JR東日本は、中央線特急「あずさ」「かいじ」に新たな着席サービスを導入すると発表しました。指定席と自由席の区別をなくし、「空いていれば座っていい」というシステムで、常磐線特急「ひたち」「ときわ」に導入されている制度と同じです。利用者からみて、どのように変わるのでしょうか。
2019年春にE353系に統一
中央線特急「あずさ」「かいじ」の定期列車は、2019年春から新型車両E353系に統一されます。E353系は全ての座席上方にランプが設置してあり、これを使った新たな着席サービスと特急料金制度を導入します。
新たな着席サービスの対象となるのは、千葉・東京・新宿~甲府・松本・南小谷間で運行される特急「あずさ」「かいじ」などの普通車全車両。新サービスでは、普通車の「指定席」「自由席」の区別がなくなり、全ての座席が指定可能となります。
事実上の全車指定席
新サービスは、事実上の「全車指定席」ですが、座席の指定を受けなくても、空席があれば座ってもかまいません。
座席上方に設置されているランプが「緑」ならその座席は指定されていて、「赤」なら指定されていないことを示します。「黄」は、まもなく指定されている区間になることを示しています。
座席の指定を受けない場合は、「座席未指定券」を購入して乗車し、「赤」のランプの座席に座ることになります。
座席未指定券利用の注意点
「座席未指定券」利用の場合、注意点として、ランプが「赤」でも、途中でその色が変わることがある、ということです。
乗る前は空席だった座席が、乗っている途中に誰かに販売されてしまったら、ランプは「黄色」→「緑」と変わります。つまり、空席に座ったと思っても、乗っている間にその席が売られてしまい、途中駅で立つハメになってしまうこともあるのです。
これまでの自由席なら、一度確保した座席は降りるまで有効でしたが、「あずさ」「かいじ」の新着席サービスではそうではありません。
座席指定の料金は不要
新たな着席サービスでは、座席を指定しても、指定しなくても料金は同額です。つまり、座席指定のための追加料金はかかりません。
列車と座席を指定する場合は「指定席特急券」を買い、指定しない場合は「座席未指定券」を買います。満席の場合は座席指定ができませんが、「座席未指定券」を買えば、任意の列車、車両に乗車できます。
車内で特急券を買った場合、座席指定ができず、「座席未指定券」の扱いになります。車内料金は事前料金より260円高く設定されていますので、車内で特急券を買った場合、旅客は「高い上に指定できない」という不利益を被ります。
新たな特急料金
新たな着席サービスの特急料金は以下の通りです。これまでの価格と比較してみます。
これまでの中央線特急の価格は「A特急料金」(標準価格)と「B特急料金」(割安な価格)に分かれていて、竜王以東が割安なB料金、竜王以西がA料金です。AB両区間を通しで乗る場合は、A特急料金が適用されます。
営業キロ | 新料金 (事前料金) |
A特急料金 自由席 |
A特急料金 指定席 |
B特急料金 自由席 |
B特急料金 指定席 |
---|---|---|---|---|---|
50kmまで | 750 | 750 | 1,270 | 510 | 1,030 |
100kmまで | 1,000 | 1,180 | 1,700 | 930 | 1,450 |
150kmまで | 1,550 | 1,830 | 2,350 | 1,340 | 1,860 |
200kmまで | 2,200 | 2,160 | 2,680 | 1,730 | 2,250 |
300kmまで | 2,500 | 2,380 | 2,900 | 1,940 | 2,460 |
400kmまで | 2,850 | 2,590 | 3,110 | 2,160 | 2,680 |
※旧料金指定席料金はいずれも通常期。繁忙期は200円増し、閑散期は200円引き。
指定席は値下げ、自由席は値上げ
ご覧の通り、新料金制度では、100kmまでが1,000円で、200kmまでが2,200円、300kmまでが2,500円と、距離と価格が比例するわけではありません。
100㎞以内の特急料金が割安になっているため、たとえば立川~甲府間の指定席は、これまでB特急料金1,450円だったのが1,000円となり、3割も値下げとなります。しかし、自由席では70円の値上げとなります。
全体的には、旧料金の自由席から見れば、おおむね値上げ、指定席からみれば値下げになるケースが多くなっています。
また、新たな料金体系では通常期・繁忙期・閑散期の区分はなくなり、年間を通じて同一の料金となります。
新たなグリーン料金
グリーン車についてはこれまでと同様の指定席制度が維持されます。「座席未指定券」はグリーン車には設定されません。
グリーン料金も改定され、以下のようになります。
営業キロ | 新料金 | A特急料金 | B特急料金 |
---|---|---|---|
