JR西日本は、利用者が少ないローカル線について、線区ごとの収支を公表する方針を明らかにしました。対象となるのは輸送密度2,000人未満の30線区で、特定地方交通線以来40年ぶりの路線大整理に至る可能性も出てきました。
輸送密度2,000人以下
JR西日本は、新型コロナウイルスの影響による利用者減により、2020年度の連結決算で2,332億円の最終赤字を計上しました。2021年度も最大で1,165億円の最終赤字になる見通しです。
経営難を背景に、利用者の極端に少ないローカル線について、地元自治体に対し協議の申し入れを始めています。さらに、輸送密度2,000人未満の路線について、これまで公表してこなかった線区ごとの収支状況を明らかにすると発表しました。
収支公開対象30線区
対象となるのは30線区で、以下の通りです。
路線名 | 区間 | 営業キロ | 輸送密度 | |
---|---|---|---|---|
2019年度 | 2020年度 | |||
小浜線 | 敦賀~東舞鶴 | 84.3 | 991 | 782 |
越美北線 | 越前花堂~九頭竜湖 | 52.5 | 399 | 260 |
大糸線 | 南小谷~糸魚川 | 35.3 | 102 | 50 |
山陰線 | 城崎温泉~浜坂 | 39.9 | 693 | 506 |
浜坂~鳥取 | 32.4 | 921 | 798 | |
出雲市~益田 | 129.9 | 1,177 | 725 | |
益田~長門市 | 85.1 | 271 | 238 | |
長門市~小串・仙崎 | 52.8 | 351 | 290 | |
関西線 | 亀山~加茂 | 61.0 | 1,090 | 722 |
紀勢線 | 新宮~白浜 | 95.2 | 1,085 | 608 |
加古川線 | 西脇市~谷川 | 17.3 | 321 | 215 |
姫新線 | 播磨新宮~上月 | 28.8 | 932 | 750 |
上月~津山 | 35.4 | 413 | 346 | |
津山~中国勝山 | 37.5 | 820 | 663 | |
中国勝山~新見 | 34.3 | 306 | 132 | |
播但線 | 和田山~寺前 | 36.1 | 1,222 | 714 |
芸備線 | 備中神代~東城 | 18.8 | 81 | 80 |
東城~備後落合 | 25.8 | 11 | 9 | |
備後落合~備後庄原 | 23.9 | 62 | 63 | |
備後庄原~三次 | 21.8 | 381 | 348 | |
三次~下深川 | 54.6 | 888 | 929 | |
福塩線 | 府中~塩町 | 54.4 | 162 | 150 |
因美線 | 東津山~智頭 | 38.9 | 179 | 132 |
木次線 | 宍道~出雲横田 | 52.3 | 277 | 198 |
出雲横田~備後落合 | 29.6 | 37 | 18 | |
岩徳線 | 岩国~櫛ヶ浜 | 43.7 | 1,246 | 1,090 |
山口線 | 宮野~津和野 | 47.4 | 678 | 353 |
津和野~益田 | 31.0 | 535 | 310 | |
小野田線 | 小野田~居能等 | 13.9 | 444 | 344 |
美祢線 | 厚狭~長門市 | 46.0 | 478 | 366 |
計 | 1,359.9 |
「最適な交通体系」
今回対象となったのは、コロナの影響が小さい2019年度の輸送密度が2,000未満の路線です。そのほとんどが、2020年度の輸送密度は1,000未満に落ち込んでいて、利用者減がより深刻になっています。
こうした線区で収支状況を公表することの意味は、鉄道を今後も維持するのであれば、地元に一定の負担を求めるということでしょう。
JR西日本は「実状と課題を地域の皆様、自治体の皆様と共有させて頂き、国の制度なども踏まえながら、今よりもご利用しやすく、まちづくりにあわせた最適な交通体系を地域の皆様と共に模索し、実現していきたい」としています。
要は、地元が鉄道維持費用を負担しないなら、国の補助金制度が充実しているバスに転換しては、という議論を投げかけるということでしょう。
40年ぶり路線整理
JR西日本の輸送密度を路線図に反映させたものが下図です。
輸送密度2,000人未満の路線(黄色)の合計は1359.9kmで、JR西日本の営業キロ5012.7kmの27%に達します。すべて廃止すると、同社の4分の1以上の路線がなくなり、中国地方の鉄道網の多くが失われてしまいます。
浜田、益田といった出雲市以西の山陰線沿線の都市や、三次や津和野では、鉄道路線が全てなくなります。
「そこまで廃止できないだろう」という印象を持つ方も多いかもしれません。ただ、国鉄時代の特定地方交通線では北海道の長大路線が次々と廃止されました。同じことが、JR西日本の中国地方で起こらないという保証はありません。
輸送密度2,000人とは、特定地方交通線のなかでも「第一次」水準の低さで、利用者数だけで見ればバス転換も可能な輸送量です。
国交省も「ローカル鉄道のあり方」について検討を開始しており、それと軌を一にして、1980年代の特定地方交通線以来40年ぶりの、おおがかりな路線整理に至る可能性もありそうです。(鎌倉淳)