「エクスプレス予約」値上げの研究。年会費1100円の価値はあるか?

2023年秋から

新幹線の「エクスプレス予約」が値上げに踏み切ります。通年同額としていた価格体系も変更。年会費1,100円で有料会員を続けるメリットはあるのでしょうか。

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2023年秋に値上げ

JR東海、JR西日本、JR九州の三社は、東海道・山陽・九州新幹線のインターネット予約サービス「エクスプレス予約」(年会費1,100円)「スマートEX」(年会費無料)の価格体系を変更すると発表しました。実施は2023年秋ごろです。

変更の柱は、大きく分けて、次の三つです。

1.「EX予約サービス」の値上げ
2.「EX予約サービス」に、シーズン別料金と「のぞみ」「みずほ」加算料金を導入
3.「スマートEX」の山陽新幹線区間で「のぞみ」「みずほ」を値上げ

「EX予約サービス」は、有料会員サービス「エクスプレス予約」の主力商品です。通年同額、指定席も自由席も同価格でしたが、このうち指定席について値上げします。それが「1」です。

さらに、指定席について、繁忙期に増額し閑散期に減額するシーズン別料金を導入したうえで、「のぞみ」「みずほ」には加算料金を上乗せします。紙のきっぷと同様のしくみにするわけです。

「1」はEX予約サービス指定席の割引率縮小、「2」は基本的なシステム変更を意味します。いずれも「エクスプレス予約」のメリットの根幹にかかわる部分なので、利用者の衝撃も大きいようです。

新幹線N700米原駅

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主要区間の新価格

改定により、EX予約サービスで「のぞみ」を利用する場合、主要区間で価格がどう変わるかみてみましょう。

EX予約サービス主要区間の価格改定
主要区間 正規価格 現価格 新価格 値上額
東京~静岡 6,470円 5,740円 6,160円
(▲310円)
+ 420円
東京~名古屋 11,300円 10,310円 10,880円
(▲420円)
+ 570円
東京~京都 14,170円 13,070円 13,680円
(▲490円)
+ 610円
東京~新大阪 14,720円 13,620円 14,230円
(▲490円)
+ 610円
東京~岡山 17,770円 16,300円 17,220円
(▲550円)
+ 920円
東京~広島 19,760円 17,990円 19,180円
(▲580円)
+1,190円
新大阪~博多 16,020円 14,600円 15,640円
(▲380円)
+1,040円
新大阪~熊本 19,620円 18,300円 19,240円
(▲380円)
+ 940円
新大阪~鹿児島中央 23,050円 21,730円 22,670円
(▲380円)
+ 940円

※正規価格は、紙のきっぷの「運賃+料金」。新価格の「▲」は正規価格との価格差。

最繁忙期の値上げ大きく

東京~名古屋間の通常期の場合、「のぞみ」指定席利用で570円の値上げ。東京~京都・新大阪間は610円の値上げとなります。

シーズン別特急料金が導入されるため、東京~名古屋間は繁忙期770円、最繁忙期970円の値上げです。東京~京都・新大阪間では、繁忙期810円、最繁忙期1,010円の値上げとなります。

時期により、かなりの値上げとなるわけです。

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「のぞみ・みずほ」「ひかり・さくら」の価格差

新価格体系では、紙のきっぷと同様に「のぞみ」「みずほ」への加算料金を導入します。そのため、同じ区間で「ひかり」「さくら」との価格差が生じます。

「のぞみ」「みずほ」と「ひかり」「さくら」の価格差について、主要区間をみてみましょう。

EX予約サービス
「のぞみ」「みずほ」の価格差
区間 のぞみ・みずほ ひかり・さくら 価格差
東京~名古屋 10,880円 10,670円 210円
東京~新大阪 14,230円 13,910円 320円
東京~岡山 17,220円 16,580円 640円
新大阪~岡山 6,150円 5,830円 320円
新大阪~広島 10,570円 10,040円 530円
新大阪~博多 15,640円 14,900円 740円

 
EX予約サービスの「のぞみ」「みずほ」「ひかり」「さくら」の価格差は、正規料金の価格差と同じです。つまり、EX予約サービスにおいて、「のぞみ」加算運賃に対する割引が、完全になくなることを意味します。

山陽新幹線区間では、「のぞみ」「みずほ」と「さくら」の価格差が大きいため、これからはエクスプレス予約で「さくら」を優先する人が増えるかもしれません。

EX予約サービスでは「のぞみ・ひかり」が通年同額というのが、大きな特徴でした。「どの列車をいつ利用しても同じ値段」なので、出張申請や精算で手間がかからないという社用メリットもあったのですが、それが失われることになります。

