東京の鉄道新線計画は、どこまで進捗しているのでしょうか。鉄道新線の計画を盛り込んだ交通政策審議会答申第198号が、2016年に公表されてから2024年で8年を迎えます。
答申が目標年次と定めた2030年までの15年間の半分を過ぎたわけですが、記載された鉄道プロジェクトの進捗状況はさまざまです。プロジェクトを44線区に分けて調べてみました。
【2】では、「地域の成長に応じた鉄道」について見ていきます。
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『東京の鉄道新線計画、どこまで進捗したか【1】44線区を総チェック!』
東西交通大宮ルート
東西交通大宮ルートとは、大宮~さいたま新都心~浦和美園間を結ぶ中量軌道システムの計画です。大宮駅周辺地区と浦和美園地区とのアクセス利便性の向上が目的です。
答申では「収支採算性に課題がある」とし、「需要の創出に繋がる沿線開発や交流人口の増加に向けた取組」を進めたうえで、「事業計画について十分な検討」や「導入空間の確保を含めたルートについて」の検討を求めました。
まずは、沿線開発の取り組みからはじめなければならないわけで、ハードルの高い指摘です。さいたま市では、地域公共交通協議会東西交通専門部会を設けて検討をしていて、ルート案も4つ公表されていますが、いまのところ、明確に決定したことはないようです。
専門部会の資料をみると、LRTを軸にしながら、BRTも検討する意見が出ています。宇都宮LRTの状況や、後述する埼玉高速鉄道の岩槻延伸も考慮しなければならない段階なので、東西交通大宮ルートが近い将来に事業化に向けて動き出すことはなさそうです。次期答申を見据えて、まずは計画を整理をしている状況といえるでしょう。
埼玉高速鉄道延伸
埼玉高速鉄道線の浦和美園~岩槻~蓮田間の延伸計画です。「地下鉄7号線」の延伸とも表現されます。
答申では、「事業性に課題がある」とし、「事業性の確保に必要な需要の創出に繋がる沿線開発や交流人口の増加に向けた取組」を進めた上で、「事業計画について十分な検討」を求めました。前述の東西交通大宮ルートと同じような記述です。
答申を受け、さいたま市では「地下鉄7号線(埼玉高速鉄道線)延伸協議会」を設置して検討を開始。2018年2月に、浦和美園~岩槻間について、「沿線開発と快速運転を行えば、費用便益比(B/C)と採算性が基準に達する」という結論を得ています。
浦和美園~岩槻間には、「埼玉スタジアム駅」と「中間駅」を新設する計画です。さいたま市は2023年3月、中間駅周辺の将来像を示すまちづくり方針を策定しました。さらに、概算事業費の算定などもおこなっています。
さいたま市の清水勇人市長は、2023年1月の年頭記者会見で、「2023年度にできるだけ早く鉄道事業者へ要請する」との考えを示しました。この方針に変更がないなら、年度末の2024年3月までに埼玉高速鉄道に事業要請をおこなうことになるでしょう。
埼玉高速鉄道の岩槻延伸の「事業計画の検討」は大詰めを迎えていて、2024年に事業化が決定する可能性もありそうです。
いっぽう、岩槻~蓮田間については採算性に難があり、実現への具体的な動きはみられません。
都営大江戸線延伸
都営大江戸線(東京12号線)の光が丘~大泉学園町~東所沢間の延伸計画です。
答申では、光が丘~大泉学園町間について、「導入空間となりうる道路整備が進んでおり、事業化に向けて関係地方公共団体・鉄道事業者等において、費用負担のあり方等について合意形成を進めるべき」と記されました。
記述のとおり、導入空間の道路整備は着々と進んでおり、2023年2月21日には、小池百合子都知事が都議会で、大江戸線延伸について検討会を設置することを表明。事業化に向けて、収支採算性などを調査することを明らかにしました。これにより、大泉学園町までの延伸は実現へ向け動き出したといえます。
導入空間となる道路建設も進んでいて、採算性に大きな問題があるとも考えづらく、近い将来に事業化されるのは間違いないでしょう。ただ、現時点では事業着手には至っておらず、開業時期も未定です。
一方で、大泉学園町~東所沢間は、答申で「事業性に課題」があると指摘されました。「沿線開発の取組等を進めた上で、事業主体を含めた事業計画について十分な検討が行われることを期待」という迂遠な表現にとどまり、実現の見通しは立っていません。
多摩都市モノレール延伸
多摩都市モノレールは、上北台~多摩センター間約16kmを結ぶ路線です。上北沢~箱根ヶ崎間と多摩センター~町田間、多摩センター~八王子間で延伸構想があります。
