函館線「新函館北斗~小樽廃止」に現実味。北海道の在来線は途切れてしまうのか

北海道新幹線並行在来線問題

北海道新幹線の並行在来線である函館~小樽間の大部分が廃止される可能性が現実味を帯びてきました。北海道新幹線の並行在来線の維持について、沿線自治体から消極的な声が高まっているためです。

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並行在来線対策協議会

北海道新幹線は、新函館北斗~札幌間の延伸工事が進められています。開業時には、並行在来線である函館線・函館~小樽間287.8kmがJR北海道から経営分離される予定で、この区間を鉄道として残すか、バス転換をするかが議論されています。

この問題を話し合うのが、沿線15市町などで構成する「北海道新幹線並行在来線対策協議会」です。協議会は函館~長万部間147.6kmを話し合う「渡島ブロック」と、長万部~小樽間140.2kmを話し合う「後志ブロック」に分けられていて、後志ブロックでは、すでに長万部~小樽間のバス転換を決めています。

函館~長万部間の存廃は未決定で、この問題を話し合う渡島ブロックの会議が2022年8月31日に開かれました。

キハ40藤代線

函館~新函館北斗間は維持へ

函館~長万部間には、函館市、北斗市、七飯町、鹿部町、森町、八雲町、長万部町の7市町があります。協議会では、これまでに、「全線鉄道維持」「全線バス転換」「函館~新函館北斗間のみ鉄道維持」の三つの選択肢を軸に方向性を議論してきました。鉄道を維持する場合は第三セクターに経営移管し、JR北海道は手を引きます。

各社報道によりますと、8月31日の会議では、函館市が函館~新函館北斗間の存続を要望。北斗市、七飯町も同意する姿勢を見せました。いっぽう、全線鉄道維持を積極的に主張する自治体はなかったようです。

そのため、北海道新幹線札幌延伸後の函館線は、函館~新函館北斗間が第三セクターに移管のうえ鉄道として存続し、新函館北斗~小樽間は廃止してバス転換、という形が現実味を帯びてきました。

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貨物まで考慮できない

新函館北斗~長万部間の鉄道廃止が本決まりになれば、衝撃的です。本州と北海道を結ぶ在来線の鉄路が、五稜郭~長万部間で途切れることになるからです。

いうまでもなく、この区間は本州と北海道の貨物列車の大動脈です。廃止すれば本州・北海道間の貨物輸送が分断されてしまいます。

朝日新聞8月31日付によりますと、貨物輸送について、函館市の工藤寿樹市長は記者団に対し、「我々は貨物の責任を負う立場にはない。新幹線に貨物列車を走らせる構想も出ているが、30年度までは間に合わない話。そんなところまで考慮できない」と説明したそうです。また、長万部町の木幡正志町長は「物流の問題は自治体の協議とは切り離して国と道が考えるべきだ」と主張したとのことです。

協議会で話し合うのは、地域の旅客輸送を担う交通機関としての鉄道の扱いに過ぎません。それについては新函館北斗~長万部間の函館線はなくてもいい、という意見が大勢を占めるに至りました。そのうえで、沿線自治体は、「貨物輸送については、別の枠組みで手段を考えるべき」と主張しているわけです。

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輸送密度200未満

沿線自治体がこうした結論に傾いた理由を推察するのは難しくありません。端的にいうと、地元住民は、函館線をほとんど利用していないのです。

これまでに公表された資料をみると、函館線新函館北斗~長万部間の普通列車の駅間通過人員は、数十人から200人程度。とくに、森~長万部間はほとんど数十人レベルです。

駅間輸送人員
画像:北海道新幹線並行在来線対策協議会資料

普通列車に限った輸送密度(2018年度)では、函館・新函館北斗間が4,261人に対し、新函館北斗~長万部間は191人にとどまります。新幹線開業後、特急の旅客が新幹線に移行してしまえば、この区間の輸送密度は200人に満たなくなるということです。

輸送密度200未満といえば、JR北海道が廃線を進めている留萌線などが該当します。こうした路線に対しては、国も道も支援せず廃線を進めてきたのですから、新函館北斗~長万部間について沿線自治体が廃止に傾いているのは、ある意味で「国の方針」に沿った考え方でもあるわけです。

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年間27億円の赤字

しかも、函館~長万部間は複線の幹線ですから、維持費は膨大です。今回公表された新たな試算によると、全線鉄道を存続する場合、30年間の累積赤字は816億円にのぼります。2021年4月に公表した試算値944億円からは縮小したものの、地方自治体の手に余る巨額赤字です。

赤字が大きくても利用者が多ければ税金を投入する意味もありますが、1日200人の利用者に対し、1年平均で約27億円もの赤字を負担することが、地方自治体の税金の使い方として適切なのかという問題があります。

となると、旅客輸送のみに着目した場合、函館~新函館北斗間のみ存続し、それ以外を廃止というのは、やむを得ない結論のように思えます。

海上輸送案は?

