2015年の世界文化遺産候補は「長崎教会群」と「九州・山口の産業革命遺産」の一騎打ち。「長崎」が有力か。

文化審議会は2013年8月23日の特別委員会で、2015年の世界文化遺産登録を目指す「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」(長崎県、熊本県)を、国連教育科学文化機関(ユネスコ)へ推薦する候補に選びました。

世界文化遺産の推薦は原則各国1件に制限されています。文化審とは別に、内閣官房の有識者会議が「明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域」(福岡、長崎など8県)の推薦を検討していて、今後どちらを国連教育科学文化機関(ユネスコ)に推薦するか政府内で調整し、9月中に関係省庁連絡会議で最終決定します。

「長崎の教会群」はキリスト教伝来と信仰の歴史を示す資産で、大浦天主堂(長崎市)などの教会、「島原の乱」の舞台となった原城跡、平戸島や天草の崎津集落など13件で構成されています。長崎、熊本両県は、キリスト教の伝来と繁栄や、激しい弾圧を物語る遺産であり、価値は高いと訴えていました。

長崎の教会群

文化庁の青柳正規長官は委員会後、「禁教の時代から幕末、明治になって復活していく歴史的な流れを反映した跡が見られると評価された」と説明しています。

今夏の推薦決定を目指していた他の候補には、「北海道・北東北を中心とした縄文遺跡群」(青森県など)と「百舌鳥・古市古墳群」(大阪府)などがありましたが、いずれも今年度の推薦は見送られました。

これとは別に、産業遺産群について議論する内閣官房地域活性化統合事務局の有識者会議が、「明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域」の推薦を検討しています。各国のユネスコ推薦枠は年1件に限られていますので、2候補の競合となると政府内の調整となります。

内閣官房の有識者会議は8月27日に開かれます。2015年夏の世界遺産委員会で登録審査を受けるには、政府が9月末までに推薦候補1件の暫定版推薦書をユネスコに提出する必要があります。

今後は、「長崎教会群」と「九州・山口の産業革命遺産」との一騎打ちになるわけですが、「長崎教会群」のほうが有力と思われます。2014年度にユネスコに推薦される「富岡製糸場」が産業遺産であるため、2年連続同種の遺産を推薦する可能性は低いというのが大きな理由です。

また、筆者は両方の候補地のいくつかを見ましたが、遺産価値としても「長崎教会群」のほうが重要に思われます。ヨーロッパから遠く離れた極東の地に、17世紀から19世紀までキリスト教徒が禁教下で信仰を維持していた歴史そのものが驚嘆に値しますし、解禁後に建てられた長崎の教会遺産はその信仰史の象徴だからです。小さな離島に点々とする教会建築は印象的ですし、もし、世界遺産の調査をするイコモスの調査員がキリスト教徒であった場合、とても強く心に残るでしょう。テーマもシンプルでわかりやすく、イコモス調査や本登録で「長崎」が落ちる可能性は少ないと考えます。

「九州・山口の産業革命遺産」は、全体のまとまりについて課題があるようにみえます。「萩の城下町」から「三池炭鉱」「八幡製鉄所」「韮山反射炉」までをひとまとめにするのには無理があり、「各遺産を単独で世界遺産にするのは困難だから、まとめて登録しよう」という思惑が透けて見えるのが難点です。

また、保存について課題があるように見えます。この遺産群の象徴は「端島炭鉱」(軍艦島)ですが、軍艦島では建築物の保存のための手段がほとんど取られておらず、倒壊の危険にさらされています。そのため、観光客は安全な距離から島の建造物群を眺めるだけ。放っておけば数十年後には倒壊するであろうコンクリート建造物群をどう保存するか。このテーマをクリアしなければ、「後世に残す」という世界遺産の趣旨には叶わないでしょう。

これらの理由から、「九州・山口の産業革命遺産」が現状のままなら、イコモス調査へ進んでも登録が困難になる可能性が高いと筆者はみています。したがって、2015年の政府推薦は、「長崎の教会群」が有力とみます。

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