9月25日に刊行された『鉄道未来年表』(鎌倉淳著、河出書房新社)には、原稿にしながら、ページ数の都合でやむなく削除した項目があります。その一部を、「補遺編」としてご紹介します。今回は、「福岡市営地下鉄の延伸計画」です。
(※以下は、『鉄道未来年表』で未掲載となった項目の原稿を基に記事化したものです)
空港線の福北ゆたか線接続計画
福岡空港は、国内の主要空港でもっとも市街地に近く、利便性の高さで知られている。地下鉄アクセスも良好で、鉄道ターミナルの博多駅から2駅という近さだ。すでに十分便利なのだが、さらに鉄道アクセスを充実させる計画がある。
ひとつは、福岡市営地下鉄空港線の延伸だ。空港線は姪浜~福岡空港間13.1kmを結ぶ路線だが、福岡空港駅から延伸して、JR篠栗線(福北ゆたか線)に接続させる構想が浮上している。
2022年に公表された基礎調査結果では、福北ゆたか線の接続駅は長者原駅と原町駅のいずれか。福岡空港駅から両駅のどちらかを結ぶ形で、計4つのルート案が検討された。ただ、いずれも採算性で難がある。
七隈線の空港国際ターミナル延伸計画
また、福岡市営地下鉄七隈線を博多駅から福岡空港の国際線ターミナルまで延伸する構想もある。七隈線は2023年に博多駅まで延伸開業したばかりなので、空港延伸の検討はこれからだ。
七隈線は博多開業で利用者が非常に増えていて、勢いのある路線だ。空港の国際線利用者はコロナ前で年間600万人以上いたので、着実な需要もある。そう考えると、空港線の延伸よりも、七隈線の国際線ターミナル延伸のほうが、実現性としては高そうな印象がある。
福岡市の姿勢は?
空港線の延伸も、七隈線の延伸も、当事者である福岡市が決定した事項はない。
2023年3月の福岡市議会条例予算特別委員会生活環境分科会では、七隈線の国際線ターミナル延伸に関する報道について問われた交通局側が、計画について「承知していない」と答えている。
ただ、重ねて「福岡空港国際線までの延伸について、交通局内で協議したことはあるのか」と問われると、「全く考えたこともないとは言わないが、交通局としてこれまで検討したことはない」と、やや微妙なニュアンスに変わっている。非公式な構想としては存在しているようである。
既存計画は2路線
福岡市の地下鉄計画路線として、公式に残されているのは2路線ある。ひとつが天神南駅からウォーターフロントに抜けるルート、もうひとつが薬院駅から住吉通りを経由して博多駅に抜けるルートである。
しかし、七隈線が博多駅まで延伸したいま、これらのルートに着手する可能性はほとんどない。福岡市としても事業採算性に課題があるとみており、「長期的な視点に立った検討を行う路線」として棚上げしている。
2036年度に累積黒字化
いっぽうで、福岡市は、2025年度に福岡市都市交通基本計画の改定を予定していて、そのなかに地下鉄延伸を盛り込む検討をしている。
先の福岡市議会の質疑でも、交通局側は「現時点では白紙の状況であると思うが、様々な意見を聞く中で新たな路線が検討される可能性はあるのではないかと考えている」と、延伸計画の検討については認めている。
2024年9月に公表された「福岡市地下鉄長期ビジョン」で延伸計画は触れられていない。ただ、そのなかで示された収支計画によれば、2036年度に地下鉄の累積損益が黒字化する見込みである。収支が見込み通りに推移すれば、将来的に地下鉄の延伸事業に着手する余力はありそうだ。(鎌倉淳)
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【本書の内容構成】
序章 鉄道未来年表 2025~2050
1章 人口減少時代の鉄道の未来
2章 東京圏の鉄道の未来
3章 大阪圏の鉄道の未来
4章 新幹線と並行在来線の未来
5章 地方鉄道の未来
6章 車両ときっぷの未来
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