地方私鉄、若手運転士の離職が進む? 平均年齢が急上昇中

参議院調査室レポートを読む

地方私鉄で運転士不足が問題になっています。コロナ禍後、平均年齢が急上昇しているデータもあり、若手の離職が進んでいる様子がうかがえます。

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『立法と調査』にレポート

人口減少による人手不足が深刻となっています。交通機関では、バスの運転士不足が連日のように報じられていますが、鉄道会社の運転士不足も顕在化し始めています。とくに、地方私鉄では、運転士不足による減便が現実に生じています。

こうした状況を背景に、参議院調査室が発行している『立法と調査 470号』では、「地方部における鉄道運転士不足の現状と対応策」(大嶋満/国土交通委員会調査室)と題するレポートを掲載しました。地方私鉄の置かれた状況がよくわかる内容ですので、紹介してみます。

高松琴平電鉄

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運転士数は減っていない

まず、鉄道会社の運転士数の推移を見てみると、2019(令和元)年度から2021(令和3)年度の3年間で、33,089人が33,790人に増えています。つまり、2021年度までは運転士数の減少は見て取れません。JRも大手私鉄も中小私鉄も、この傾向に大きな差はありません。

鉄道運転士数の推移
画像:「地方部における鉄道運転士不足の現状と対応策」(立法と調査470号、大嶋満/国土交通委員会調査室)

ただし、鉄道における運転士不足が顕在化しはじめたのは、コロナ禍が収束した2022(令和4)年度以降なので、このデータからは、2021年度までは大丈夫だった、という話にとどまります。

また、マクロ的には運転士不足は生じていなかったとしても、個別事業者でみれば異なる状況があり得るのは、いうまでもありません。

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大手と中小の給与の違い

次に、企業規模別の運転士の現金給与額の推移をみてみましょう。

鉄道運転士の給与額
画像:「地方部における鉄道運転士不足の現状と対応策」(立法と調査470号、大嶋満/国土交通委員会調査室)

基となるデータは「賃金構造基本統計調査」です。全体的に、給与水準は横ばいで推移していますが、事業規模による格差が大きいのが見て取れます。

2023年6月分を例に取ると、従業員1,000人以上の大手鉄道会社の運転士の平均給与は42万8100円。100人~999人の中規模鉄道会社では39万7300円、100人未満の小規模鉄道会社では29万2800円となっています。

小規模鉄道会社とは、地方のローカル私鉄または第三セクター鉄道とみられますが、給与水準が大手の7割程度にとどまることがわかります。

なお、この現金給与額には、基本給、職務手当、精皆勤手当、通勤手当、家族手当、超過労働給与額も含まれます。

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平均49歳で29万円

上表に対応する企業規模別の運転士の年齢をみてみましょう。

運転士の平均年齢
画像:「地方部における鉄道運転士不足の現状と対応策」(立法と調査470号、大嶋満/国土交通委員会調査室)

小規模鉄道会社が48.9歳と高く、大手が42.1歳、中規模が40.5歳となっています。平均年齢が約49歳と高いローカル私鉄の平均給料が、約29万円ともっとも安いのです。

おそらくはJRを退職したシニア運転士を雇用しているといった理由もあるでしょう。したがって、給与と年齢の「平均」を並べて、大手が「42歳で43万円」小規模地方私鉄が「49歳で29万円」ということにはなりませんが、格差はみてとれます。

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5年で10歳も跳ね上がる

それよりも気になるのは、平均年齢の推移です。小規模鉄道会社の平均年齢が、2019(令和元)年に38.5歳だったところ、2023(平成5)年に48.9歳になり、5年間で約10歳も跳ね上がっているのです。

元となるデータは賃金構造基本統計調査で、調査の対象となる事業所は毎年無作為に選ばれているため、厳密な意味でのデータの連続性はありません。とはいえ上昇傾向は明らかで、5年で10歳となると、データ抽出で生じる誤差とも片づけられません。

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免許を取って転職する

レポートでは「急激な年齢上昇の背景として、若手運転士の離職が進んだ可能性も考え得る」と推測しています。

「都市部を運行する企業規模の大きい鉄道事業者と、企業規模の小さい地方部の鉄道事業者では、給与面で相当程度の差」があるとしたうえで、「給与面のギャップについては、(中略)地方部における鉄道運転士の離職を生む一因となっている可能性がある」とみています。

給料の安い地方私鉄から、給料の高いJRや大手私鉄へ、若手運転士が転職していっているのではないか、ということです。

レポートでは高松琴平電気鉄道を例に挙げ、「中途で流出することが多く、中途採用に注力しているが、同社のような中小事業者で動力車操縦者運転免許を取得し、待遇のよい大手事業者に転職する場合もあり、新卒採用のみでは必要な人数を賄えない」としています。

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国交省も対策

地方部における鉄道運転士不足は、すでに深刻な問題と捉えられていて、国土交通省も対策を取り始めています。

まず、動力車操縦者試験の受験資格を見直し、受験要件を20歳以上から18歳以上に引き下げ、視機能の基準についても緩和しました。

そして、鉄道運賃の収入原価算定要領で人件費の算定方法を見直し、運賃改定時に賃金上昇を反映しやすくしました。

さらに、外国人の特定技能制度の「特定技能1号」の対象に鉄道を追加しています。鉄道では、運転士や車掌も対象に含まれていて、在留期間は最長5年です。

高校を卒業したばかりの若者や外国人が運転士になれるようにして、給料も上げやすくした、ということです。

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切り札は自動運転だが

ただ、こうした施策で運転士不足を克服できるかというと疑問でしょう。若年人口の減少は急激に進んでおり、人材は争奪戦です。滞在5年間の外国人に頼るのも不安定です。

結局のところ、人手不足を克服するには、省人化、つまり自動運転を目指すほかありません。

しかし、自動運転が運転士不足を解決するかというと、そう単純な話でもありません。

レポートでは、「自動運転が今後普及していくとすれば、鉄道運転士の職業としての安定性や将来性への不安が生ずる」と指摘し、自動運転が広まることで、運転士の希望者が減る可能性を示しました。

将来的に鉄道運転士という仕事がなくなる可能性があるのならば、その後、運転士がどういうキャリアを描けるのか、志望者は不安になります。レポートでは「このような観点を踏まえた、志望者の視点に立った採用活動の展開が重要」とまとめています。

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企業としての将来性を示す必要

地方鉄道会社が、一定の給与水準と企業としての将来性を示さなければ、若者から就職先として選ばれない、という話です。

運転士がクローズアップされやすいですが、問われているのは鉄道会社そのものの将来性なのでしょう。

地方鉄道会社の将来展望は、その鉄道がすっと走り続けることが前提となります。しかし、人口減少時代に入り、各地でローカル線の整理が話題になるなかで、その前提を共有するのは簡単ではありません。

特効薬は見つかりませんが、少なくとも、自治体を初めとした地域社会が鉄道を支える体制をきちんと示す必要はありそうです。(鎌倉淳)

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