緊急事態宣言が出された2020年4月の鉄道輸送、航空輸送、宿泊統計がまとまりました。長距離の移動は8~9割減となり、事業者を直撃しました。
鉄道は45.5%減
国土交通省は、2020年4月の鉄道輸送統計月報を発表しました。全国の鉄道の旅客数量の総合計は11億6152万人で、前年同月比45.5%減となりました。
旅客数(人)にそれぞれの乗車した距離(キロ)を乗じた旅客人キロの総合計は、169億人キロで、前年同月比57.3%減を記録しました。どちらも1987年に統計を開始して以来、過去最大の減少幅です。
新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言が4月7日に発出されことにより、鉄道利用者が激減したことが、はっきり数字に表れたといえます。
新幹線は79.4%減
内訳は、JR旅客6社の旅客数量が前年同月比41.7%減で4億6534万2000人。JRを除く民間鉄道会社は47.8%減で6億9617万9000人でした。JRのうち新幹線は79.4%減と激減し、755万5000人です。
旅客人キロでは、JRが前年同月比61.7%減、民鉄は49.3%減、新幹線は87.0%減でした。こうした数字から、旅客数が減っただけでなく、一人あたりの移動距離が短くなったことがわかります。近距離輸送よりも中・長距離の輸送の不振が深刻だったことが裏付けられました。
中部地方で減少大きく
地域別に旅客数と旅客人キロをみてみると、中部地方が旅客数で48.9%減なのに対し、旅客人キロが78.0%減と、その差が大きくなっています。中・長距離客の多い東海道新幹線の需要減が、数字に現れているようです。
関東地方は旅客数が45.0%減、旅客人キロが57.5%減、近畿地方は旅客数が46.8%減、旅客人キロが40.4%減です。中部地方ほどの差はありませんでした。
定期は落ち込み少なく
鉄道の旅客数を定期と定期外についても比較してみると、JRは前年度比で定期18.8%減、定期外74.4%減。民鉄は定期32.9%減、定期外47.8%減で、いずれも定期よりも定期外の落ち込みが大きくなっています。緊急事態宣言下でも出勤を余儀なくされるサラリーマンがいた一方で、「不急不要」の外出が控えられたことが見て取れます。
定期旅客の減少率がJRと民鉄で10ポイント以上も差が出た理由ははっきりしませんが、JRのほうが割引率が高いため、在宅勤務日数で計算すると、少ない勤務日数でも定期券の元が取りやすい、という事情があったかもしれません。
定期券に関しては、継続して使用している人が多いので、5月のほうが数字が悪くなる可能性がありそうです。
航空は88.2%減
次に、航空輸送統計速報によりますと、2020年4月の国内定期航空の旅客輸送量は96万9000人、輸送人キロは8億9331万5000人キロで、どちらも前年同月比88.2%減となりました。座席利用率は19.3%にとどまりました。
主要路線の旅客数を前年同月比で見てみると、羽田~新千歳が89.7%減、羽田~伊丹が88.0%減、羽田~福岡が89.9%減、羽田~那覇が89.9%減です。
LCCが主に運行する成田発着をみてみると、成田~新千歳が87.0%減、成田~関西が85.2%減、成田~福岡が83.1%減、成田~沖縄が83.2%減、となっています。大手航空会社が運航する羽田路線と、LCCの運航する成田路線を比較すると、LCCのほうがやや落ち込みが緩かったようです。
その理由ははっきりとはわかりませんが、LCCのほうが予約を早期にする人が多いため、数字が落ち込みにくかった、という事情があるのではと推測します。
航空輸送は地方路線が不振で、羽田~長崎が91.5%減、羽田~松山が92.9%減などとなっています。観光需要の割合が高い路線ほど落ち込みやすいようで、前年度比で90%を超える大幅減の路線が目立ちました。
宿泊は80.9%減
観光庁が発表した2020年4月の宿泊旅行統計調査では、4月の延べ宿泊者数は971万人泊で、前年同月比80.9%減となっています。4月の新幹線の旅客数量が79.4%減、航空機の旅客輸送量が88.2%減ですので、宿泊をともなうような長距離移動のほぼ8~9割が消失したことが、輸送、宿泊の両面から裏付けられたといえます。
また、4月の主要旅行業者の旅行取扱状況速報によりますと、国内旅行の総取扱額は141億円で、前年同月比93.6%減となっています。旅行会社は4月の緊急事態宣言を受けて閉店した店舗が多かったこともあり、移動や宿泊の実数よりも、落ち込みが激しくなったようです。
各社別では、最大手のJTBの国内旅行取扱額は前年同月比91.5%減、KNTが96.6%減、日本旅行が93.7%減でした。阪急交通社は100%減で、旅行の取扱いを全て中止してしまったようです。
宿泊旅行統計調査は5月の第一次速報値も出ていて、前年同月比84.8%減となっています。4月に比べ状況は改善していません。実感としても、長距離の旅行者が戻り始めたのは6月以降ですが、それでも厳しい数字は続きそうです。(鎌倉淳)