北陸新幹線新大阪延伸について、日本維新の会が8つのルート案について再検討する方針を明らかにしました。そのなかで注目は、湖西ルートです。2016年のルート決定時には検討対象から外れていましたが、今回、再浮上するのでしょうか。
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北陸新幹線延伸、湖西ルートは再浮上するか。「維新8案」を検証する【1】

在来線案の位置づけ
これまで示してきたように、これから実施される再検討で、湖西ルートの新線案が費用便益比で1を上回るのであれば、有力な選択肢になるのは確かです。
では、1を下回ったらどうなるのでしょうか。その場合に浮上するのが、湖西ルートの在来線活用案でしょう。
繰り返しますが、前原氏が「1973年の閣議決定にとらわれない」と強調しているのは、維新として湖西ルートを有力候補とみているからでしょう。
そのうえで、在来線活用案を候補に盛り込んだのは、湖西ルート新線案のB/Cが1以下の場合や、福井県や滋賀県の同意が得られず頓挫した場合の「プランB」として、在来線案を位置づけているからに違いありません。
在来線をどう活用するのか
在来線活用案について、維新はSNSなどで「改軌、中速」と表記しています。改軌とはミニ新幹線化を意味します。中速とは改軌しないで在来線のまま高速化することを意味しているようです。
まず、改軌(ミニ新幹線化)について考えてみると、湖西線は狭軌在来線ですが、改軌して標準軌化するか、三線軌化することになります。標準軌複線や三線軌複線、単線並列(標準軌と狭軌)などの選択肢があります。
このうち三線軌は保守に手がかかるので、JR西日本は受け入れないでしょう。また、近江舞子以南は在来線の運転本数が多いため、狭軌の複線を維持する必要がありそうです。
さらに、貨物列車の走行を考慮すると、少なくとも近江塩津~敦賀間は狭軌線を残さなければなりません。在来線で標準軌車両を導入するなら、車両基地を整備する必要が出てきます。

ミニ新幹線化
こうした事情を考慮すると、ミニ新幹線化の手法は限られます。敦賀~山科間の全面的な改軌はまず無理でしょう。
たとえば、敦賀~近江舞子間を単線並列(標準軌と複線)にして、近江舞子~山科間に新幹線新線を整備するのが、一つの方法でしょうか。手法はほかにもあるかと思いますが、なんであれ、新線区間を減らせば、そのぶん建設費は安くすみます。
車両は、フル規格新幹線は走れないでしょうから、富山以西でのみ運用する新在直通車両を用意することになるでしょう。
ただし、在来線をミニ新幹線にするには、長期にわたる工事が必要です。在来線の運転を止めないのであれば、少なくとも10年程度には及ぶのではないでしょうか。工事期間中、該当区間は単線の運用となり、特急「サンダーバード」は米原経由になるかもしれません。
ミニ新幹線が直通できるか
湖西線を標準軌にしたとしても、京都駅から新大阪駅までの東海道線を標準軌にするわけにいきません。新大阪駅発着にするなら、京都駅で東海道新幹線に乗り入れる必要があります。
しかし、京都駅の乗り入れ設備の整備に巨費がかかるのは、前述したとおりです。また、ミニ新幹線規格の車両を東海道新幹線に入れ込むとなると、東海道新幹線側の対応も問題になりますので、JR東海は消極的でしょう。
逆に、ミニ新幹線が新大阪駅まで直通しないなら、山科駅や近江舞子駅などで、新大阪方面への列車との乗り換えが生じます。その場合、乗り換え駅が、現在の敦賀駅から湖西線の途中駅や山科駅などに移るだけです。乗り換えの手間はなくなりません。
湖西線区間をミニ新幹線車両が在来線の速度で走ることになるので、大幅な速度向上も望めません。つまり、乗り換え回数が変わらず、時間短縮効果も限られるわけです。ならば、長期の工事をしてまで、改軌する意味はほとんどないでしょう。
中速案とは何か
こうして考えてみると、在来線活用案の本命は、改軌案(ミニ新幹線案)ではなさそうです。併記された「中速」こそが本命と思われます。
「中速」とは「中速新幹線」の略です。中速新幹線に明確な定義はありませんが、在来線を高速化し、160km/hから180km/h程度で走らせる構想を指します。
ミニ新幹線も中速新幹線になり得ますが、今回は「改軌」と並列で「中速」と記されていますので、狭軌での高速化を想定しているとみられます。
つまり、狭軌のまま、特急「サンダーバード」で160km/h以上の運転を目指すことを意味しているのでしょう。
中速新幹線は、石破茂前首相が在任中に、国会で導入に前向きな答弁を示して話題となりました。2025年の「骨太の方針」にも、中速新幹線の導入推進ををうかがわせる記述があります。
湖西線は踏切もなく、中速新幹線を試すのに適した路線です。中速新幹線は、他路線でも適用が検討されていますので、その試金石にもなり得るでしょう。
最後の選択肢