答申では、上北台~箱根ヶ崎間約7kmについて、「導入空間となりうる道路整備が進んでおり、事業化に向けて関係地方公共団体・鉄道事業者等において具体的な調整を進めるべき」と前向きな記述となりました。
同区間については、東京都が2020年1月に事業化を正式決定。2022年10月に都市計画決定素案が公表されました。2022年11月には環境影響評価計画書が公表され、現在、環境アセスが進められています。
2022年12月8日の都議会本会議で、小池都知事は「2030年代半ばの開業を目指す」と答弁しています。環境アセスメントは2025年度に終了する見通しで、工事計画期間は10年となっているため、順調にいけば2035年ごろに工事が終わり、開業できる見通しです。
多摩センター~町田間については、答申で「導入空間となりうる道路整備が前提となるため、その進捗を見極めつつ、事業化に向けて関係地方公共団体・鉄道事業者等において具体的な調整を進めるべき」と記載されています。「調整」表記のため、前向きながら、事業化への道のりが遠い印象の記述でした。
しかし、事業化へ向けた進展はみせています。東京都が設置した「多摩都市モノレール町田方面延伸ルート検討委員会」がルート選定を行い、2022年1月28日に概要を発表。決定したルート案は、多摩センターから町田市立陸上競技場、小山田桜台団地、町田市民病院などを経由して町田駅に至る約16kmです。
2023年12月には、沿線自治体の町田市と多摩市が、モノレール沿線のまちづくり構想の素案を公表。パブリックコメントが開始されました。2024年1月19日を期限として、住民の意見を集めています。
両市では、素案を基に「モノレール沿線まちづくり構想」を策定のうえ、事業性を検証しつつ、導入空間となる道路整備を進めます。ただ、導入空間の道路の整備完了には10年以上がかかると見込まれ、現時点で開業時期は見通せません。
最後に、多摩センター~八王子間については、答申で「事業性に課題があるため、関係地方公共団体・鉄道事業者等において、事業計画について十分な検討が行われることを期待」という表記にとどまりました。
おおまかなルートは、多摩センターから、唐木田、南大沢、多摩美術大学、八王子みなみ野付近を通り、JR八王子駅へ至る延長約17kmです。ただ、現時点では実現に向けた具体的な動きは小さく、導入空間となる道路整備を少しずつ進めている段階のようです。
東京8号線延伸
東京8号線とはメトロ有楽町線を指し、その野田市までの延伸計画です。有楽町線を豊洲から分岐して住吉まで建設し、住吉~押上間は半蔵門線と供用、そこから四ツ木、亀有を経て野田市に至る路線計画です。
このうち、豊洲~住吉間は別項で記した通り、事業化が決定しています。また住吉~押上間は半蔵門線と共用する計画なので、整備済みです。したがって、ここでいう「東京8号線延伸」とは、押上~野田市間の計画を指します。
答申は「事業性に課題」があるなどと指摘し、「事業主体を含めた事業計画について十分な検討が行われることを期待」と記しています。
東京8号線延伸については、答申以前から、埼玉県と千葉県の沿線自治体が「地下鉄8号線建設促進並びに誘致期成同盟会」を結成して建設運動を展開しています。
ただし、この期成同盟会が推進しているのは、「八潮~野田市間」の先行整備です。
ややこしいのですが、答申では有楽町線の「押上~野田市」延伸となっているものの、埼玉・千葉県沿線が整備を目指しているのは「八潮~野田市」ということです。八潮ではつくばエクスプレスに接続し、直通も求めています。つまり、実態としては「つくばエクスプレスの野田支線」の建設を目指す形になっています。
すでに2013年度に事業化検討調査を終えていて、越谷レイクタウンを通るルートを決定。八潮でつくばエクスプレスに乗り入れた場合、秋葉原~野田市間が33分で結ばれると試算しています。
答申を受け、期成同盟会では、2021年度から「高速鉄道東京8号線(八潮~野田市間)整備検討調査」に着手しています。調査期間は2024年度までとなっていますので、2025年春までには、調査結果が公表されるとみられます。
一方、東京都葛飾区、千葉県松戸市などでは、後述する「東京11号線(半蔵門線)の松戸延伸」とあわせて、「地下鉄8・11号線促進連絡協議会」を結成して建設促進運動をすすめています。
協議会では、有楽町線の豊洲~住吉間を「第1段階」と位置づけ、その事業化が決まったことから、今後は「第2段階」の押上~亀有間と押上~松戸間の事業化を目指す姿勢です。
