東京から白馬八方尾根に、新幹線で日帰りスキーをしてみました。今は日帰り向きのスキー場ではありませんが、新ゴンドラとベースセンターハウスが整備されれば、変化が起こるかもしれません。
日本を代表するスキー場
白馬八方尾根スキー場は、日本を代表するスキー場の一つです。長野オリンピックでアルペンスキーの競技会場にもなったこともあって、国際的な知名度は高く、インバウンドのスキー・スノボ客からも高い人気を誇ります。
ただ、駐車場やバスターミナルからリフト・ゴンドラ乗り場が離れていて、センターハウス機能も分散していることから、気楽に訪れにくい側面もあります。とくに、更衣室やレンタルなどを備えた総合的なセンターハウスがゴンドラ付近にないため、日帰りで立ち寄って滑るには不便です。
こうした課題は、八方尾根スキー場の運営会社も認識しているようで、昨秋には、運営する八方尾根開発と白馬観光開発の両社が、新たなゴンドラとセンターハウスを一体的に整備することを発表しました。2027年12月にオープンする予定です。
新ゴンドラ、センターハウスの開業で八方尾根がどう変わるのか。2月の平日に、東京から日帰りで訪れてみました。
東京駅から約3時間
東京から白馬への最短ルートは、北陸新幹線で長野まで行き、そこからバスに乗り継ぐことです。東京駅06時16分発の「かがやき501号」で出発し、長野駅07時26分着。長野駅を08時15分発の特急バスに乗り継ぎます。
この便は、長野駅と白馬八方バスターミナルをノンストップで結びます。乗客は25人で、みたところ、日本人は5人だけ。8割が外国人でした。
バスは、無料化されたばかりの白馬長野有料道路を通り抜け、白馬八方バスターミナルに09時20分ごろ到着しました。定刻より5分ほどの早着です。東京駅から約3時間かかりました。
八方バスターミナルは、インバウンドを中心としたスキー・スノボ客であふれかえっています。周辺スキー場へ向かうシャトルバスへの起点にもなっていることから、この時間は、バスと利用者でごった返し、容量をオーバーしているようにも感じられました。
どこで着替えるか
八方尾根スキー場は、山麓部に4つのゲレンデがあり、このうち名木山、咲花、白樺の3ゲレンデに更衣室とロッカーがあります。ただ、いずれもセンターハウス的な場所とはいえません。
一方、バスターミナルには八方のインフォメーションセンターが併設されていて、2階には小さいながらも更衣室とロッカーがあります。そのため、日帰りの場合は、ここで着替えてスキー場まで歩く人も多いようです。ただし、リフトやゴンドラ乗り場までは、1~2kmの距離があります。
いずれも一長一短があり、八方尾根スキー場を公共交通機関で日帰り利用する場合、最も悩むのが、この「ロッカーと更衣室」の問題です。
さらに、レンタルをする場合は、どこで借りるかという問題もあります。スキー場周辺にはレンタル店舗が多数ありますが、いわゆる「公式レンタル」はなく、選び方に迷います。ウェアも借りる人は、更衣室の問題もからみ、より面倒な選択をしなければなりません。

名木山センターハウス
筆者は、バスターミナルから比較的近い、名木山の八方尾根スキースクールの更衣室を借り、近くのレンタル店で板を借りることにしました。
八方尾根スキースクールに行ってみると、「名木山センターハウス」の看板が掲げられ、確かに更衣室はありました。しかし、生徒御用達という感じで、スキースクールの施設の片隅を使わせてもらっているかのようです。
他に人もおらず、のんびり着替えさせていただけましたが、なんとなく肩身が狭い場所でした。「世界のHAPPO」というリゾート感はなく、質実剛健な雰囲気です。
ちなみに、八方尾根の新たなセンターハウスの建設が予定されているのも、この名木山ゲレンデです。それについては後で触れます。
いまの名木山では、チケットブースやレンタルショップはセンターハウス内になく、離れた小屋に収まっています。ローカルスキー場の雰囲気すら漂い、滑っている人も多くはありません。
上級者の比率高く
リフトを乗り継いで、山上部の黒菱ゲレンデに達すると、雰囲気は一変し、メジャースキー場の風格が漂ってきます。
コースは広く、斜面バリエーションが豊富。奥行きもあって、何度滑っても飽きません。そのうえ雪質は軽く、滑走感は抜群で、ここが日本を代表するスキー場であることを実感します。