中速新幹線とはいっても、結局は特急「サンダーバード」の速度向上に過ぎず、敦賀駅での乗り換えは解消しません。見方を変えれば「敦賀乗り換え固定案」です。事業費は安いでしょうから、事業そのものに対する反対論は起こりづらいですが、それで整備を終わらせるのであれば、北陸三県が納得しないでしょう。
したがって、中速案は、他の案がすべて適用不能となった場合の、最後の選択肢にとどまります。「フル規格でのルート決定が困難な場合に、当面の措置として時間短縮を実現する手法」という位置づけでしょう。
そもそも中速案は新幹線建設とはいえませんので、本来なら俎上にも上らない案のはずです。しかし、鉄道に詳しい前原氏が、新たな試みとして選択肢に紛れ込ませたのではないか、と想像します。
要するに在来線活用案は、「暫定措置」の名目で、政治的妥協として採用される可能性があるものの、恒久案として採用される可能性は低い、ということです。
ただ、実現可能性という視点で見ると、「サンダーバード」の高速化は、もっとも容易な案かもしれません。
着工5条件
基本的な話に戻りますが、整備新幹線には着工5条件が課されています。①安定的な財源の確保、②収支採算性、③投資効果、④営業主体となるJRの同意、⑤沿線自治体の同意の5つです。
当然のことながら、北陸新幹線新大阪延伸でも5条件をクリアする必要があります。前原氏も、5条件を尊重する姿勢を示しています。
5条件のなかでとくに重要なのは、投資効果(費用便益比)が基準を満たすことでしょう。新幹線という巨大公共事業への投資を正当化する根幹だからです。
そのうえで、JR西日本と沿線自治体が同意する必要もあります。JR西日本は「自社ルート」「京都経由」を求めていて、沿線自治体の滋賀県は「並行在来線の非分離」と「応分の費用負担」を求めるでしょう。大阪府や京都府も、求めるポイントは大差なさそうです。
基準緩和されるのか
現段階で、5条件を満たしているルートは存在しません。小浜・京都ルートは、2016年の決定段階では満たす見通しがついていましたが、その後の建設費高騰により、費用便益費の基準を満たせなくなっているからです。
維新の示した他の案について見ておくと、舞鶴・京都ルートは、2016年の調査で小浜・京都ルートのB/Cを下回ったので、再検討しても基準を上回るのは難しいでしょう。
新たに提案された舞鶴・亀岡ルートや、古くからある小浜・亀岡ルートは、京都市を通らないため費用は抑えられますが、便益も小さくなりますので、基準を上回るかは微妙でしょう。
ただし、費用便益比については、社会的割引率を見直すことなどで基準を緩和することが検討されています。また、「自治体の費用負担」についても、先に触れたように国交省で軽減策が議論されているようです。
結局、こうした新たな基準や施策が決まらないことには、最終的なルート決定はできず、いくら議論をしても生煮えになってしまうでしょう。むしろ、早急に着手すべきなのは、ルートの再検討ではなく、ルールの再検討ではないでしょうか。
無責任な立場
繰り返しますが、今回の「維新8案」の最大のポイントは、「1973年の閣議決定」の見直しを求めていることです。「小浜市」が記された新幹線整備計画を見直すということです。
これも、前提条件の変更という点で大きな意味を持つので、前原氏が高らかに宣言した以上、早めにきちんとした議論を開始すべきでしょう。閣議決定は、なし崩しで無視して許されるものではありません。
ただし、維新は自民党との連立政権を標榜していますが、実際には閣僚を出しておらず、閣外協力にとどまります。閣外から閣議決定の見直しを訴えても、責任のない立場で叫んでいるに過ぎません。
本当に閣議決定を見直す場合でも、それを実行するのは維新の議員ではなく、自民党の閣僚です。最終的には自民党内閣が責任を取るわけですから、有り体に言えば、維新の姿勢は無責任にも感じられます。
自民党への助け船
ただ、この無責任な立場が、効果を発揮する可能性もあります。
新幹線整備計画に小浜市の名はありますが、福井市の名はありません。小浜市のような小都市が、福井市を差し措いて整備計画に記されたのは、それなりの理由があります。
それゆえに、当時の閣議決定に責任のある自民党が、今もそれを尊重するのは当然のことです。整備計画決定時に政権与党だった自民党は、当時の閣議決定を見直すと言い出せないのです。
しかし、内心、北陸新幹線が小浜市に寄らなくてもいいのでは、と思っている自民党関係者もいるでしょう。小浜市を経由することで費用がかさんで着工できないのなら、敦賀から京都に直結する湖西ルートで十分、と考えている人は、実は少なくないかもしれません。
その点でみると、閣外協力の立場で維新が「小浜外し」を打ち上げたことは、自民党への助け船と解釈することもできます。自民党が維新に押し切られたという体裁を取ることで、閣議決定の見直しに動けるからです。
整備新幹線のルート決定は、政治の複雑な方程式です。連立政権を標榜する日本維新の会の閣外協力が、方程式を解くカギになるのでしょうか。(鎌倉淳)























