北越急行ほくほく線をミニ新幹線化する計画が浮上しました。北陸新幹線と上越新幹線を結ぶルートとして活用する構想です。課題と実現性を考えてみました。
新潟県の高速鉄道検討委員会
新潟県は、新潟市と上越地域を結ぶ鉄道の高速化を図るため、「高速鉄道ネットワークのあり方検討委員会」を設置して、新たな高速鉄道の検討をしています。
9月27日に開かれた第4回会合では、北陸新幹線と上越新幹線をつなぐ新たなルートとして、北越急行ほくほく線を活用する案が示されました。
内容の詳細は公表されていませんが、新潟日報9月29日付によりますと「ほくほく線をミニ新幹線化し上越・北陸両新幹線に接続する案」を検討。あわせて「長岡駅から直江津駅を経て糸魚川までをミニ新幹線化する案」も議論したそうです。
検討委員会では、これまでに「長岡駅から直江津駅を経て上越妙高駅までミニ新幹線化する案」と「信越線にトンネルを整備して時間短縮する案」が議論されています。今回の2案とあわせて、計4案が俎上にのぼったことになります。
4つの案
改めてまとめると、新潟市と上越地域を結ぶ鉄道高速化として4案が候補に挙げられています。
①信越線トキ鉄・長岡~上越妙高ミニ新幹線化
②信越線トキ鉄・長岡~糸魚川ミニ新幹線化
③信越線改良
④北越急行ミニ新幹線化
「ミニ新幹線化」とは、在来線を改軌して新幹線と直通させることをいいます。
①②は、信越線とえちごトキめき鉄道の改軌案、③は信越線を改軌しない改良案です。④は北越急行を改軌した上で、北陸・上越両新幹線との連絡線を建設する案です。
それぞれの案のメリットやデメリット、課題について、順にみてみましょう。
①長岡~上越妙高ミニ新幹線化
信越線とえちごトキめき鉄道の長岡~上越妙高間83.4kmを改軌し、新幹線と直通させる案です。貨物列車を走行可能とするため、複線のうち1線だけを改軌する形になるでしょう。直江津~上越妙高間は単線なので、三線軌化します。
実現すれば、新潟市と富山市、金沢市などが新幹線で直通できるようになります。北陸新幹線が新大阪まで延伸すれば、新潟~新大阪の新幹線列車を設定することもできます。
ただ、直通新幹線は、上越妙高駅で方向転換する必要が生じます。また、上越妙高~直江津間は単線区間なので、工事期間中は列車の運行ができず、3~4年間の運休が想定されます。信越線での貨物列車ダイヤへの影響も課題です。
②長岡~糸魚川ミニ新幹線化
ミニ新幹線の北陸新幹線側の接続駅を糸魚川にする案です。上越妙高駅での方向転換という問題が解決し、直通新幹線が新潟~金沢~新大阪間を方向転換することなく走れます。
ただ、ミニ新幹線化する区間が111.8kmと長くなります。ミニ新幹線の最高速度は130km/h程度なので、これだけ距離が長くなると、時間短縮効果は限られたものになります。
改軌する区間が延びれば工事費も高くなりますし、貨物列車ダイヤへの影響という問題も解決できません。また、上越市の中心駅の一つである高田駅も経由できません。
③信越線改良
信越線改良案は、長岡~直江津間で短絡トンネルの整備や曲線の改良をおこなうものです。要は、在来線の高速化です。
ただ、狭軌の在来線を改良しても、新幹線と直通できません。また、時間短縮効果も限られます。新潟県内の移動だけをみれば意味がありますが、北陸三県や関西方面へのアクセスはほとんど改善されません。
④ほくほく線ミニ新幹線化
北越急行ほくほく線を改軌する案です。それだけでは新幹線と接続できないので、上越新幹線浦佐駅付近からほくほく線までと、ほくほく線から北陸新幹線上越妙高駅まで、それぞれ連絡線の新線を建設します。
実現すれば、新潟~長岡~浦佐~十日町~上越妙高~金沢方面とつながる「ほくほく新幹線」が誕生します。
詳細は明らかではありませんが、浦佐駅からの連絡線は、魚沼丘陵駅付近でほくほく線に合流する形でしょう。上越新幹線の分岐点は、浦佐駅から3kmほど南になると予想します。
上越妙高駅からの連絡線は、虫川大杉駅付近でほくほく線に合流する形でしょう。
上越妙高~虫川大杉間の連絡線は約20km。浦佐~魚沼丘陵間の連絡線は約5kmです。
メリットとデメリット
ほくほく線を改軌したうえで、合計約25kmの新線を建設しなければならないので、大工事です。
そのかわり、新潟市と金沢市、大阪方面の新幹線列車をスイッチバックなしで直通できます。将来的に経営難が予想されるほくほく線の救済策にもなります。信越線は複線電化で存続しますので、貨物列車への影響も生じません。
デメリットとしては、直江津駅や高田駅、柏崎駅といった拠点駅を経由しないことが挙げられます。なかでも、柏崎市のアクセス改善は検討委員会の目的の一つですが、ほくほく線ミニ新幹線化案では意味がありません。
新潟日報によりますと「信越線長岡・柏崎間に停車駅を減らすシャトル電車を設け、利便性を上げる」としていますが、救済策としては物足らないでしょう。
一方で、ほくほく線のミニ新幹線は十日町駅を経由できますので、十日町市の利便性は大きく上がるでしょう。
ほくほく線はどうなる?
