神戸市側からみると、仮に阪急と地下鉄が長田付近で連絡して直通運転をする場合、地下鉄の利用者が長田以東で阪急に流出するという問題が生じます。そのため、地下鉄としては応じにくい面もあります。
しかし、阪急と地下鉄が長田で連絡し直通運転すれば、西神エリアの利便性は向上するでしょう。さらに北神線を地下鉄に組み入れれば、神戸市北部の利便性も向上します。いずれも、神戸市郊外のニュータウンの人口減少を食い止めるという、神戸市の政策課題に合致します。
今回の協議開始において、神戸市側が「インフラを安定的に運行し、利用者利便性の向上を図る」ことを理由に掲げた以上、直通運転構想でも、住民利便性に優れた長田案で進展する可能性がありそうです。
阪急としても、採算性が高いとはいえない北神線を切り離し、神戸線と西神・山手線の直通運転が実現するなら、悪い話ではなさそうです。そう考えると、北神線事業譲渡と、阪急・地下鉄の直通運転構想は、つながっているのかもしれません。北神弓子さんが気になりますが。(鎌倉淳)