政府新方針、都市鉄道の早期整備など盛り込む。鉄道新線の調査が活発に?

次期答申を見据え

政府の経済政策の基本方針といえる『骨太の方針』(経済財政運営と改革の基本方針 2024)の原案がまとまりました。都市鉄道新線の早期整備や、新幹線の基本計画の調査がなどが盛り込まれ、鉄道新線建設に向けた検討が活発になりそうです。

広告

『骨太の方針』原案公表

政府が公表した2024年の『骨太の方針』原案では、交通網に関する記述として、「高規格道路、整備新幹線、リニア中央新幹線、都市鉄道、港湾、空港等の物流・人流ネットワークの早期整備・活用、モーダルコネクトの強化、航空・海運ネットワークの維持・活性化、造船業の競争力強化等を推進するとともに、担い手の確保・育成に取り組む」と記されました。

2023年版では「高規格道路、整備新幹線、リニア中央新幹線、港湾等の物流・人流ネットワークの早期整備・活用、航空ネットワークの維持・活性化、モーダルコネクトの強化、造船・海運業等の競争力強化等に取り組む」となっていました。

東京メトロ17000系

広告

「都市鉄道」が早期整備の対象に

2024年の大きな変更点としては、「都市鉄道」が「早期整備・活用」の対象に含まれたことでしょう。

国土交通省は、「今後の都市鉄道整備の促進策のあり方に関する検討会」を開催していて、近くとりまとめ案を公表する予定です。都市鉄道建設に関して、新たな費用負担のあり方が示されることになっていて、それを踏まえて、『骨太の方針』に「都市鉄道の早期整備」が盛り込まれたとみられます。

検討会のとりまとめでは、受益者負担の対象や期間を広めることが要点になりそうです。鉄道新線建設に新たな財源が生まれるわけで、新線建設の整備へ向けた動きが活発になりそうです。

広告

基本計画路線は「諸課題の調査」に

『骨太の方針』2024年版で、上記につづく一文は「基本計画路線及び幹線鉄道ネットワークの地域の実情に応じた諸課題について調査検討を行う」となりました。

2023年版では「基本計画路線及び幹線鉄道ネットワーク等の高機能化等の地域の実情に応じた今後の方向性について調査検討を行う」でしたので、「高機能化等」がはずれ、調査対象が「今後の方向性」から「諸課題」に変わりました。

この要素は、2023年版で初めて盛り込まれたものです。これにより、新幹線の基本計画路線について「地域の実情に応じた方向性」を調査することが認められ、東九州新幹線の久大線ルートや新八代ルートの調査が始まるきっかけとなりました。

2024年版では「地域の実情」に応じた「課題」を抽出する調査・検討を促す表現に変更されます。たんなる「方向性」の調査より深掘りができそうで、新幹線基本計画路線の調査が活発になりそうです。

広告

リニアは名古屋以西の駅位置確定を促す

リニア中央新幹線については、『骨太の方針』2024年版で「全線開業に係る現行の想定時期の下、適切に整備が進むよう」と記されました。

2023年版では、「全線開業の前倒しを図るため、建設主体が本年から名古屋・大阪間の環境影響評価に着手できるよう」という表現でした。これを受け、JR東海は2023年12月に、名古屋以西の環境アセスに着手しています。

いっぽうで、JR東海は、2027年の名古屋開業を断念しました。2024年版『骨太の方針』の記述は、名古屋開業が後ろ倒しになったとしても、全線開業について予定通りを求めたことを意味しています。

2024年版では「名古屋以西について、駅の整備に関する検討の深度化など、整備効果が最大限発揮されるよう、沿線自治体と連携して駅周辺を含めたまちづくりを進める」とも記され、駅位置の早期決定を促す記述になっています。

広告

地域公共交通は「担い手の確保」

地域公共交通については、『骨太の方針』2024年版で、「交通DX・GX、多様な関係者との連携・協働、ローカル鉄道の再構築、路線バスの活性化、自家用有償旅客運送を含む地域の自家用車や一般ドライバーの活用など『リ・デザイン』の取組を加速化し、省力化の促進、担い手の確保等に取り組む。デジタル田園都市国家構想の実現にも資する幹線鉄道の地域の実情に応じた高機能化に関し、更なる取組を進める」と記されました。

