JALは「値下げ」ANAは「値上げ」。新型コロナで航空運賃はどう変わったか

販売方針の違いを映す

新型コロナウイルス感染症の影響で、利用者が激減した航空業界。大幅な割引運賃のPRがされる一方で、安いチケットが買いにくくなったとの声もあります。統計を見てみると、チケット代はJALが「値下げ」、ANAが「値上げ」という構図が見えてきました。

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イールドと旅客収入

航空会社の国内線運賃に関する情報は、国土交通省の「航空輸送サービスに係る情報公開」で明らかにされています。そのなかに、「輸送人キロあたり旅客収入」という項目があり、1kmあたり、いくらの運賃を取っているかがわかります。この数字は「イールド」とも呼ばれ、平均的な運賃水準を示していて、航空業界では重視される指標です。

「航空輸送サービスに係る情報公開」は、現在、2020年度上期まで公表されています。そこから、イールドと会社全体の旅客収入を見てみましょう。

2020年度上期航空会社のイールドと旅客収入

航空会社名 イールド
(対前年度増減)
旅客収入
(対前年度比)
JAL 15.6円(▲9.3%) 562億円(22.8%)
ANA 19.5円(△14.7%) 778億円(21.4%)
日本トランスオーシャン 12.9円(▲11.0%) 56億円(26.6%)
スカイマーク 11.1円(▲2.6%) 121億円(25.8%)
エアドゥ 16.3円(△1.2%) 34億円(19.4%)
ソラシドエア 13.3円(▲3.6%) 29億円(21.4%)
スターフライヤー 16.7円(▲1.2%) 27億円(20.7%)
ピーチ 6.8円(▲18.0%) 63億円(41.7%)
ジェットスター・ジャパン 6.7円(▲21.2%) 48億円(19.1%)
春秋航空日本 7.5円(▲7.4%) 2億円(10.5%)
エアアジア・ジャパン 13.7円(△29.2%) 1億円(6.6%)
合計 15.1円(▲1.9%)  1723億円(22.3%)

出典:令和2年度特定本邦航空運送事業者に係る情報(国土交通省)

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ANAはJALより25%高い

2020年度上期のイールドが前年度に比べて上がったのがANA、エアドゥ、エアアジア・ジャパンの3社。下がったのが、JAL、JTA、スカイマーク、ソラシドエア、スターフライヤー、ピーチ、ジェットスター・ジャパンの7社です。

大手2社を比べると、JALのイールドは前年度17.2円だったのが、今年度は15.6円となっています。1kmあたりの航空運賃が9.3%も下がっていることになります。一方、ANAは前年度17.0円だったのが、今年度19.5円となっていて、14.7%も上がっています。

JALとANAは、前年度のイールドはほぼ同じだったのですが、新型コロナ禍を受けて、JALは「値下げ」し、ANAは「値上げ」したことが見て取れます。結果として、両社の2020年度上期のイールドを比較すると、ANAがJALより約25%も高くなっています。

念のために付け加えますが、「値上げ」「値下げ」というのは平均的な運賃の状況の意味で、割引運賃の価格や販売座席数をそれぞれの会社が調整した結果です。普通運賃の値段を10~20%も変動させたわけではありません。

言い方を変えると、航空券の「安売り」をどの程度に収めたか、ということです。ANAの航空券がJALより常に高かったという意味ではなく、トータルで見るとANAほうが高い値段で航空券を販売していた、ということです。

JALとANA

7~9月期に差

上表にはありませんが、四半期別に見てみると、4~6月期はJALもANAも「値上げ」しています。7~9月期は、JALが「値下げ」した一方、ANAは「値上げ」を維持しました。4~6月期は緊急事態宣言が発出され、両社とも割引運賃の発売を絞ったのですが、夏休みの回復期にJALは割引運賃の座席数を増やし、ANAは抑制した、ということでしょう。

その結果、両社の旅客収入がどうなったかというと、JALは対前年度比22.7%、ANAは21.2%となりました。値下げしたJALのほうが、値上げしたANAよりも旅客収入の減少割合が小さかったことになります。

