近鉄けいはんな線、延伸への活路を探る。リニア直結の可能性?【鉄道未来年表補遺編】

京都~夢洲特急のルートにも

9月25日に刊行された『鉄道未来年表』(鎌倉淳著、河出書房新社)には、原稿にしながら、ページ数の都合でやむなく削除した項目があります。その一部を、「補遺編」としてご紹介します。今回は、「近鉄けいはんな線、延伸への活路を探る」です。

(※以下は、『鉄道未来年表』で未掲載となった項目の原稿を基に記事化したものです)

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2006年開業の新線

近鉄けいはんな線は、長田~学研奈良登美ヶ丘間18.8kmを結ぶ、近鉄で一番新しい路線である。大阪メトロ中央線と直通運転し、一体的に運行されている。中央線は万博が開かれる夢洲への延伸を2025年1月に控え、関西でいまもっとも注目されている路線の一つといえるだろう。

けいはんな線の全線開業は2006年3月で、開業から20年近くになる。しかし、利用は低迷している。

2010年の事後評価総括表によれば、生駒~登美ヶ丘間の開業5年目の1日あたりの利用者数は、25,000人(2009年)にとどまった。5年目の想定利用者数が1日84,000人だったので、3割程度である。

奈良県の資料によれば、2019年度の年間乗車人員は570万人である。1日あたりだと16,000人程度だ。「利用者数」を倍とみて計算しても、32,000人程度にとどまる。

近鉄けいはんな線7000系
 

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二つの延伸ルート

けいはんな線では、終点の学研奈良登美ヶ丘駅から先の延伸計画が残されている。2004年の近畿地方交通審議会答申第8号では、「中長期的に望まれる鉄道ネットワークを構成する新たな路線」として、高の原または新祝園までの延伸が盛り込まれた。登美ヶ丘~高の原間が3.8km、登美ヶ丘~新祝園間が6.2kmである。

開業区間の利用が伸び悩んでいる状況もあって、延伸は事実上凍結されている。人口減少の時代を迎え、今後、けいはんな線がさらに延伸される可能性は高くはない。

ただ、地元では延伸に向けた調査が続けられている。2018年度の精華町の調査によれば、高の原ルートの概算事業費は350億円、想定利用者数は16,700人。新祝園ルートは570億円の25,200人である。報告書では、新祝園ルートのほうが事業費は高いが、それに見合う利用者数が見込まれるとして高い評価を付けた。

近鉄けいはんな線延伸
画像:「精華町における京阪奈新線に関する調査報告書」より

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京都~夢洲特急のルートに

新祝園ルートの強みは、近鉄京都線、JR学研都市線の2路線に接続する点にくわえ、京都からけいはんな線、中央線を経て夢洲に至るルートを構築できることだ。けいはんな線は第三軌条方式、近鉄京都線は架線方式と集電方式は異なるが、複数集電方式の車両を開発し、新祝園で近鉄京都線と線路をつなげれば直通できる。

実現できれば、近鉄京都駅から大阪メトロ夢洲駅まで直通特急の運行が可能になる。夢洲にIRができれば、インバウンドの観光客を運ぶルートになるということだ。

近鉄けいはんな線延伸
画像:「精華町における京阪奈新線に関する調査報告書」より

 
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リニアとの接続可能性

高の原ルートは建設距離が短く事業費は安いが、多くの利用者は望めない。高の原駅では近鉄京都線と直交するので、線路をつなげることも困難だ。したがって、「京都・夢洲特急」が乗り入れることもできない。

ただ、報告書には記されていないが、高の原ルートには別の可能性もある。リニアの駅がJR奈良線の平城山駅付近に設置された場合、そのアクセス路線として活用できるかもしれないのである。

リニアは名古屋~大阪間で奈良県を通る予定である。奈良県の駅の候補地は3箇所あり、平城山駅付近はその一つだ。他の候補地は、奈良市八条の大安寺周辺にできるJR新駅付近と、JR大和路線と近鉄橿原線が交差する付近(大和郡山市)である。

リニア奈良県駅
画像:奈良市資料

平城山駅から高の原駅までは、直線距離で2kmあまり。登美ヶ丘駅まで6kmほどだ。そのため、リニアの奈良県駅が平城山に決まれば、けいはんな線を登美ヶ丘~高の原~平城山と延伸することで、学研都市や生駒・東大阪エリアからリニアへのアクセスが改善する。近鉄としても、リニアに接続する自社線は望むところだろう。

近鉄けいはんな線延伸
画像:国土地理院地図を加工

平城山駅にリニア駅ができれば、品川駅まで60分程度で結ばれる。近鉄けいはんな線が乗り入れれば、学研奈良登美ヶ丘駅から都内まで、乗り継いで1時間半程度になるだろう。登美ヶ丘周辺は「東京にも通勤できる関西の住宅地」に変貌する。

人口減少時代を迎え、これからの鉄道新線は、空港、新幹線、リニアへのアクセスや、インバウンドが絡まないと、実現は難しい。現状のけいはんな線は利用状況が厳しく、本当に延伸できるかといえば難しいが、活路があるとすれば、リニア接続とインバウンド取り込みだろう。(鎌倉淳)


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【本書の内容構成】
序章 鉄道未来年表 2025~2050
1章 人口減少時代の鉄道の未来
2章 東京圏の鉄道の未来
3章 大阪圏の鉄道の未来
4章 新幹線と並行在来線の未来
5章 地方鉄道の未来
6章 車両ときっぷの未来

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