残る亀有~八潮間については足立区が建設を推進していますが、同区は2023年に埼玉・千葉県側の「期成同盟会」に加わりました。亀有~八潮間は、都心側(亀有延伸)と埼玉県側(野田市延伸)の建設促進運動のエアポケットに入ってしまった格好ですが、足立区は埼玉県側と連携して足立区内の事業化を目指す方針のようです。
答申では、「茨城県が、東京の都市機能のバックアップ等の観点から、東京都心と近隣地域(茨城県西・南部地域)とのアクセスを改善する道路・鉄道網の強化策として、更なる延伸について検討している」とも付け加えています。
これについては、答申前の2014年度、茨城県の自治体が、野田市~関東鉄道常総線大宝駅(下妻市)に至る35.5kmのルートを設定し、建設運動を起こしていることを受けた記述です。
ただ、着手するにしても、野田市延伸の実現後の話なので、現時点では構想の域を出ません。
東京11号線の延伸
東京11号線とはメトロ半蔵門線を指します。その押上~松戸間の延伸計画です。
答申は「事業性に課題」と指摘し、「事業性の確保に必要な需要の創出に繋がる沿線開発の取組等を進めた上で、 事業主体を含めた事業計画について十分な検討が行われることを期待」と記載しました。
東京8号線の項目で記したように、東京都葛飾区、千葉県松戸市などでは、「地下鉄8・11号線促進連絡協議会」を結成して建設促進運動をすすめています。有楽町線の亀有延伸と、半蔵門線の松戸延伸の事業化を目指しています。
松戸延伸に向けた動きは外部からは見えません。ただ、松戸市議会の2023年9月定例会で、市側が「地下鉄8・11号線促進連絡協議会において、延伸の可能性を探るべく、需要予測等の調査研究を進めている」と答弁しています。この調査が形式的なものでないなら、いずれ結果が公表されるかもしれません。
総武線・京葉線接続新線
京葉線新木場から市川塩浜付近を経て総武線津田沼に至る路線計画です。新木場から市川塩浜付近までは京葉線を複々線化し、市川塩浜付近から津田沼まで総武線と京葉線を接続する新線を建設します。
新木場駅でりんかい線と相互直通運転し、津田沼駅で総武線と相互直通運転をおこないます。要するに、りんかい線から京葉線を経て総武線に直通する新路線です。千葉方面と臨海副都心とのアクセス向上を狙います。
答申は接続新線について、「事業性に課題」と指摘し、「事業計画について十分な検討が行われることを期待」と記載しました。また、京葉線複々線化については、「りんかい線との相互直通運転化と合わせて、検討が行われることを期待」と記載しました。どちらも、「検討」表現で、実現への道のりは遠そうな記述にとどまります。
実際、沿線自治体にも、接続新線の事業化へ向けた強い動きはみられません。ただ、接続新線は羽田空港アクセス線の臨海部ルートに関連し、羽田空港から千葉駅や成田空港を直結するのに不可欠な区間となります。そのため、臨海部ルートの事業化が視野に入る段階になれば、JR東日本の意向によっては、接続新線に動きが出てくる可能性はあるでしょう。
京葉線複々線化についても、これといった動きはありません。複々線化の用地は同線建設当時から確保されていて、一部は売却されてしまったようですが、一般的な複々線化に比べれば、実現へのハードルは低いといえます。もちろん、用地があるから作るとは限りません。
京葉線の中央線方面延伸、中央線複々線化
東京~三鷹~立川間の計画です。東京から三鷹までは京葉線を地下で延伸し、三鷹駅において中央線と相互直通運転をおこないます。三鷹~立川間は中央線を複々線化します。
二つの計画が合わさっていますが、まず、東京~三鷹間の地下新線計画については、答申で「収支採算性に課題」と指摘され、「事業計画について十分な検討が行われることを期待」という、控えめな表現にとどまっています。
実現に向けた具体的な動きは、探した限り見つからず、どの自治体が音頭を取るのかもはっきりしません。
一方、中央線三鷹~立川間の複々線化については、答申で「事業スキームを含めた事業計画について十分な検討が行われることを期待」と記されていて、「スキーム検討」を求める形となっています。
三鷹~立川間の複々線化は国鉄時代から計画があり、1994年には高架化と地下線(複々線化)の都市計画が決定しています。このうち高架化については2010年に完成しましたが、地下線(複々線化)は実現へ向けた動きはありません。当事者であるJR東日本が複々線化に消極的なためです。
ただ、沿線自治体は複々線化を諦めたわけではないようです。東京都は、2023年度予算で、「多摩地域を支える交通ネットワークに関する基礎調査」の予算を5000万円で新規計上しました。この調査は、「多摩地域の交通基盤について、現状や今後のあり方の整理に向けた基礎的な調査を実施」するもので、中央線の複々線化も調査対象に含んでいるようです。