50kmまで | 1,260 | 1,780 | 1,540 |
100kmまで | 1,510 | 2,210 | 1,960 |
150kmまで | 3,090 | 3,890 | 3,400 |
200kmまで | 3,740 | 4,220 | 3,790 |
300kmまで | 5,070 | 5,470 | 5,030 |
400kmまで | 6,440 | 6,700 | 6,270 |
グリーン車は値下げ
グリーン車の新料金は、全体的に値下げとなっています。利用の多そうな新宿~甲府では、3,400円が3,090円に。新宿~松本が5,470円から5,070円になります。
「あずさ」「かいじ」のグリーン車は横4列で、アコモデーション的に普通車との差が小さいため、多少の値下げは適切かもしれません。
割引きっぷは縮小
新たな着席サービスの導入に合わせ、割引きっぷが縮小されます。具体的には、「あずさ回数券」「中央線料金回数券」「信州特急料金回数券」が、2019年春をもって販売を終了します。
かわりに中央線特急向けに「えきねっとチケットレスサービス」を開始します。新料金の一律100円引きです。
「えきねっとトクだ値(乗車券つき)」は、これまで35%割引でしたが、10%割引となります。かわりに早期購入割引として「お先にトクだ値(乗車券つき)」が30%割引で設定されます。「お先にトクだ値」は乗車日13日前の午前1時40分までの発売です。
割引きっぷ比較
利用者としては、これらの価格設定も気になるところです。主要区間で比べてみましょう。
区間 | 新所定運賃・料金 | トクだ値(新価格) | お先にトクだ値(新価格) | トクだ値(旧価格) | 回数券 |
---|---|---|---|---|---|
新宿~大月 | 2,320 | 2,080 | 1,620 | 1,790 | 2,190 |
新宿~甲府 | 3,820 | 3,430 | 2,660 | 2,670 | 2,880 |
新宿~松本 | 6,500 | 5,850 | 4,550 | 4,480 | 4,630 |
※回数券は、新宿~大月が中央線料金回数券、新宿~甲府、松本があずさ回数券の1枚あたり。
割引料金に関しては値上げ傾向であることがわかります。「お先にトクだ値」は、正直なところ取りにくく使いにくいので、「あずさ」「かいじ」にこれまでのような価格で乗ることは、難しくなるかもしれません。
これからは、チケットレスを基本にして、「トクだ値」「お先にトクだ値」を早めに買っておくのが、中央線特急「あずさ」「かいじ」の格安利用術になりそうです。
新サービス導入の背景
JR東日本が新しい着席サービスを導入した背景として、中央線特急では指定席が満席でも自由席に空席が残ることが多い、という現状があるようです。つまり指定席を望む利用者が多いので、それに対応して全席指定可能にするわけです。
また、週末には、指定席が満席で、自由席も立ち客で溢れることがあり、乗降に時間がかかって遅延が生じがちです。指定席と自由席の区別をなくすことで、立ち客を全車両に分散し、乗降時間を短くするという効果も狙えます。
さらに、JRとしては、自由席廃止と車内料金設定により、車内検札業務を減らせます。特急券を買わずに乗車してくる短距離利用者からの取りっぱぐれも少なくなるでしょう。
指定席料金は全体に値下げしていますが、そのぶん割引きっぷを縮小することで、トータルの収支均衡を図っているようにも感じられます。
短距離利用者にはデメリット
利用者の立場でみると、短距離で自由席を愛用している方にはデメリットが大きそうです。事前購入が有利となる制度なので、気軽に特急に飛び乗りにくくなりますし、50km以内では510円が750円と、240円も値上げされます。
ただ、チケットレスを利用すれば値上げ幅は140円にすぎません。それで着席が保証されるなら、納得できる範囲でしょう。
中央線では2023年度末に、大月以東で快速列車にグリーン車が導入されます。導入後、東京近郊の短距離客は、快速グリーン車との選択も考慮していけばよいでしょう。
「踊り子」にも導入されるか
長距離で指定席を愛用している人には、指定席料金は全体に値下がりしていますし、指定席も事実上拡大されますので、定価購入の方にはメリットが大きそうです。
一方で、割引きっぷの縮小は大きな痛手です。金券ショップでの回数券ばら売りの購入もできなくなります。価格が気になる人は、中央高速バスを選ぶようになるかもしれません。
「新たな着席サービス」じたいは、すでに「ひたち」「ときわ」で導入され、定着しているようです。「あずさ」「かいじ」でも、導入当初は混乱があるかもしれませんが、いずれ定着していくことでしょう。
今後は、「踊り子」など伊豆特急、「わかしお」など房総特急でも、車両の更新にあわせて新たな着席サービスの導入が検討されていくとみられます。(鎌倉淳)