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通勤電車「ロングシート有料座席」300円で利用する? JR西日本「うれしート」拡大へ

プレミアム感はないけれど

JR西日本が有料座席サービス「うれしート」を学研都市線、阪和線などに拡大すると発表しました。ロングシートでは初導入となります。プレミアムのない座席での有料サービスは、利用されるのでしょうか。

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2025年10月から導入拡大

JR西日本は、学研都市線・JR東西線と阪和線の快速列車に有料座席サービス「うれしート」を導入すると発表しました。2025年10月14日から、平日朝と夕方以降の列車に設定します。

また、すでに「うれしート」を導入している琵琶湖線・JR京都線・JR神戸線・山陽線・嵯峨野線・JR宝塚線で本数を拡大します。

うれしート導入区間
画像:JR西日本プレスリリース

 
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「のれん」で分離

「うれしート」は、サービス対象列車の車両の一部区画を有料エリアとし、有料エリア内の座席を有料座席(指定席)とするものです。有料エリアは、指定席券を所持した旅客のみが利用できます。

サービス設定時は、このエリアをわかりやすくするため、「のれん」を設置して、一般エリアと分離します。

うれしートロングシート
画像:JR西日本プレスリリース

 
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ロングシートに導入

注目なのは、学研都市線・東西線・宝塚線で設定される「うれしート」は、ロングシート車両の最後部を有料エリアとすることです。

これまでの通勤電車での座席指定サービスは、ほとんどがクロスシート車両でした。

TJライナー(東武東上線)などの車端部がロングシートといった例や、阪神電車が期間限定でロングシート車両で有料座席サービスを実施した例などはありますが、限定的です。

今回は、定期的なサービスとして、ロングシート座席を全面的に有料エリアにするわけで、ある意味、画期的ともいえます。

ちなみに、「うれしート」の座席料金は、同社のインターネット予約サービス「e5489」で購入した場合で300円です。ロングシートの着席に300円の価値があると考えるかは、利用者の受け止め方次第でしょう。

うれしートロングシート
画像:JR西日本プレスリリース

 

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プレミア感はないけれど

JRの通勤車両の有料座席サービスとしては、JR東日本が首都圏で広く設定しているグリーン車が代表的で、全座席が回転式リクライニングシートです。

JR西日本が一部の新快速に設定している「Aシート」も回転式リクライニングシートで、全座席に電源コンセントがあります。

ただ、それぞれ料金はお高めで、グリーン車が750円(50kmまで)、Aシートは600円です。

これに対して、「うれしート」は、既存の座席をそのまま使いますが、300円と低価格です。利用者からすれば、単に座りたいというだけならば、リクライニングも電源も要らないので、安い方がいいでしょう。その点では、「うれしート」で十分ともいえます。

もちろん、ロングシートよりはクロスシートのほうが快適性は高いですが、クロスシート車両が使用されていない路線ならばやむを得ません。

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設備投資が必要ない

鉄道事業者側からすれば、グリーン車やAシートを導入するには相応の設備投資が必要で、失敗しても引き返せない、というリスクがあります。

ロングシートの車両にクロスシートの有料座席を設定するには、「L/Cカー」などの導入が必要になります。これも大きな設備投資です。

それに比べれば、「うれしート」は、のれん1枚で設定できるので、事業者側の設備投資額はきわめて低く、リスクもほとんどありません。

「単に座りたいだけ」という利用者のニーズと「設備投資はしたくない」という事業者の懐事情がマッチすれば、ロングシートの「うれしート」が受け入れられる余地はあります。

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始発駅の特権を分与する

通勤電車の始発駅からの利用者には、「並べば必ず座れる」という特権があります。「うれしート」は、その特権を途中駅にも分け与え、代わりに手数料を取るしくみ、と考えることができます。

始発駅からの利用者が、特段に高い運賃を払っているわけではありませんから、始発駅利用者だけに「着席特権」を独占させる理由はない、と考えれば、「うれしート」方式には、合理性があるともいえます。

合理性に疑問があるとすれば、「300円」という価格かもしれません。クロスシートの着席サービスなら値頃感がありますが、ロングシートの狭いスペースが同価格というのは、納得できない方もいるでしょう。

とはいえ、疲れていたりなど「とにかく座りたい!」というときには十分出せる金額でしょうし、200円では安すぎる気もします。座席ごとに金額を変えるのもややこしいので、シート形状にかかわらず、金額を統一したのではないでしょうか。

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混雑率低下が背景に

有料エリアを設定する場合、通勤ラッシュの一部区画を一般エリアから切り離すのですから、全体の混雑度を勘案する必要もあります。

JR西日本のラッシュピーク時の混雑率をみると、最も高い片町線(鴫野→京橋)でも119%。東海道線快速(茨木→新大阪)は102%に過ぎません。この程度の混雑率なら、一部区画を有料スペースにあてがっても、他の利用者から大きな不満は出ないでしょう。

逆にいえば、近畿圏の通勤路線の混雑率の低下が、「うれしート」導入の背景にある、ともいえます。

近畿地方は、首都圏に比べて人口減少が進んでいて、今後もラッシュ時の混雑は緩和する見通しです。そうした社会状況も考えれば、列車の混雑が「うれしート」の拡大を妨げることはなさそうです。

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着席を必要としている人たち

一般論でいえば、子連れや高齢者など、着席を切実に必要としている人は全時間帯にいます。たとえ混雑時間帯でなくても、空席があるかどうかは乗ってみなければわからず、それが鉄道利用のバリアになっています。

理想論としては、そうした人たちのために、優先席があります。しかし、優先席が理想的に機能していないことは、みなさんご存じの通りです。

そのため、こうした低価格での着席保証は、大都市圏の鉄道で広く求められているサービスかもしれません。

今回、学研都市線などで一定の利用者があれば、ロングシート方式の着席保証サービスが、より広いエリア、時間帯で増えていく可能性はありそうです。

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「Aシート」を維持するのか

JR西日本の有料着席サービスが、車両の改造なしに本格的におこなわれるようになったことを受け、今後の焦点は、一部の新快速で導入されている「Aシート」を維持するのか、という点かもしれません。

「Aシート」は専用シートなので、快適性が高く、長距離を走る新快速には適した座席でしょう。ただ、ライバルの阪急電鉄や京阪電鉄が、よりプレミアム感の高い有料座席を投入してサービスを追究していくなか、「Aシート」は中途半端にも感じられます。

「Aシート」の拡大には、車両を改造する設備投資が必要です。しかし、そんな投資をしなくても、「うれしート」方式なら、既存の座席にのれんを掛ければ、着席サービスをすぐに展開できます。快速との共通運用や、ダイヤ乱れへの対応も容易です。

そのため、新快速も「うれしート」にすれば、着席サービスの対象列車をすぐに拡大できます。近畿圏でもっとも着席サービスが求められているのは新快速の印象もありますが、JR西日本は、どう判断をするのでしょうか。(鎌倉淳)

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