阪急電鉄が特急列車で有料着席サービスの検討をしていることが明らかになりました。実現すれば、同社では初の「有料特急」となります。
通勤時間帯に導入
阪急の有料着席サービスの検討は、朝日新聞が2月17日付で初めて報じました。同紙によりますと、検討対象は京都線で「通勤時間帯に有料で座れる特急車両の導入」「専用の電車を設けるか、一部の車両を有料の指定席にすることを検討」しているとのことです。「コンセントや通信環境も整備する見通し」で、Wi-Fi装備となるのでしょう。
関西エリアでは、近鉄と南海が古くから有料の特急列車を走らせていましたが、それ以外の各社では、最近まで有料座席車両は普及していませんでした。
JRの前身の国鉄でも、かつては東海道・山陽線快速にグリーン車が連結されていましたが、1980年に廃止。その経験から、関西人に有料着席サービスは馴染まない、という説まであったほどです。
しかし、2015年に泉北高速鉄道が「泉北ライナー」を導入。2017年に京阪が「プレミアムカー」のサービスを開始すると、こうした見方は変わりました。導入された有料サービスは好調で、京阪プレミアムカーは、当初は8000系のみだったサービスを3000系にも拡大。現在は日中の全特急に連結されています。
JRも2019年に新快速に有料シート「Aシート」を導入。現時点では一部列車だけの試験的なサービスですが、好評を受け、今後拡大する方針を示しています。
最後の大物
関東地方でも、近年、有料着席サービスが拡大しています。先駆けとなったのは、2008年に運転を開始した東武東上線の「TJライナー」です。クロスシートとロングシートが切り替え可能なL/Cカーを投入。その後の私鉄通勤ライナーの標準形となりました。
2017年には、西武鉄道がL/Cカーを使った「S-TRAIN」を導入し、東京メトロ有楽町線や東急東横線への乗り入れも開始。2018年には京王が「京王ライナー」で追随。2020年には東武スカイツリーラインとメトロ日比谷線で「THライナー」の運転も開始されました。
長距離路線を持たない東急も、2018年に大井町線の一部車両をL/Cカーにする「Qシート」を導入。ラッシュ時のみクロスシートの有料座席車としました。福岡を拠点とする西鉄も、大牟田線での有料着席サービスの検討をすすめています。
こうした流れのなか、有料着席サービスや、その導入計画のない大手私鉄は相鉄、阪急、阪神のみとなっていました。となると、「最後の大物」ともいえる阪急が有料着席サービスを導入するのは、必然といえるかもしれません。
どんなタイプになるのか
では、どういう形で、阪急に有料座席サービスが導入されるのでしょうか。ここまで見てきたように、有料座席車には、1編成の全車両を対象とする「通勤ライナー」タイプと、一部車両だけを有料座席車とする「プレミアムカー」タイプがあります。
導入のハードルが低いのは、JR新快速の「Aシート」のような、一部車両のみの改造にとどめる形でしょうか。この場合、阪急京都線特急の主力車両である9300系の一部車両を改造し、有料座席車にすると考えられます。まずは通勤時間帯に使用する数編成で導入し、様子を見ながら段階的に増やしていくことができます。
豪華なシートにするなら、京阪「プレミアムカー」のような大改造をする方法もあるでしょう。京急「ウイング号」のように、シートはいじらずに、編成丸ごと「通勤ライナー」にする方法もあるかもしれません。
新型車両を導入するならL/Cカーが有力でしょうか。関東私鉄では、「TJライナー」「THライナー」「S-TRAIN」「京王ライナー」など、L/C編成をラッシュ時間帯のみ「通勤ライナー」として運用するのが、近年の主流です。週末の観光列車としても使いやすいので、京都への観光客が利用する阪急京都線でも馴染みそうです。
本当に必要か?
阪急京都線は47.7kmと距離が短いので、有料座席車がどこまで必要かに関しては、疑問の声もあるようです。ただ、同じ京阪間を結ぶ京阪電車でも一定の需要があることが確認できていますし、首都圏では京王のほか、JR中央線でもグリーン車導入が進められていて、有料サービスは必ずしも長距離路線だけのものではなくなっています。
「20~30分でも落ち着いて座りたい」というニーズはありますし、大阪梅田~京都河原町間は、特急でも40分以上かかります。これだけの時間を乗り続けるのなら、利用者はいるでしょう。
どういう形の車両が導入されるかは、通勤時間帯のみのサービスと考えるか、全時間帯のサービスを目指すのか、によって異なるでしょう。報道の通りなら「通勤ライナー」的な形と思えますが、日中時間帯にも着席サービスの需要はあるでしょうから、それにどう応えるかは、経営判断でしょう。
新型コロナ禍後のことも見据えるなら、ラッシュ時の混雑率が緩和するので、一般車両が1両減でも対応できると考えて、トータルでより大きな増収が得られそうな「プレミアムカータイプ」ではないかと予想します。ただ、筆者の予想はよく外れます。
最終的な導入時期なども未定ですが、どんな形のサービスになるか、いまから楽しみです。