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「北海道&東日本パス」はなぜ廃止されなかったか。「週末パス」との決定的違いとは

値上げでも存続した理由

「北海道&東日本パス」が、2025年夏も、例年通りの期間で発売されることが決まりました。JR東日本では、「週末パス」などのフリーきっぷを廃止しているため、「北海道&東日本パス」の存廃も心配されましたが、生き残った形です。何が違うのでしょうか。

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JR北海道とJR東日本が乗り放題

北海道&東日本パスは、通常、春・夏・冬の年3回発売され、JR北海道・JR東日本の路線(新幹線除く)と、IGRいわて銀河鉄道・青い森鉄道・北越急行の快速・普通列車が乗り放題のきっぷです。

有効期間は連続7日間で、フリーエリア内は快速・普通列車の普通車自由席とBRTが乗降り自由です。新幹線や特急列車は原則として利用できません。

ただし、北海道新幹線「新函館北斗~新青森」間内の相互発着の場合に限り特例があり、別途特定特急券を購入すれば、立席(空席)での利用が可能です。

GV-E400羽越線

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2025年夏の北海道&東日本パスの概要

2025年夏の北海道&東日本パスの発売期間、利用期間、価格などは以下の通りです。

2025年夏の北海道&東日本パスの概要

・発売期間:2025年6月20日~2025年9月4日
・利用期間:2025年7月1日~2025年9月30日
・価格:大人 11,530円、小児 5,760円
・有効期間:連続する7日間
・発売箇所:JR北海道・JR東日本の主な駅、指定席券売機、主な旅行会社
・効力:JR北海道・JR東日本・青い森鉄道・いわて銀河鉄道・北越急行の普通・快速列車の普通車自由席、JR東日本のBRTが乗降自由

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利用期間は例年通り

2025年夏季版は、2025春季版に比べ、価格が200円値上げとなっています。4月1日に実施された、JR北海道の運賃値上げを反映したものです。

それ以外のルール変更はありません。発売期間、利用期間は前年と同じです。

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「週末パス」は廃止だが

JR東日本では、6月末限りで、「週末パス」「首都圏週末フリー乗車券」「東京フリー乗車券」の3つのフリーきっぷの販売を終了します。

「北海道&東日本パス」も、春季版は、例年と異なり3月末で利用期間が終了していました。そのため、2025年夏季版の発売を危ぶむ声もありました。

しかし、蓋を開けてみれば、例年通りの日程で発売となったわけです。JR北海道の運賃値上げを反映して価格は改定されましたが、それ以外は例年通りです。

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なぜ生き残ったか

では、「週末パス」などが廃止されるなか、なぜ「北海道&東日本パス」は生き残ったのでしょうか。

その理由を考えるのは難しくなく、「週末パス」と「北海道&東日本パス」の違いに着目すればいいでしょう。大きな違いは、新幹線に乗れるかどうか、という点です。

「週末パス」「首都圏週末フリー乗車券」「東京フリー乗車券」のいずれも、別途料金を支払えば、新幹線に乗車できます。というよりも、別料金で新幹線を使うことを織り込んでいる割引きっぷです。

一方、「北海道&東日本パス」は、原則として新幹線を利用できません。例外として、新青森~新函館北斗間だけは北海道新幹線を別途料金を支払えば利用できますが、実際に利用している人は限られます。

「週末パス」と「北海道&東日本パス」の大きな違いが「別料金で新幹線を利用できるか否か」という点であるならば、それが存廃を分けた要因の可能性が高そうです。

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「チケットレス70%」という大目標

背景として浮かんでくるのが、JR東日本が掲げる経営目標です。JR東日本は、同社のグループ経営ビジョン「変革 2027」において、新幹線のチケットレスの利用比率の目標値を、2025年度に70%、2027年度に75%としています。

2024年3月期決算説明会資料によりますと、実績値では56.4%となっています。ところが、2025年3月期の決算説明会資料には数字が示されませんでした。「70%目標」をほぼ達成したからか、それとも達成が難しくなってきたからかは、定かではありません。

