羽田空港の発着枠を拡大する国土交通省の検討案が明らかになりました。2020年の東京五輪までに東京上空の飛行制限を緩め、現在より約1割増やす方針です。さらに、滑走路も新設して、2030年代にはさらに発着枠を拡大するとのことです。日本経済新聞が報じました。同紙によると、国土交通省が5月中にも開く有識者会議で案を示し、周辺自治体と協議に入るとのことです。
2段階で発着枠を拡大
検討案では、2020年の東京五輪までと2030年代を目安とする2段階の発着枠拡大構想がまとめられています。2030年代の発着枠拡大は滑走路増設によるもので、やや先の話なので、ここでは2020年までの話をしましょう。
検討案では、現在の「東京湾上空飛行」の規制を緩め、東京都や神奈川県の上空の飛行ルートを2020年東京五輪までに導入するとのことです。新ルートは全日ではなく、1日3時間程度の利用を想定していて、その場合、発着枠が年4万回程度増えます。羽田空港の現在の発着枠は年間44.7万回ですから、約1割の増加です。
具体的には、東京23区内では大田区や品川区、目黒区、世田谷区周辺が、比較的低空での飛行エリアに入るようです。神奈川県では川崎市や横浜市がルートに入りそうです。もちろん、これら以外の港区、渋谷区、新宿区、杉並区などの上空も飛行するでしょうが、空港からの騒音が問題になりそうなのは、空港から比較的近い区に限られそうです。
東横線上空を縦走か
日本経済新聞に掲載された飛行ルート図では、羽田空港を離陸した飛行機が、鶴見上空で旋回し、武蔵小杉あたりから東横線上空を渋谷方面に抜けていくように読みとれます。区名でいえば、世田谷区や目黒区を縦走していきますが、このあたりは住宅地中心でのエリアです。これらの地域はどういう反応を示すのでしょうか。反対運動などは起こらないのでしょうか。
事情に詳しい人に聞いてみると、意外な答えが返ってきました。それは、「世田谷区はすでに羽田離陸機の飛行ルートに入っている」とのこと。2008年に米軍横田基地の空域が一部返還されたことにともない、「多摩川上空」が西日本方面便などへの飛行ルートに組み入れられているのだそうです。飛行ルートの幅は多摩川を中心に左右10kmが設定されていて、世田谷区の多くのエリアがすでに飛行ルート内にあるそうです。
では、これに対する騒音問題は発生していないのでしょうか。実は、発生しています。多摩川ルート設定以来、多摩川に近いエリアで騒音に対する苦情が区などに寄せられるようになりました。これに対し、東京空港事務所がこれらのエリアの騒音値を測定したところ、航空機騒音としては基準値以下に収まっていました。「うるさいことはうるさいが、受忍限度内」ということです。ただ、羽田空港にさらに近い大田区では、より大きな騒音が発生しているようで、いずれにしても、飛行ルートを設定すれば騒音問題は避けられません。
国土交通省としては、「かつての伊丹空港のような大騒音問題に発展することだけは避けたい」という意識があります。そのため、東京上空ルートはこれまでタブーとされてきました。しかし、羽田の発着枠をひねり出すにはそれしか方法がなくなり、おそるおそる東京上空解禁に踏み出している、ということなのかもしれません。