2023年版では「MaaS等の交通DX・GX、地域経営における連携強化、ローカル鉄道の再構築、地域の路線バスの活性化など『リ・デザイン』の取組を加速化するとともに、デジタル田園都市国家構想の実現に資する幹線鉄道ネットワークの地域の実情に応じた高機能化・サービスの向上、ラストワンマイルの移動手段であるタクシーや自家用有償旅客運送に関する制度・運用の改善等を通じて、豊かな暮らしのための交通を実現する」でしたので、記述がだいぶ変わっています。

2024年版では「MaaS」が抜け落ちているのが目立ちますが、別の位置に「交通・物流DX」という項目が設けられ、そちらに移動しています。

2024年版では「自家用有償旅客運送を含む地域の自家用車や一般ドライバーの活用」と記され、2023年版の「自家用有償旅客運送に関する制度・運用の改善」より一歩踏み込んだ内容になっています。「担い手の確保」が盛り込まれたことは、深刻化する運転手不足に対する危機感からでしょう。

ローカル線の再構築に関しては「取組を加速化」という記述に変化はなく、幹線鉄道についても「地域の実情に応じた高機能化」と、あまり変わらない表現です。「幹線鉄道ネットワーク」が「幹線鉄道」に変わった点と、「サービスの向上」が抜け落ちた点が、変化と言えば変化でしょうか。

広告

ピークロードプライシングを導入へ

「交通・物流DX」の項目では「高速道路の渋滞緩和や地域活性化等に向け、ETC専用化を踏まえ、2025年度より段階的に混雑に応じた柔軟な料金体系へ転換していく。このため、まずは現在のスキームの下で最大半額となる料金体系の導入に向け、8月を目途に検討を開始する」とされました。

これは2023年版にはなかった記述です。「最大半額となる料金体系」が気になりますが、いわゆるピークロードプライシングで、たんなる値下げではなく、混雑時には値上げされるとみられます。混雑状況に応じた料金体系に関する審議会を立ち上げる、ということでしょう。

広告

訪日客向けICカードを投入

「観光DX」の項目も新設されました。「訪日客向けICカードのモバイル化や交通・決済アプリの多言語化の利用を促進するとともに、地域共通のキャッシュレス・アプリ・予約サイト等の整備やデータ連携など面的DXを推進する」と記されています。

JR東日本が、訪日客向けの「Welcome Suica Mobile」アプリを2025年春に提供を開始することがすでに決まっていますので、とくに目新しい内容ではありません。半導体不足でカード型のICカードの調達がままならないなか、アプリ対応を強化する、ということでしょう。

広告

次期答申も見据え

『骨太の方針』の記述はあっさりしていますが、政府のその年の基本方針を示していますので、盛り込まれた単語や言い回しひとつひとつに意味があります。

ただし、政府の強い意志を込めた表現がある一方、たんなる省庁のプレゼンのような内容も含まれます。とはいえ、日本政府がこれからおこなう施策が網羅されていますので、読み込むと政策の方向性が理解できます。

その点でいえば、「都市鉄道の早期整備」が盛り込まれたことは、注目点でしょう。『骨太の方針』には触れられていませんが、『鉄道プロジェクトの評価手法マニュアル』の改訂作業も進んでいて、近く概要が発表されるとみられます。内容は、費用便益分析の評価手法の修正と、社会的割引率に参考値が導入されることなどが柱となりそうで、これまでより、新線建設の評価は「緩く」なりそうです。

要するに、鉄道新線整備の費用負担と評価手法について新たな方向性が示されるわけです。東京圏の鉄道ネットワークに関する交通審議会答申は、現答申の198号が2030年に期限を迎えます。次期答申の審議が数年後に開始されることを見据え、とくに首都圏での鉄道新線計画の調査が動き出しそうです。(鎌倉淳)

広告