JR東日本が、新幹線の車内販売でポットから注ぐホットコーヒーの販売を終了します。エキナカ店舗の充実にともなって売り上げが減少しているからですが、それだけの事情でもなさそうです。
6月30日限り
JR東日本は、2019年6月30日限りで、同社の新幹線、在来線特急の車内販売で取り扱ってきたホットコーヒーの販売を終了すると発表しました。
北陸新幹線でのみ扱ってきた弁当類の販売も終了します。これにより、今後、同社の車内販売で扱うのは、ソフトドリンク類(ペットボトル)、菓子類、アルコール類、つまみ類のみとなります。
エキナカ店舗の充実で
JR東日本では、コーヒー販売中止の理由としてエキナカ店舗の充実を挙げていて、乗車前に飲食物を購入する客が増えているためと説明しています。
現在、JR東日本で車内販売が行われているのは、新幹線「はやぶさ」「はやて」「つばさ」「こまち」「かがやき」「はくたか」「とき」と、在来線特急の「あずさ」「かいじ」「ひたち」「スーパービュー踊り子」「いなほ」です。
これらの車内では、今後、車内販売が行われていても、ホットコーヒーを購入できないことになります。
なお、新幹線のグランクラスサービスと、スーパービュー踊り子号「グリーン車サービス」についてはこれまで通り継続します。
利益率が高いのに?
車内販売のホットコーヒーといえば、利益率の高い商品として有名で、売り上げもナンバーワンです。実際に車内に乗ってみていても、特に朝は飛ぶように売れていて、車内販売の主力商品であることが察せられます。それをなぜやめるのでしょうか。
JR東日本の関係者に尋ねてみると、「利益率は高いけれど、手間もかかるので、販売数が落ちるとたいして儲からない」という答えが返ってきました。
コーヒー販売は、確かに車内販売の収益を支える屋台骨です。しかし、エキナカでコンビニやカフェがコーヒーを安価で売るようになってから、車内での販売数は減少し、車内販売全体を支えきれるだけの収益を生み出せなくなってきています。
そしてご存じの通り、車内販売のホットコーヒーは、あらかじめポットにコーヒーを入れておき、客の前でコップに注ぎます。
そのため、事前にポットに詰める設備が必要で、手間もかかります。車内販売スタッフには、客の目の前で注ぐという業務負担があり、ある程度の熟練が求められます。
車内販売は人手不足にも悩んでおり、ホットコーヒーを廃止すれば、業務の簡素化が実現できます。
弁当とコーヒーがなくなれば、「生もの」が車内販売から消えることになり、商品管理も格段にラクになります。
事業として成り立つのか
ただ、業務負担が減り、商品管理がラクになったとしても、残った車内販売のラインナップを見ると、その先行きに不安を感じます。
JR東日本の今後の車内販売は、ペットボトルのドリンクと菓子、アルコールとおつまみだけになります。首都圏普通グリーン車の車内販売のようなラインナップになるわけで、どれだけの利用者がいるのだろう、と思わずにはいられません。
こんな車内販売で、事業として成り立つのでしょうか?
車内販売は兼任に?
その答えを探る解は、JR東日本が設立した新会社にありそうです。
JR東日本は、2019年4月1日に新会社「株式会社JR東日本サービスクリエーション」を設立し、7月1日に事業を開始します。新幹線グランクラス、在来線普通グリーン車内でのアテンダント業務、新幹線・在来線特急車内での車内販売、案内の業務を、同社に集約します。
つまり、これまでの日本レストランエンタプライズから、車内販売業務が新会社に移管され、その新会社はアテンダント業務も担うのです。
ホットコーヒーの販売終了にともなう車内販売の簡素化は、新会社の事業開始と同時に行われます。
となると、今後は、新幹線に専任の車内販売スタッフは置かず、複数の業務を行うアテンダントが、車内販売も兼任する形になるのかもしれません。
もう少しはっきり書けば、以下は予想ですが、新幹線の車掌を削減し、業務の一部をアテンダントに移し、アテンダントが車内販売も兼任するのではないでしょうか。まさに、首都圏グリーン車のような形です。
新幹線でのホットコーヒーや弁当類の販売終了は、その環境整備の意味もありそうです。
JR東海はスイーツとセット
JR東日本の車内販売からコーヒーは消えますが、JR東海、西日本が運営する東海道・山陽新幹線「のぞみ」「ひかり」では、今後もホットコーヒーの販売を継続します。
JR東海では、2018年9月に、東海道新幹線の車内で販売するオリジナルホットコーヒー『AROMA EXPRESS CAFE』をリニューアルしています。
2019年5月16日には、車内販売の新幹線スイーツに、超有名店の『メゾンカイザー』と『オーボンヴュータン』のフィナンシェやクッキーを投入しました。コーヒーとセットで買うと50円引きという施策も展開し、販売をてこ入れしています。
東海道新幹線でも、黙っていてもコーヒーが売れる時代ではないということなのでしょう。
JR東海も、いつまでこうした販売施策を採っていけるのか、先行きは見通せません。それでも、現時点の企業努力の方向性としては、JR東海の施策のほうが、JR東日本よりも、利用者にとっては嬉しい形に思えます。(鎌倉淳)