JR西日本が山科駅を改良し、特急「はるか」を同駅まで延伸する計画を発表しました。山科駅を京都の東の玄関口と位置づけ、いわば「京都山科駅」として整備する構想です。関西空港直結となることで、どの程度利用されるのでしょうか。
引上線を整備
JR西日本は、東海道線(琵琶湖線)の山科駅を改良し、特急「はるか」が山科駅に乗り入れることを発表しました。
JR山科駅は、京都駅の東側の隣駅で、琵琶湖線と湖西線が発着します。京都駅との駅間距離は5.5kmで、所要時間は4~5分です。
JR西日本の計画案によると、山科駅の3番線の内側の線路を引上線に変更し、構内に上下線をつなぐ渡り線を新設します。これにより、大阪方面からの「はるか」が、山科駅で折り返し運転ができるようになります。
新ホームも設置
さらに、現在ホームがない上り通過線に12両編成のホームを新設します。こちらは、琵琶湖線や湖西線の列車が発着できるようにするためとみられます。
そのほか、柵内コンコースや跨線橋を延伸したり、エスカレーターやエレベーターを整備します。これらは、旅行者の増加に備えるための措置です。
特急「はるか」の山科駅延伸は、2029年度を予定します。現在京都折り返しの「はるか」の全列車が、山科折り返しになる予定です。総事業費は100億円規模です。
「京の東の玄関口」
JR西日本では、特急「はるか」の山科駅延伸の目的として、「山科駅を京の東の玄関口として利用いただくため」としています。
山科には、JR線のほか、地下鉄東西線や京阪京津線が乗り入れています。JR西日本は、とくに地下鉄東西線への乗り換えについて、「京都市内アクセスがより便利に」なるとPRしています。
特急「はるか」で京都を訪れた観光客が、市内に向かう際に、山科駅から地下鉄アクセスを活用するよう促しているわけです。
嵯峨野線の容量拡大
特急「はるか」の山科延伸には、もう一つ狙いがあります。京都駅の嵯峨野線ホームの容量拡大です。
現在、嵯峨野線は31~34番線の3線を使用していますが、ホームは狭く、近年の観光客の増加に対応しきれていません。
ホーム容量の拡大に効果的なのは、現在「はるか」が使用している30番線を転用することです。「はるか」を山科発着とすれば、30番線を「はるか」の折り返しに使う必要がなくなり、嵯峨野線用にできます。
つまり、「はるか」の山科駅延伸運転により、嵯峨野線の京都駅のホーム容量を拡大でき、混雑緩和を実現できるのです。嵯峨野線のダイヤの柔軟性も高められ、増発にもつながります。
駅名の問題
では、「はるか」が山科駅発着となることで、京都への鉄道アクセスはどう変わるのでしょうか。
すでに記したように、関西空港駅発の「はるか」は、基本的に全列車が山科駅行きとなります。ここで問題になるのが「山科」という駅名の呼称問題です。関西圏以外からの旅行者、とくに外国人に、「山科」は知られていません。
となると、関西の玄関口である関西空港からの特急の目的地が、不明瞭になってしまうという問題が生じます。
そこで検討されそうなのが、改称でしょう。たとえば、阪急電鉄は京都線の終点の「河原町」を「京都河原町」と改称しました。同様に考えれば、山科駅についても、たとえば「京都山科」への改称が検討されるかもしれません。
また、「はるか」が山科へ延伸する2029年度の1年後には、なにわ筋線の開業が予定されています。したがって、関西空港発の「はるか」は、なにわ筋線経由になります。
なにわ筋線経由になることで、関西空港~京都間の所要時間は、現在より短縮される見通しです。関西空港~山科間が、現在の関西空港~京都間くらいになるかもしれません。すなわち、車両の運用増を心配する必要は、それほどなさそうです。
運賃・料金はどうなる?
運賃・料金はどうなるでしょうか。
関西空港~京都間は99.8kmで、運賃も特急料金も、ギリギリで「100km圏」です。しかし、関西空港~山科間は105.3kmですので、100kmを超えます。
2025年4月以降の電車特定区間新運賃では、91~100kmは1,640円、101~120kmは1,880円ですので、山科発着の場合240円高くなります。
指定席特急料金は、現状で100kmまで1,730円のところ、101km以上は2,390円となっています。
すなわち、関西空港を起点とみれば、京都と山科では運賃も料金も異なり、山科駅利用は割高になります。なにわ筋線開業後、距離は3kmほど短縮されそうですが、京都~山科間の運賃・料金差は残りそうです。
ただ、山科駅を「京の東の玄関口」と位置づけ、関西空港からの利用を促すのであれば、特定運賃・料金を設定する可能性はあるでしょう。「関西空港→京都・山科」などという形で、同一料金になるかもしれません。
京都のどのエリアが便利になるか
京都市街地で、「山科経由」が便利になるのは、地下鉄東西線沿線の、とくに東山エリアでしょう。
たとえば、三条京阪駅へ向かう場合、山科駅から地下鉄東西線で9分です。「はるか」で京都~山科間が5分程度かかると考えると、京都駅から合計14分程度です。
いっぽう、京都駅から三条京阪駅まで、地下鉄烏丸線と東西線を乗り継いだ場合、京都~烏丸御池間が6分、烏丸御池~三条京阪が3分で、合計9分です。
山科経由のほうが少し時間がかかりますが、京都駅と山科駅の乗り換えのしやすさを比較すれば、山科経由を選ぶという考え方もあるでしょう。ホテルが三条京阪より東にあるなら、山科経由のほうが便利といえそうです。
京都駅の混雑を避けられる
現時点でも、京都の東山エリアへ向かう場合は、京都駅から地下鉄烏丸線やバスを使うより、山科駅から地下鉄東西線を使ったほうがラクな場合があります。
京都駅は、JRと地下鉄との乗り換えが不便とまではいえませんが、構内は複雑で、初めての旅行者にはわかりにくいです。そのうえ、とにかく混雑しますし、大きな荷物を持って歩くのは大変です。
これに対し、山科駅は迷いにくいですし、コンパクトで、地下鉄との乗り換え動線も長くありません。「はるか」が発着するようになれば、今よりは混雑するでしょうが、京都駅に比べればマシでしょう。
そのため、山科駅乗り換えは、京都駅乗り換えに比べ、一定のアドバンテージがあります。「はるか」の山科駅乗り入れにより、混雑を避けたい観光客の利便性が高まるのは確かです。
観光・ビジネスの補完拠点へ
京都市とJRは、山科駅周辺を観光やビジネスの補完拠点と位置づけて整備する方針です。
京都駅や京都市内交通の混雑を考えれば、山科駅を第二の拠点に育て、利用者を分散させる意義は大きいでしょう。
そういう方針であるならば、「はるか」延伸で関西空港と直結させるだけでなく、たとえば「サンダーバード」の山科駅停車が検討されることになるかもしれません。
期待通りに、山科駅が「京の東の玄関口」に成長できるか。楽しみです。(鎌倉淳)