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スマートEXは「200円引き」の原則回帰

「スマートEX」に関しては、「3」に示した通り、山陽新幹線区間の「のぞみ」「みずほ」のみ値上げとなります。東海道・九州新幹線区間では価格を据え置きます。

スマートEX主要区間の価格改定
主要区間 正規価格 現価格 新価格 値上額
東京~岡山 17,770円 17,460円 17,570円
(▲200円)
+110円
東京~広島 19,760円 19,240円 19,560円
(▲200円)
+320円
新大阪~博多 16,020円 15,400円 15,820円
(▲200円)
+420円
新大阪~熊本 19,620円 19,000円 19,420円
(▲200円)
+420円
新大阪~鹿児島中央 23,050円 22,430円 22,850円
(▲200円)
+420円

※正規価格は、紙のきっぷの「運賃+料金」。新価格の「▲」は正規価格との価格差。
 
東海道・九州新幹線区間での価格据え置きは、そもそも両新幹線のスマートEX価格は、所定価格の200円引きとなっていて、価格改定の余地がほとんどないためでしょう。

山陽新幹線区間に関しては、2023年4月に「のぞみ」「みずほ」料金を値上げした際、「スマートEX」のみ据え置きとしていました。この据え置き分を、新価格体系導入時に値上げするものです。

要は、紙のきっぷの値上げを、半年遅れでネット予約にも反映させる、ということです。一種の激変緩和措置が終了する、と捉えればよいかもしれません。

これにより、スマートEXは、全区間で「正規価格の200円引き」という原則に戻ることになります。

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元が取りにくく

先にも書きましたが、EX予約サービスの正規料金に対する割引額をみると、東京~名古屋間で420円、東京~京都・新大阪間で490円です。エクスプレス予約の年会費は1,100円ですので、1往復半で元が取れることになります。

ただし、EX予約サービスには特定都区市内駅制度が適用されません。特定都区市内駅制度とは、東京都区内や名古屋市内、大阪市内などのどの駅で乗降しても運賃が同額というシステムで、正規料金の紙のきっぷで適用されます。

たとえば新宿~大阪間でEX予約サービスを利用する場合、新宿~東京(210円)と新大阪~大阪(170円)の計410円がかかります。特定都区市内駅制度が適用される正規料金との価格差は80円にとどまりますので、年会費の元を取るには7往復が必要になります。

つまり、新幹線駅間だけを利用するならともかく、都区市内駅を活用する人には、価格的なメリットはかなり減衰したといえます。

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EX予約とスマートEXの価格差

無料会員制度のスマートEXとの価格差も縮まりました。

下表は、EX予約サービスとスマートEXの価格比較です。

EX予約サービスとスマートEXの価格差
区間 EX予約サービス スマートEX 価格差
東京~名古屋 10,880円 11,100円 220円
東京~新大阪 14,230円 14,520円 290円
東京~岡山 17,220円 17,570円 350円
東京~広島 19,180円 19,560円 380円

 
EX予約サービスは、スマートEXに対して、東京~名古屋間で220円、東京~京都・新大阪間で290円安いだけです。

エクスプレス予約の年会費1,100円は、2往復から2往復半で元がとれるという計算です。スマートEXも特定都区市内駅が適用されませんので、その点はエクスプレス予約と同じです。

東海道・山陽新幹線には「EX早特」などの割引きっぷがあり、年会費無料のスマートEX会員でも利用できます。JR東海ツアーズの「ぷらっとこだま」や、ダイナミックパッケージなどの旅行商品もあります。

そうしたさまざまな商品も活用することを考えると、東名阪で実質的に片道200~300円程度の割引にとどまるEX予約サービスを目当てに、年1,100円の有料クレジットカード会員になる必要はないのでは、という判断もあり得るでしょう。

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なんとも微妙に

「エクスプレス予約」が登場した2001年は、インターネットによる列車予約じたいが斬新で、変更自由という仕組みにも価値がありました。

しかし、2023年の今日、列車のネット予約は広く普及し、JR各社が駅窓口を減らすほどになりました。変更自由という仕組みやチケットレス乗車も、エクスプレス予約だけの特権ではなくなっています。

クレジットカードの枚数が増えるのは煩わしいという側面もあります。一般の個人利用者からみて、これからの「エクスプレス予約」にどれだけの価値があるのかを考えると、なんとも微妙というほかありません。

一方で、年に何度も東海道・山陽新幹線を利用するビジネスマンには、依然として利用価値は高いという見方もあるでしょう。

ただ、自由席と指定席、「のぞみ」「みずほ」と「ひかり」「さくら」に価格差が生じることにより、出張規程で利用できる列車や座席を制限する会社も出てくるでしょう。その点で、社用ビジネスマンにとっても、人ごとではない価格体系の見直しになりそうです。(鎌倉淳)

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