JALとANAが、羽田~伊丹線で機材の小型化を進めます。これまでは787や767といった中型機が主体でしたが、ボーイング737やエアバスA321による運航便を増やします。両社の国内線事業の苦境を反映しているようです。
2025年冬ダイヤを発表
JALとANAの国内航空大手2社は、2025年度冬期(25年10月26日〜26年3月28日)の運航ダイヤを発表しました。
両社とも国内線で減便や運休を進めます。JALは福岡~仙台、福岡~花巻を運休し、FDAに移管。羽田~青森、伊丹~鹿児島、伊丹~新潟などを期間減便します。
ANAは中部~松山を運休し、IBEXに移管します。羽田~小松、伊丹~福岡、伊丹~新潟などを減便します。
一方、JALは、羽田~札幌、伊丹~札幌、伊丹~宮崎、福岡~那覇などを期間増便。ANAは羽田~札幌、羽田~福岡などを増便します。
全体的には、収益性の低い路線を削減し、ドル箱の羽田~札幌、福岡路線に注力する方向性が見て取れます。
JAL羽田~伊丹間の機材比較
プレスリリースには記載されていませんが、一部の路線で機材の小型化も進めています。
象徴的なのは、羽田~伊丹線です。JALの10月25日(夏ダイヤ)と同31日(冬ダイヤ)の機材を比較してみましょう。
【JAL羽田→伊丹線比較】
787-8(291席) 10便→7便
767-300(252席) 5便→6便
737-800(165席) 0便→2便
計4170席→3879席(291席、7%減)
JALは、787での運航を削減し、767と737を増やしています。結果として、冬ダイヤで座席数を合計で291席、7%減らしています。
ANA羽田~伊丹間の機材比較
ANAについても見てみましょう。同じように、10月25日と31日の同曜日比較です。
【ANA羽田→伊丹線比較】
777-200(405席) 0便→1便
777-200(392席) 4便→2便
787-9(375席) 1便→4便
787-8(335席) 7便→2便
767-300(270席) 1便→2便
A321(194席) 1便→2便
737-800(166席) 1便→2便
計4918席→4619席(299席、6%減)
ANAは、777と787を減らし、767、A321、737を増やしています。大型機での運航を減らして、中・小型機を増やす形です。冬ダイヤで座席数を合計で299席、6%削減します。
中型機1機分を削減
まとめると、羽田~伊丹間で、JAL、ANAいずれも約300席、中型機1機分の輸送力を削減します。見た目の運航本数における減便はありませんが、実質的には「1便分の座席数減少」と捉えることもできるでしょう。
羽田~伊丹線に関しては、関西万博の終了という特殊要因があり、旅客の減少が見込まれることが明らかという背景があります。とはいえ、JAL、ANAあわせて、600席を削減し、小型機での運航が7便にも達し、全体(30便)の2割を超えるときけば、衝撃的というほかありません。
定価が2倍で
羽田~伊丹線に関しては、航空券の定価(フレックス運賃)が32,800円となっていて、新幹線の14,720円の倍以上に達している点が、不利に働いています。
もちろん、両社とも割引運賃を設定しています。とくにJALでは、当日でも購入可能な14,540円~の運賃をPRしています。ANAも、前日までなら17,000円程度で購入できる割引運賃を販売しています。ただ、この価格では採算が取りにくいことも察せられます。
以前なら、定価に近い価格で購入してくれたビジネス客が多かったので、羽田~伊丹線は収益性の高い路線と目されてきました。しかし、さすがにこれだけ高いと、企業の出張でも定価利用はしづらくなっているのではないでしょうか。
ANAが異例の告知
さらに、オンライン会議の普及で、ビジネス客そのものが、減少傾向です。
ANAは、今回の冬ダイヤを発表するにあたり、「国内線事業は、コロナ禍前と比較してビジネス需要が回復しておらず、また、費用も増加しており、利益を創出することが厳しい状況にあります」と、異例の告知をしています。国内線での運休や減便に対する理解を求めた内容といえます。
ANAが国交省に提出した資料によると、インフレにより燃油費、整備費、航空機材費、人件費などの費用が増大していくなか、ビジネス需要の不振もあって、国内線では運賃に対する価格転嫁が進んでいません。
新幹線競合路線では赤字に
とくに新幹線との競合路線では、「需要の低い日付・便において訴求力のある価格で販売する戦略を取らざるを得ず、国内線マーケットは供給過多の状態」と訴えています。
ANAの資料によれば、2017年を100とした場合、新幹線競合路線の単価は95~96程度に落ち込んでいます。

羽田空港と伊丹空港発着の新幹線競合路線では、直近の利益率がマイナス15%程度にまで落ち込んでいます。おそらくは、羽田~伊丹線も赤字に陥っていて、今回の輸送力削減につながっているのでしょう。

他路線でも小型化
機材の小型化は、羽田~伊丹間に限った話ではなく、たとえばJALでは、羽田~青森で1日2便あった767運航便を1便に削減し、残りはすべて737にします。羽田~山口宇部では、その737すら維持しきれず、全便をエンブラエル190(95席)に縮小します。
ANAでも、羽田~秋田の早朝の767を737に置き換え、A320とA321の小型機に統一します。
簡単に値上げできず
ライバルとなる新幹線を擁するJR各社も、経営に余裕があるわけではありません。ただ、鉄道運賃は、航空運賃に比べて規制が厳しく、簡単に値上げできません。
となると、新幹線との競合区間の航空運賃も、水準が切り上がっていきません。必然的に、今後も国内線での苦戦は続きそうで、機材の小型化や、減便は避けられないでしょう。
羽田枠がもったいない
ただ、貴重な羽田の発着枠を、儲からない新幹線並行路線にあてがって、小型機を飛ばし続けるのは、もったいない気もします。
羽田~伊丹線は、国内有数の利用者を誇る路線で、JAL、ANAがほぼ毎時運航し、あわせて1日30往復設定されています。しかし、儲からないなら、運航本数そのものを減らし、儲かる路線や、羽田枠を切実に欲している地方に割り振ったほうがいいような気もします。
さいわい、インバウンドのおかげで国際線は活況で、JAL、ANAとも収益源は国際線になっています。羽田~伊丹で737を飛ばすなら、より利益の出る国際線を飛ばした方が、航空会社や利用者の利益になるでしょう。あるいは、発着枠のない地方空港に、公共事業として路線を設けるのも一案かもしれません。
東京~大阪間には、新幹線が数分おきに走っています。そのため、羽田~伊丹線が削減されても、困る人はそれほど多くないでしょう。貴重な発着枠は、より有効に活用してほしいところです。(鎌倉淳)