しかし、鉄道を廃止すれば、貨物輸送には大きな問題が生じます。

国交省もこの問題を早くから認識しており、これまでに貨物航路を増強して代替させる「海上転換案」を検討したこともあるようです。

これに関しては、2019年にみずほ総研が、北海道~本州間の貨物廃止で道内に1462億円の経済損失が生じるという調査結果を発表。トラックのドライバー不足などの問題もあり、海上転換案は沙汰止みになりました。

したがって、2031年度以降も、函館線を使った鉄道貨物輸送は維持しなければならない、というのが現実です。

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政府・与党合意

整備新幹線の並行在来線を走る貨物列車の取扱いについては、1996年の政府・与党合意で「鉄道貨物輸送については、並行在来線のJRからの経営分離後も適切な輸送経路及び線路使用料を確保することとし、新幹線鉄道上を走行することも含め、関係者間で調整を図る」とされています。

この合意からも、鉄道貨物の輸送経路を確保するのは政府の責任であり、地方自治体の責任ではありません。したがって、函館市長の発言は非難されるべきものではありません。

貨物調整金

実際、政府は、整備新幹線開通後の貨物列車の輸送経路を確保するために、貨物調整金という制度を創設しています。

貨物調整金というのは、JR貨物が並行在来線事業者に対して支払う線路使用料と、経営移管前にJR旅客会社に対しJR貨物が支払っていた線路使用料の差額を、鉄道・運輸機構がJR貨物に支払うものです。この財源の一部には新幹線の貸付料の一部が充てられています。

線路使用料は、JR旅客会社と並行在来線会社で算定方法が異なり、並行在来線のほうが高くなります。JR線が並行在来線会社に移管された際、JR貨物の運行コストが増えないように、国が助成する仕組みが貨物調整金です。

貨物調整金は、並行在来線会社への間接的な補助金という側面があります。函館~長万部間を第三セクター化した場合の試算では、並行在来線会社の収入の8割は線路使用料となっていて、貨物調整金によって支えられる構図が想定されています。

ところが、この貨物調整金は、北海道新幹線札幌開業後の2031年度から見直されることが決まっています。したがって、その見直し内容によっては、試算の前提が崩れることもあるわけです。

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多角的に検討

国交省の「今後の鉄道物流のあり方に関する検討会」が7月に発表した『中間とりまとめ』では、「全国一元的な貨物鉄道輸送サービスの維持・発展」について「必要なコストを誰がどのように負担していくのか、その中で国からの支援はどうあるべきか、などについて関係省庁も含めて多角的に検討していく必要がある」と記しています。

この記述は重要で、国交省として、北海道を含めた「全国一元的な貨物サービス」を維持する姿勢を明確にし、「国からの支援」も認めた形です。そのうえで、費用負担について今後の検討課題としたわけです。

したがって、本州・北海道間の在来線の鉄路そのものは、政府の責任で、少なくとも貨物用として維持される可能性が高いでしょう。

制度設計を早期に

旅客用として維持するかは地元が決める話なのですが、貨物調整金の制度を変えるなら、それを決めてから、旅客を含めた新函館北斗~長万部間の存廃を決めるべきではないか、という気もします。

この問題は当然、北海道も認識していて、2023年度政府予算に対する『提案・要望』で「将来の貨物調整金制度のあり方が不透明な中では、北海道新幹線札幌開業後における並行在来線の地域交通確保の見通しが立てられないことから、2031年度以降における制度設計を早期に示すこと」と記載しています。

しかし、現実には、それが示されないなかで、函館線の運命が決されようとしているわけです。腑に落ちない感想を抱くのは、筆者だけでしょうか。(鎌倉淳)

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