これとは別に、東京都は、「国の予算編成に対する東京都の提案要求」(最重点事項)で、「都市鉄道ネットワーク等の強化」として、中央線複々線化の事業化に向けて、「新しい整備の仕組みづくり」を、毎年、求め続けています。
提案要求の文面は毎年似たようなものでしたが、2024年度予算編成への要求では、これまでとは違った文言が盛り込まれています。「例えば、立川広域防災基地への近接性なども踏まえつつ、複々線化で生まれる地下空間を有効活用するなど新たな事業スキームの調査・検討を行うこと」となっていて、「立川防災拠点への近接性」「地下空間の有効活用」が新たに盛り込まれました。
これは、防災予算などを活用できる枠組みを模索しているのでしょう。防災拠点に近いことを踏まえて地下空間を有効活用するのであれば、たとえば地下に災害対策の備蓄基地を作り、鉄道に緊急時の避難路の役割を持たせる、といったことが考えられます。
簡単にまとめると、東京~三鷹の京葉線延伸(地下新線)については、東京都もJR東日本も具体的な動きを見せておらず、実現する可能性はほとんどありません。
一方、三鷹~立川の複々線化については、東京都が国に新たなスキームを求める動きを見せていて、防災予算の投入によりJR東日本の負担を軽減できるならば、実現への可能性が少しはある、というところでしょうか。
京王線複々線化
京王線笹塚~調布間の複々線化計画です。答申では、「事業スキームを含めた事業計画について十分な検討が行われることを期待」という表記です。
京王線では、笹塚~仙川間の連続立体化工事を事業中で、2030年度までが事業期間となっています。この都市計画は2012年に決定されたのですが、高架だけでなく、複々線化(線増)も含んでいます。
都市計画で示された複々線は高架線の下を主に走ります。代田橋の先で地下に入り、つつじヶ丘で地上に出る形です。途中駅はありません。
複々線化が都市計画決定されているのはつつじヶ丘までで、つつじヶ丘~調布間は決定されていません。
都市計画決定した笹塚~つつじヶ丘間に関しても、現時点では事業着手の見通しはありません。本格的に検討されるとしても、笹塚~仙川間の高架化が完成した後になるでしょうが、人口減少を見据えれば、実現はなかなか難しそうです。
メトロセブン、エイトライナー
答申では「区部周辺部環状公共交通の新設」と記されていて、環状7号・8号の地下を走る鉄道新線です。いわゆる「メトロセブン」「エイトライナー」と呼ばれるもので、答申では葛西臨海公園~赤羽~田園調布間が記載されました。
答申は「事業性に課題がある」としたうえで、「事業計画について十分な検討が行われることを期待」と記載しています。
また、「中量軌道等の導入や整備効果の高い区間の優先整備」といった方策についても検討を求めています。
葛西臨海公園~赤羽間が「メトロセブン」で、江戸川区、葛飾区、足立区の3区が「環七高速鉄道(メトロセブン)促進協議会」を結成しています。赤羽~田園調布間が「エイトライナー」で、北区、板橋区、練馬区、杉並区、世田谷区、大田区の6区が「エイトライナー促進協議会」を結成しています。
もともとは別の計画ですが、それぞれの協議会が連携して建設運動をしており、「区部周辺部環状公共交通」とまとまって、共同で建設に向けた調査をしています。
これまでの調査で、地下鉄の場合はスマートリニアメトロを導入すれば約9000億円で作れるという試算が出ています。これに加えて、モノレールや新交通システム、LRT、BRTについても調査を実施。モノレールや新交通システムは、約1.5兆~1.9兆円。LRT・BRTは1200億円~3000億円となっています。
区部環状交通は、地域ごとに特性が多様なため、今後、区間ごとに課題整理や優位性の高いシステムを抽出するなど、論点を整理します。区間やシステム別に収支採算性やB/Cを計算し、次期答申までに事業計画をまとめる計画です。
まとめると、メトロセブン、エイトライナーは、現在、事業計画策定のための調査を実施中ですが、地下鉄を一本で通すような形にはならない雲行きです。区間ごとに違うシステムが導入される可能性も小さくありません。
比較的需要が見込める荻窪~田園調布間については地下鉄で整備し、東急多摩川線と直通して、新空港線に乗り入れ羽田空港アクセスに活用するというような案が検討されるかもしれません。一方、葛西付近では比較的道路が空いていて、道路交通への影響が少ないので、LRTやBRTが検討されるかもしれません。(鎌倉淳)
『東京の鉄道新線計画、どこまで進捗したか【3】』に続きます。