寝台列車「カシオペア」はいつまで走り続けるのでしょうか。車齢は25年を経過し、引退の噂も絶えません。
1999年に運行を開始
「カシオペア」は、1999年に寝台特急として上野~札幌間で運行を開始しました。使用車両のE26系はJR初のオール2階建寝台客車で、全室A個室という豪華列車です。
2016年に定期運行を終了し、以後は「カシオペアクルーズ」「カシオペア紀行」の名称で、団体臨時列車として運行してきました。近年は「カシオペアクルーズ」の設定はなくなり、「カシオペア紀行」として運行されています。
2024年7月には運行開始25周年を記念した特別プロモーションをスタート。旅行商品や記念グッズが発売されています。
機関車の老朽化
こう書くと、定期運行終了後も、ツアー用として堅調に運行を続けているようにも見えますが、実際のところ、「カシオペア」には、引退の噂も絶えません。車齢25年となると、客車としてもそろそろ老朽化が気になるころです。
さらに、機関車の問題があります。現在、「カシオペア」のツアー列車を牽引するのは主にEF81ですが、JR東日本が所有しているのは9機程度です。いずれも1970年代に製造されたもので、E26系客車よりも老朽化が心配されています。
ツアーで5時間以上の遅延
実際、2024年9月22日に運行された「カシオペア紀行」の体験乗車では、EF81-80型機に不具合が見られたようで、黒磯駅で長時間停車しています。この日は、集中豪雨の影響で、大河原駅や白石駅であわせて4時間程度も抑止されたこともあり、終点上野駅には5時間以上の遅れで到着。「カシオペアが大幅遅延」と話題になりました。
この日の運行は「カシオペア乗車体験ツアー」という名称で設定されていたもので、個室1室につき、高校生以下が1名以上含まれることが条件になっています。つまり、子ども同伴が条件のツアーです。
設定区間は仙台駅から上野駅で、仙台11時45分発、上野17時30分到着の予定でした。5時間45分のツアー時間中に、カシオペアスイートを見学したり、ダイニングカーを交代制で利用できたりといった、「車内体験」ができることがポイントでした。
じつは筆者も小学生の息子と参加していたのですが、シール集めなどのイベントも設定されていて、スタッフの対応もやわらかく、子どもが気兼ねなく楽しめるよう工夫されていました。
運転見合わせで
ツアー自体は素晴らしかったのですが、仙台を出発してしばらくして、槻木駅を通過したあたりから徐行運転となり、大河原駅で抑止。その先の白石~福島間が豪雨で運転見合わせとなり、線路点検の後、運転再開まで3時間程度かかりました。少し進んで白石駅でも抑止があり、結局、約4時間遅れの運行となりました。
さらにその後、機関車の点検で黒磯駅でも1時間程度抑止。続いて宇都宮駅でも点検がありました。筆者は振替乗車で新幹線に乗り帰京しましたが、SNSによれば、最終的に上野駅に到着したのは23時10分ごろとなったようです。
鉄道ファンなら、5時間半のツアーが11時間となり、「2倍楽しめた」と喜ぶ側面もあるでしょう。最後まで運行を継続したJRと旅行会社にも敬意を表したいところです。筆者も一人なら、上野駅まで乗り通したかったのが正直なところです。
とはいえ、小学生を深夜まで連れ回すわけにもいかず、残念ながら途中降車しました。「子連れツアー」という性質上、筆者同様に、新幹線に振り替えた旅客は少なくありませんでした。
老朽化は気にならないが
久しぶりに「カシオペア」の車両に乗ってみると、作り込まれた車内構造の精緻さに改めて驚かされます。狭軌車両の限られたスペースに、よくこれだけの設備の個室を組み込んだと、感心するほかありません。
一方で、通路は狭く、階段だらけで、バリアフリー的には課題があります。今のガイドラインに基づいてこうした車両を作るとなると、相当な配慮が必要になるでしょう。
車内設備の老朽化は、見た目には気になりません。古くなっている部分はありますが、レトロな高級感も残されていて、まだ使用に耐えうるように思えます。少なくとも、24系客車の末期に比べれば、「全然大丈夫」です。
心配なのは機関車です。この日の牽引機はEF81-80で、1973年の製造。車齢50年を超えているわけです。それに不具合が生じたわけですから、今後どうなるのか気がかりです。JR東日本は機関車の保有数を減らしていて、近年導入された新型機はありません。
ただ、今回は5時間以上の大幅遅延とはいえ、その原因のほとんどは大雨による抑止です。たまたま機関車のトラブルと重なったにすぎないと捉えることもできます。結局は上野まで走り通したのですから、過度な心配は不要かもしれません。
子どもたちの反応
まったく別の側面で気になったのは、子どもたちの反応です。筆者も含め、親世代は「ラウンジカー」や「カシオペアスイート」「ダイニングカー」と興奮して、子どもを立たせて記念撮影をするのですが、当の子どもたちは、それほどはしゃいでいるわけではありません。
筆者の息子だけかと思いきや、他の親子を見ていても、興奮しているのは、どちらかといえば親のほうです。
いまの親は、寝台特急の衰退期に育った世代で、若い頃に「カシオペア」は憧れの列車でした。いまツアーに参加しているのは、一定の経済力が身について、ようやくこうした列車に手が届くようになった層と察せられます。要は、筆者も含めた中高年が、往年の残像を追いかけているわけです。
次世代の子どもたちからすれば、「カシオペア」は過去の列車で、縁遠い存在です。ですから、そもそも興奮する理由に乏しいのでしょう。博物館を見学しているくらいの認識でしょうか。
「寝台列車」と聞くと、中高年の鉄道ファンはつい興奮してしまいがちですが、これからの世代は、そうならないかもしれません。
社内でも噂に
インターネット上では、「カシオペア」は近いうちに引退するという憶測も飛び交っています。乗務員に聞いてみると、「そういう噂は社内でもあります」と否定しない方もいました。ただ、噂は噂であり、確たる事実ではありません。
事実としては、2024年は11月までのツアー催行予定が公表されています。また、25周年キャンペーンは2025年3月末まで実施されますので、それまでに列車の運行が終了するとも考えづらいです。
実際に引退となれば、かなり前からの告知もおこなわれるでしょうから、当面は運行が継続される可能性が高そうです。
とはいえ、車両と機関車の車齢を考えれば、いつ引退となってもおかしくはありません。引退が発表されれば、いま以上にツアーの予約が難しくなるでしょう。乗ってみたい、とお考えの方は、お早めに。(鎌倉淳)
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