芸備線「再構築協議」の結末は? JR西「廃止後も関与」の姿勢を示す

自治体は国に関与を求める

JR芸備線の再構築協議会の第2回会合が開催されました。JR西日本は、鉄道を廃止した場合でも地域交通に関与する姿勢を示しました。

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利用状況の調査を実施

JR芸備線は備中神代~広島間159.1kmの路線です。このうち備中神代~備後庄原の68.5kmの利用者がきわめて少なく、JR西日本が再構築協議会の開催を要請しました。2024年3月に第1回会合が開かれ、「あり方」について議論を開始しています。国土交通省中国運輸局、沿線自治体、JR西日本などが参加しています。

2024年10月16日に開かれた第2回会合では、総額2000万円の予算が承認され、おもに沿線住民の移動実態や地域公共交通機関の利用状況について調査することが決まりました。対象区間は広島~備後庄原も含めた芸備線全線です。また、これまで協議会に不参加だった安芸高田市が、今回から参加することも決まりました。

再構築協議では、調査や実証事業をおこなったうえで、地方公共団体と鉄道事業者が合意のうえ、おおむね3年以内に結論を出すことが求められています。芸備線でも、実施される調査結果を基に実証実験をおこない、それを踏まえて存廃を含めた「あり方」の議論がおこなわれるとみられます。

芸備線

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JR西グループによるバス運行も

山陽新聞デジタルによれば、会議の席上、JR西日本の広島支社長が、沿線自治体から「責任ある形で関わるか」と問われました。

これに対し、JR支社長は上下分離などで「列車の運行を担うことが検討できる」と説明。さらに、バス転換した場合に「JR西のグループ会社による運行、新たな運行事業者設立に向けた共同出資の可能性」について言及したということです。

バスに転換した場合、その運営にJR西日本がかかわる姿勢を示したといえます。過去のJRローカル線廃止では、いわゆる「転換支援金」を支払ったうえで、バス運行を地元に丸投げするケースが多かったのですが、芸備線に関しては、丸投げはしない、ということです。

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再構築協議会制度導入の提言を踏まえ

これには背景があります。再構築協議会制度を導入するきっかけとなった国交省の「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」(地域モビリティ検討会)の提言において、JR各社は鉄道廃止後も、「沿線自治体や地元のバス事業者等との協働により、その持続的な運行及び利便性の確保に最大限の協力を行うべきである」という一文が盛り込まれたためです。

国が再構築協議会の制度を導入するにあたり、「ローカル線廃止後もJRがバスの運営にかかわること」を求めた内容といえます。JR広島支社長の回答は、この提言を踏まえたものでしょう。芸備線の再構築協議会はJRが要請したものですので、JRが提言の趣旨を守るのは当然といえば当然の話です。

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国の関与を求める

一方の自治体側は、国の関与を求めています。広島県の玉井優子副知事は「現状のままではJRの恣意的判断でローカル線の廃止が全国で際限なくされていくのではと危惧している。ローカル線維持における内部補助の考え方や国の責任を含めた全国の鉄道ネットワークのあり方についての整理はこの協議会の議論における大前提で、早期に明らかにしていただきたい」と迫りました。

芸備線の輸送密度はきわめて低いので、単純に利用状況を基に議論をすると、地元負担なしでの存続が困難なことは明らかです。地元自治体としては、JRの内部補助や国の支援による存続を引き出したいところでしょう。

副知事のいう「国の責任」とは、国鉄分割民営化の経緯を踏まえています。分割民営化後のJR会社法改正にともなう大臣指針で、JRが「現に営業する路線の適切な維持に努める」ことを配慮事項として定めました。

しかし、芸備線の廃止を議論するならば、「現に営業する路線を維持しない」ことになります。それを踏まえて、副知事は、国が改めて全国の鉄道ネットワークをあり方を整理せよと主張しているわけです。

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国は「行司役」

「地域モビリティ検討会」の提言では、「国鉄改革後35年という年月を経て(中略)JR各社のローカル鉄道を取り巻く環境は劇的に変化した」として、ローカル線の存廃議論について理解を求めたうえで、「国が主体的に関与しながら、沿線自治体とともに、その在り方について検討していくべき」としています。提言でも国の主体的な関与を求めているのです。

とはいえ、再構築協議会の制度設計では、国はJRと自治体の「行司役」に徹することになっていて、自ら責任を負わない形です。国が主体的となるのは「検討への関与」までで、ローカル線の維持そのものに責任を負いません。

国としては、ローカル線の維持は地域の問題、という姿勢です。ただ、再構築協議会導入にあわせて、社会資本整備総合交付金をローカル線の再構築に幅広く使えるようにするなど、財政的に支援する制度は整えました。

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現実解はあるのか

かみ合わない議論で、国と自治体の責任のなすり合いにも見受けられます。上述のように再構築協議会には期限が設けられていて、「3年以内に沿線自治体と鉄道事業者が合意の上、対策を決定すべき」となっています。しかし、ここまでの協議を見る限り、3年でどんな合意が得られるのか、想像もつかないというほかありません。

では、現実解はあるのでしょうか。考え得るものとしては、「特定BRT」でしょう。特定BRTとは、上記提言で示された「新たな輸送体系」の一例で、以下のような要件が定義されています。

・ 鉄道事業者が自ら運行するか、運行に対して同様の強い関与を行うこと
・ 鉄道乗り継ぎ駅における乗り継ぎの利便性が確保されていること(駅構内乗り入れによるホームでの対面乗換の実現など)
・ 鉄道と同等の運賃水準、鉄道との通し運賃が設定されていること
・ デジタル技術等の新技術を活用して定時性・速達性が確保されていること
・ 鉄道と同等又はそれ以上の便数の実現や、バス停の新設、高校・病院等への立ち寄りなどにより、総合的に鉄道が運行していた時と比較して利便性が向上していること
・ 時刻表に引き続き鉄道路線に準じる形で掲載されること
・ 社会環境の変化等がない限り、長期にわたる運行が行われること
・ 法定協議会で地域公共交通計画を作成し、本事業が位置づけられていること

要するに、バス転換はするものの、時刻表上には鉄道と同様の扱いをして、運賃も通算する路線です。中国JRバスが運営を担うのであれば、自治体としては廃止後の負担がないので、ギリギリで受け入れられる範囲でしょう。

JR広島支社長の発言も、こうした転換形式を意識しているように見受けられます。

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安易に受け入れられず

ただ、広島県としては、鉄道廃止の前例を作れば、他路線への波及が予想されるだけに、安易に受け入れるわけにもいかないでしょう。今回は備中神代~備後庄原間だけですが、この区間の廃止を受け入れると、さらに対象になりかねない路線が広島県内には他にもあります。

当の芸備線も、輸送密度だけをみれば、国鉄時代の廃止基準である4000を上回っているのは下深川~広島間だけです。ここできちんと抵抗しておかないと、将来的に下深川以東の全区間で鉄路を失いかねません。広島県が「全国の鉄道ネットワークのあり方」の再整理を国に求める事情として、そうした危機感もあると察せられます。

では、自治体が廃止を受け入れなかった場合、合意なき状況で再構築協議会を幕引きできるのでしょうか。その場合、芸備線の「あり方」はどう結論づけられるのでしょうか。明確なことはわかりません。

国やJRとしては、全国で初の再構築協議会ですので、丸く収めて終わりたいというのが本音でしょう。次回の協議会は年度内に開かれる予定ですが、どんな議論になるのか予断を許しません。(鎌倉淳)


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