その差は1.5ポイントなので大きくはありませんし、収入が高ければ利益が多いとも限りませんので一概には言えませんが、売り上げを少しでも増やすという視野に立てば、JALのほうがANAより上手だったと捉えることもできそうです。

ちなみに、両社の決算資料によると、2020年度上期の国内線座席利用率は、JALが39.8%で前年度比40.2ポイント減。ANAが36.3%で34.0ポイント減です。座席利用率はJALのほうが高いですが、落ち込みも大きくなっています。座席利用率はもともとJALのほうが高いので、チケット価格の違いほど利用率に差が出ていないような印象です。

JAL系列の日本トランスオーシャン航空に関しては、イールドが対前年度比11%減となっていて、安売りを強めたことがうかがえます。その結果、旅客収入は前年度の26.6%と、JALよりもいい成績を残しています。ただ、JTAは沖縄を拠点とする地域色の強い航空会社なので、全国区のJAL、ANAと同列には語れません。

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中堅航空会社

中堅航空会社を見てみると、スカイマークの2020年度上期イールドは11.1円で、対前年度比2.6%減と大きくは変わりません。旅客収入は前年度の25.7%で、JAL、ANAの大手2社を上回ります。コロナ禍の状況で、運賃を少し安めに設定して好成績を残したと感じられます。

エアドゥのイールドは16.3円で、対前年度比1.2%増。旅客収入は前年度の19.4%です。ソラシドエアのイールドは13.3円で3.6%減。旅客収入は前年度の21.4%です。スターフライヤーのイールドは16.7円で1.2%減。旅客収入は前年度の20.7%です。

スカイマークを除く中堅航空会社3社は、おおむね前年度並みの価格で、前年度の20%前後の旅客収入になったといえますが、価格を下げた会社ほど旅客収入の前年度比が高い傾向を示しています。

LCC

LCCでは、ピーチのイールドが6.8円で、対前年度比18%の大幅減となりました。旅客収入は前年度の41.7%で、他社に比べてずば抜けて高いですが、理由の一つは2019年度にバニラエアを合併したことによるものでしょう。

ただ、バニラの前年度旅客収入を分母に足しても、前年度の32.3%に達し、他社に比べて高いです。ピーチは新型コロナ後に、国際線の機材を転用して積極的に国内新路線に参入しているため、イールドが低くても、会社全体の国内線旅客収入の減少幅を抑えられたということでしょう。

ジェットスター・ジャパンはイールドが6.7円で、対前年度比21.2%の大幅減。旅客収入は19.1%と伸び悩みました。ジェットスターはピーチと対照的に、新型コロナ後は運休・撤退が多く、守りの姿勢を鮮明にしていますが、それが数字に表れています。

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LCCは2割お安く

ピーチとジェットスターの2020年度上期のイールドは6.7円と6.8円で大差がなく、前年度比でも18%減と21%減で、小さな差です。LCC2社のコロナ禍での価格政策は似通っていて、両社ともおおむね2割程度安く座席を販売した、ということになります。

LCCは座席が埋まるにつれ値段が高くなる「空席連動型運賃」なので、コロナ禍の状況では値段が高くなるほど予約が入らず、結果的にイールドが著しく低下したのかもしれません。

ただし、2020年11月に破産したLCCのエアアジア・ジャパンは、イールドが13.7円とレガシーキャリア並みになっていました。対前年度比では29.2%増となっています。経営状態が悪く、最後はLCCとは言えない値段でチケットを売ったあげくに、経営が行き詰まったことになります。

スカイマークが手堅く

全体的にみると、新型コロナ禍で比較的手堅く経営をしたのはスカイマークのようです。イールドを前年比微減に抑えつつ、全体の旅客収入を前年の25%まで持ってきたのは見事でしょう。

利用者の視点でみると、お得だったのはLCCということになります。前年度から2割程度安くチケットが買えたわけで、旅行者には魅力的でした。

以上は過去のデータですが、新型コロナウイルス感染症の影響は収まりきっていません。航空会社の台所事情は厳しく、チケットの相場はこれから上がっていくでしょう。

利用者としては、航空券を買う際には、複数の会社を比較して冷静に判断したいところです。

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