JR東日本として、チケットレス化を推進し、2025年度(2026年3月期)に目標の70%に達するためには、割引きっぷの利用者にも、極力チケットレス(新幹線eチケット)で新幹線に乗車してもらう必要があります。

最近、新幹線eチケットの「トクだ値」で、60%割引などの大セールがおこなわれていますが、これもチケットレス比率を高める狙いがあるのでしょう。

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チケットレスに対応していない

ところが、「週末パス」「首都圏週末フリー乗車券」「東京フリー乗車券」は、いずれもチケットレスには対応していません。

別途料金を支払えば新幹線に乗車できるとはいえ、本体は紙のきっぷであり、新幹線eチケットを使うことはできないのです。

つまり、「週末パス」などは、JR東日本の経営方針にそぐわない商品というわけです。それが、このタイミングで廃止されたひとつの理由と考えられます。

もちろん、「経営目標」というたんなる理念の問題だけではないでしょう。「フリーきっぷ」に別途料金を払えば新幹線に乗れる、という仕組みが、実はやや複雑です。駅窓口や改札口で、係員が対応をしなければならない局面も多そうで、省力化の面でも負担感のあるきっぷです。

駅窓口や改札口の人手を削減しようとしている状況で、こうした手がかかるきっぷは極力減らしていきたいという、切実な現場の事情もあるのでしょう。

つまり、チケットレス非対応で、窓口や改札口の負担が大きいというのが、「週末パス」などの廃止の理由ではないか、というわけです。

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新幹線に乗れないので

一方、「北海道&東日本パス」は、基本的には新幹線に乗車できません。例外的に、北海道新幹線の新青森~新函館北斗間で、別途料金を払えば乗車できる、というだけです。

同区間はJR東日本のエリア外ですし、利用者数も限られていますので、この例外ルールを以て、廃止する理由にはならないでしょう。

また、「北海道&東日本パス」は自動改札を通過できますし、対応するための人手があまりかかりません。

さらに、「青春18きっぷ」が連続化により使いにくくなり、実質的に値上げされた状況で、「北海道&東日本パス」は東日本・北海道エリアでの競争力が相対的に高まっています。

JR東日本として、自社エリア内の利用者には、「青春18きっぷ」よりもこちらを使って欲しいという思惑もあるでしょう。

そうした事情で、現時点で存続という判断になっているのではないでしょうか。

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他の割引きっぷは?

簡単にいえば、「新幹線を利用できるか、できないか」が、「北海道&東日本パス」と「週末パス」の決定的な違いで、存廃を分けたポイントだった、ということになりそうです。

その背景には、JR東日本の「新幹線チケットレス率70%」という経営目標があります。チケットレスに対応できない新幹線利用可の割引きっぷは、経営上、縮小していかざるを得ないのでしょう。

となると、心配なのが、別途料金で新幹線が利用できる他の紙の割引きっぷです。具体的には、「休日おでかけパス」や「えちごツーデーパス」「信州ワンデーパス」「小さな旅ホリデー・パス」などです。

これらのきっぷは、「週末パス」などに比べれば新幹線利用の割合が小さいか、販売枚数が少ないとみられます。そのため、チケットレス化率への影響は小さく、窓口や改札口の負担もあまりなさそうです。

そう考えるとこのまま存続してもよさそうですが、いつ姿を消してもおかしくないともいえます。

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将来は復活できる?

JR東日本は、Suica処理のセンターサーバーへの集約を推進しています。これが全社的に完成すれば、複雑な割引きっぷも、チケットレスで処理できるようになるかもしれません。

すなわち、「週末パス」のような別途料金タイプの割引きっぷも、交通系ICカードに載せて、チケットレスで利用できるようになる可能性があります。

希望的観測をいえば、将来的に、「週末パス」がデジタル化されて復活する可能性もあるでしょう。というよりも、そうした未来に期待したいところです。(鎌倉淳)

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