JR東日本が、2026年3月に運賃値上げを実施します。「電車特定区間」「山手線内」の廃止と「特定区間」の縮小により、山手線、横須賀線、中央線などの一部区間で、20~30%の大幅値上げとなります。値上げの大きな区間をランキングでみてみましょう。
平均7.8%の値上げ
JR東日本は、2026年3月に実施する運賃改定の申請が、国土交通省から認可されたと発表しました。JR東日本の運賃値上げは、消費税転嫁やバリアフリー運賃の導入を除くと、民営化後初めてです。
運賃の改定率は、普通旅客運賃が平均7.8%、通勤定期が12.0%、通学定期が4.9%です。初乗り運賃は150円(交通系ICカード147円)から160円(同155円)に変わります。
電車特定区間、山手線内を幹線に
今回の運賃改定の特筆点は、「電車特定区間」「山手線内」の運賃区分を「幹線」に統合することでしょう。電車特定区間や山手線内は、幹線に比べて割安な賃率が設定されてきましたが、それが廃止されることで、平均以上の値上げ率となります。
山手線内は、初乗りを除くと、17~25%程度の大幅値上げです。山手線内で最も値上げ率が高いのは16~20km区間で、これまでの280円(磁気券、以下同)が350円となり、25%の値上げとなります。品川~池袋間などが該当します。
利用の多い東京~新宿間など11~15kmの区間は、210円が260円となり、24%の大幅値上げです。
特定区間も縮小
私鉄との競合区間に設定していた「特定区間」も、大幅に縮小します。特定区間が撤廃された一部区間では、20-30%程度の大幅値上げになります。
特定区間の値上げ率を、ランキングにしてみました。
(配信先で表が崩れる場合は、こちらをご覧ください)
区間 | 現行 | 改定 | 値上率 | |
---|---|---|---|---|
上野 | 下総松崎/成田 | 940 | 1,230 | 31% |
鶯谷 | 下総松崎/成田 | |||
日暮里 | 成田 | |||
三河島 | 成田 | |||
南千住 | 成田 | |||
新橋 | 横須賀/衣笠/久里浜 | 950 | 1,230 | 29% |
浜松町 | 衣笠/久里浜 | |||
田町 | 衣笠/久里浜 | |||
高輪GW | 久里浜 | |||
品川 | 久里浜 | |||
大井町 | 久里浜 | |||
西大井 | 久里浜 | |||
横浜 | 田浦 | 490 | 620 | 27% |
渋谷 | 桜木町 | |||
渋谷 | 吉祥寺☆ | 230 | 290 | 26% |
新橋 | 東逗子/田浦 | 830 | 1,040 | 25% |
浜松町 | 東逗子/田浦/横須賀 | |||
田町 | 東逗子/田浦/横須賀 | |||
高輪GW | 東逗子/田浦/横須賀 | |||
品川 | 東逗子/田浦/横須賀/衣笠 | |||
大井町 | 田浦/横須賀/衣笠 | |||
大森 | 横須賀/衣笠 | |||
蒲田 | 衣笠 | |||
西大井 | 田浦/横須賀/衣笠 | |||
武蔵小杉 | 衣笠 | |||
大久保 | 西八王子/高尾☆ | 580 | 720 | 24% |
東中野 | 西八王子/高尾☆ | |||
中野 | 西八王子/高尾 | |||
高円寺 | 高尾 | |||
阿佐ケ谷 | 高尾 | |||
新宿 | 西八王子/高尾☆ | |||
大久保 | 豊田/八王子☆ | 500 | 620 | |
東中野 | 豊田/八王子 | |||
中野 | 八王子 | |||
高円寺 | 八王子 | |||
阿佐ケ谷 | 八王子 | |||
新宿 | 日野/豊田/八王子☆ | |||
横浜 | 鎌倉/逗子☆ | 360 | 440 | 22% |
保土ケ谷 | 逗子 | |||
品川 | 新子安/東神奈川☆/横浜☆ | 310 | 350 | 13% |
大井町 | 新子安/東神奈川/横浜 | |||
大森 | 東神奈川/横浜 | |||
西大井 | 新子安/東神奈川/横浜☆ | |||
上野・ | 安食/小林 | 940 | 1,040 | 11% |
鶯谷 | 安食/小林 | |||
日暮里 | 下総松崎/安食 | |||
三河島 | 下総松崎/安食 | |||
南千住 | 下総松崎/安食 | |||
北千住 | 成田/下総松崎 | |||
綾瀬 | 成田/下総松崎 | |||
亀有 | 成田 | |||
金町 | 成田 | |||
新橋 | 逗子☆ | 830 | 910 | 10% |
浜松町 | 逗子☆ | |||
田町 | 逗子☆ | |||
品川 | 逗子☆ | 740 | 810 | 9% |
大井町 | 逗子☆ | |||
西大井 | 逗子☆ | |||
東京 | 西船橋☆ | 320 | 350 | |
大久保 | 昭島☆/拝島☆ | 490 | 530 | 8% |
東中野 | 拝島☆ | |||
新宿 | 中神☆/昭島☆/拝島☆ | |||
渋谷 | 新子安☆/東神奈川☆/横浜☆ | 410 | 440 | 7% |