ほくほく線を三線軌にするのか、改軌してしまうのかは何とも言えませんが、保線や車両管理のしやすさを考えれば、改軌の可能性が高そうです。
となると、普通列車は標準軌の車両が走ることになり、六日町~犀潟間の折り返し運転となります。直江津駅への直通はなくなりますので、地元の利用者は不便になるでしょう。
あるいは、犀潟~虫川大杉間は現状のまま残し、トキ鉄に移管する可能性もあります。内部留保豊富な北越急行が「持参金」をトキ鉄に渡せば、トキ鉄への経営支援にもなります。
この場合は、虫川大杉~直江津間に狭軌の普通列車が走ります。一方、虫川大杉~六日町間は標準軌の普通列車が走り、北越急行の管理となるでしょう。
いずれにしろ、工事期間中は運休となります。ただ、現状のほくほく線の輸送量ならば、バス代行は難しくありません。また、貨物列車への影響も生じません。
「準新幹線」誕生か?
ほくほく線ミニ新幹線化案は、上越市や柏崎市のアクセス改善といった県内移動の点ではあまりメリットがない一方、北陸方面へのアクセス改善といった広域移動では大きなメリットがあります。したがって、県内の鉄道高速化というより、県外への鉄道高速化という側面が強い案です。
ほくほく線は狭軌でも160km/h走行できる仕様ですので、標準軌化すれば、最高速度を180-200km/hとすることも不可能ではなさそうです。既存ミニ新幹線の秋田・山形新幹線より高速走行が可能で、「準新幹線」ともいえる新たな領域の路線となるでしょう。
じつは、国土交通省では、最高速度200km/h領域の路線を、新たな幹線鉄道の整備・運行手法として検討しています。同省の「幹線鉄道ネットワーク等のありかた調査」では、最高速度200km/h領域の新幹線を「フル規格より事業費が安価で、ミニ新幹線より表定速度が高い整備方式」と定義づけ、今後の新幹線整備に活かす姿勢を見せています。
となると、ほくほく線の改軌と連絡線建設は、国交省の後押しを受けるかもしれません。すでに国交省に相談済みの可能性もあるでしょう。
1000億円規模に
問題は事業費です。ほくほく線のミニ新幹線化は、同線の改軌に加え、約25kmの新線建設を伴います。ほくほく線は直流電化なので、新幹線を通すとなれば交流化するか、交直両用のミニ新幹線車両を開発しなければなりません。
交流化する場合、在来線車両も新造する必要があります。それならば、新幹線走行区間以外は電化設備を撤去して蓄電池車などを走らせるという選択肢もあります。
いずれにしろ大工事で、事業費は1,000億円規模になりそうです。しかし、それだけの費用をかけても、走行する新幹線列車は1日10往復程度でしょうから、採算性では難がありそうです。
羽越新幹線に繰り入れる?
ただ、国交省が、こうした「準新幹線」を新幹線整備の一方式として認めるのであれば、話は変わってきます。
上越妙高~長岡間は、もともと「羽越新幹線」の一部とみなされています。となると、ほくほく線を羽越新幹線に繰り入れることで整備新幹線に格上げできれば、建設費の補助率が跳ね上がります。すると、採算性のハードルはぐっと下がります。
わずか25kmの新線を建設するだけで、羽越新幹線の一部が建設できるとなれば、優良な事業と認められる可能性すらあるでしょう。
一方で、それはフル規格の「羽越新幹線」を諦めることにつながります。それを地元、とくに柏崎市が受け入れられるかは政治的に難しい議論になるでしょう。
初の三セク新幹線
ほくほく線をミニ新幹線化するとなれば、史上初めて、第三セクターが「新幹線」を運営することになります。これも、一つのモデルケースとして興味深い点となります。
なによりも、北陸新幹線の開業以来分断されてきた大阪・金沢~新潟間が新幹線列車でつながるのであれば、その点だけでも意味があります。
課題も多いですが、実現すれば、日本初の「三セク新幹線」として脚光を浴びるのは間違いありません。
新潟県では、今後、4案をあわせて検討する姿勢で、「ほくほく新幹線」が動き出すのか、注目したいところです。(鎌倉淳)