ゲレンデは多くのスキーヤー、スノーボーダーで賑わっています。そして、みなさん、上手なこと。とにかく上級者の比率が高いゲレンデです。レベルの高いレッスンに勤しんでいる人も多く見かけます。
外国人スタッフに日本語で
山上のテラスに立ち寄ってみると、例によって、利用者の多くは外国人。インバウンドの旅行者です。
筆者が最近訪れた苗場やトマムにくらべるとアジア系の比率は低めで、欧米系、おそらくはオーストラリア人が多いように見受けられました。
下の画像のテラスで、日本語の会話はまったく聞こえません。
山麓の咲花ゲレンデに降りて昼食を摂ります。やはり食事を取っている客のほとんどは外国人です。
対応するスタッフも外国人で、筆者が日本語でオーダーすると、「しょしょお待ちください」とたどたどしい日本語で返されました。
ゴンドラに乗ってみる
午後は白樺ゲレンデに行き、ゴンドラにも乗ってみます。多くのスキー場で、ゴンドラ乗り場はセンターハウスに隣接していますが、八方尾根の場合、センターハウスと呼べるほどの施設はゴンドラ乗り場にありません。
ゴンドラ近くには、大型駐車場も長距離バスの発着地もなく、ちょっと不便です。
運営側も課題として認識しているようで、このゴンドラは、新ゴンドラができたら廃止される予定です。ゴンドラの起点は、白樺ゲレンデから名木山ゲレンデに移ります。
リーゼンスラローム
ゴンドラで山上に上がり、その名木山ゲレンデへ向かって降りていきます。八方尾根を代表する名物コース「リーゼンスラローム」です。
午後なので少し荒れていましたが、確かに快適なクルージングコースです。新ゴンドラは、リーゼンスラロームを回しやすいように設置されますので、いまより使い勝手がよくなり、人気が高まりそうです。
新ゴンドラの概要
その新ゴンドラについてご紹介すると、区間は名木山~うさぎ平で、線路延長は水平長2,200m、高低差約650mです。
1台に10人が乗車可能な大型搬器となります。既存のゴンドラと比較して、スピードは秒速4mから秒速6mにアップ。所要時間は現行の約8分から1分以上短縮します。輸送力は毎時1,350人から2,400人に向上します。

新センターハウスの概要
ゴンドラの起点となる名木山エリアでは、新たにベースセンターハウスを設置します。新センターハウスには、インフォメーション、レンタルショップ、チケットセンター、スキースクール、カフェレストラン、売店などを設置します。
現状の八方尾根は、こうした「センターハウス機能」に必要な施設が複数の建物に分散していて、利便性、快適性に課題があります。新センターハウスは、こうした課題を一気に解決するものになります。
また、日帰り利用者向けに、新駐車場(約230台)を建設します。これにより、八方尾根の「日帰りしにくい」という問題も改善するのでしょう。
ただ、新センターハウスに、長距離バスやツアーの団体バスが乗り入れるという情報は、いまのところありません。長野駅や新宿駅などからの路線バスや、団体用の大型バスが、新センターハウスに乗り入れるかどうかは、八方尾根スキー場の利便性に関わる大きなポイントなので、注目されるでしょう。
日帰りには向かない
15時頃に滑り終え、着替えて八方尾根のバスターミナルまで歩き、16時20分発の長野行きバスで出発。長野駅に17時30分に到着し、17時56分発の「かがやき512号」に乗車します。東京駅到着は19時20分でした。
東京駅を出てから戻るまで、約13時間。実際の滑走時間は4時間半くらい(休憩含む)でしょうか。丸一日かけて4時間半滑っただけなので、時間的な効率は良いとはいえません。もちろん費用もかかります。タイパもコスパも悪いです。
率直な感想をいえば、東京から白馬の往復だけで疲れました。白馬エリアは東京からの日帰りスキーには不向きで、おすすめはしません。
変化が起こるか
そもそも白馬エリアは温泉とスキーが楽しめるリゾート地であり、宿泊してこそ、その素晴らしさがわかる土地でしょう。八方尾根スキー場は雄大で、とても4~5時間の滑走では足りませんので、その点でも宿泊して訪れることをおすすめします。
ただ、最近の白馬は外国人客の集中と宿泊費の高騰が重なり、日本人には敷居が高くなりつつあります。「いつかは行きたい」「もう一度行きたい」と思いつつ、足が向かないという日本人スキーヤー、スノーボーダーも多いのではないでしょうか。
そうしたなか、新ゴンドラとセンターハウスが整備されれば、八方尾根は、いまより立ち寄りやすいゲレンデになるかもしれません。変化を楽しみに期待したいところです。(鎌倉淳)