恵比寿 | 東神奈川☆/横浜☆ | |||
目黒 | 横浜☆ |
※☆は特定区間は維持。無印は特定区間を撤廃。
上野・日暮里~成田など
具体的な区間を、値上げ率の高い順にみていきましょう。
最大の値上げ率となるのは、上野・日暮里~成田間など7区間の31%です。これまで940円のところ、値上げにより1,230円になります。
該当区間は、京成線との競合区間です。ちなみに、京成上野~京成成田間は860円です。京成は現時点で値上げの予定はないので、上野~成田間で京成とJRの差額は370円、率にして43%も高くなります。
品川~久里浜など
次に大きな値上げ率となるのは、品川~久里浜間など11区間です。これまで950円だったところ、値上げ後は1,230円となります。29%の値上げです。
こちらは京急線との競合区間です。ちなみに、京急の品川~京急久里浜間は710円です。所要時間は京急は1時間5分、JRは1時間22分なので、運賃でも所要時間でも勝負になりません。
渋谷~桜木町、横浜~田浦
渋谷~桜木町間と、横浜~田浦間は、それぞれ現行490円が、改定後620円となります。渋谷~桜木町間は、東急東横線が桜木町まで運行していた時代の競合区間ですが、現在、東急は桜木町駅に乗り入れておらず、直接的な競合ではなくなりました。
東急・みなとみらい線の渋谷~みなとみらい間は510円で、現状ではJR優位ですが、値上げにより東急優位となります。
渋谷~吉祥寺、品川~横須賀など
渋谷~吉祥寺間は230円が290円となり、26%の値上げ率です。京王井の頭線との競合区間で、現状は両社同額ですが、改定後はJRが大幅に高くなります。
ただし、値上げ後も特定区間としては存続します。特定区間を撤廃したら350円になる区間で、50%以上の大幅値上げになってしまいます。それを26%に抑えたので、激変を緩和する意味があるのでしょう。
つづいて、品川~横須賀間など23区間が、830円から1,040円に、25%値上げとなります。京急との競合区間です。
新宿~八王子・高尾など
新宿~西八王子・高尾間など10区間は、580円から720円の24%値上げとなります。新宿~八王子間など10区間は、500円が620円となり、こちらも24%の値上げです。京王線の競合区間です。
京王線は、新宿~京王八王子・高尾間が、いずれも410円です。JRは値上げ後、京王と比べ50~70%程度も高くなります。
JRは大幅値上げにみえますが、これでも新宿~八王子・高尾間は、特定運賃を残しています。特定運賃を撤廃してしまうと、新宿~八王子が720円、新宿~高尾が810円となり、いずれも40%前後の大幅値上げになってしまいますので、こちらも激変緩和でしょう。
「逗子」競合は存続
横浜~鎌倉・逗子間など3区間は、現状360円が改定後440円となり、22%の値上げとなります。
横浜~逗子間は特定運賃を残します。特定運賃を設定しない場合は530円で、47%の大幅値上げになってしまうので、こちらも激変緩和区間といえます。ちなみに、京急の横浜~逗子間は350円です。
「あきらめない区間」と「あきらめる区間」
特定区間を全体に見てみると、京成競合は全廃、京急競合は横須賀絡みを廃止(品川~横浜と逗子絡みは存続)。東急東横線競合は基本的には存続、京王線、西武新宿線競合は存続ですが、割引率を抑えめにするようです。
値上げ率で見てみると、「10%程度(7~13%)」と「20%台(22~31%)」の二種類に、大きく分かれています。特定区間の扱いには2種類あるということでしょう。私鉄との競争を「あきらめない区間」と「あきらめる区間」です。
「あきらめない区間」は、渋谷~横浜や、品川~横浜・逗子、新宿~拝島などで、値上げ率を10%前後に抑えています。競争力のある区間とみて、平均の値上げ率程度にとどめたのでしょう。
上野~成田間や、品川~横須賀間のように、利便性や所要時間で私鉄優位の区間は、競争をあきらめるという印象です。30%前後の大幅値上げとなるのは、いずれも「あきらめ」といえる区間です。
「無理しない区間」
特定区間を維持しながら、20%の高い値上げ率の区間もあります。上記のように、撤廃すると値上げ率が高すぎるための「激変緩和」の意味があるのでしょう。京王競合の渋谷~吉祥寺、新宿~高尾・八王子、京急競合の横浜~逗子などが、激変緩和系の例といえます。
新宿~八王子・高尾については、対京王で十分、競争力があるようにみえます。しかし、中央線の混雑を考慮して、無理に集客しない方針に転じたのでしょうか。横浜~逗子も、それなりに競争力がありますので、安売りしてまで集客を狙わないのかもしれません。
これらは、「あきらめる」というよりは「無理しない区間」でしょう。こういう区間は、それなりに利用者がいるので、値上げの影響も大きそうです。
JRとしては、賃率をできるだけ統一し、シンプルな運賃制度にしていきたいようです。となると、「激変緩和」系で今回は残された特定区間も、次回以降に姿を消す可能性もありそうです。(鎌倉淳)