JR東日本の喜㔟陽一社長が、新幹線の最高速度360km/h運転に自信を示しました。北海道新幹線の札幌延伸開業を見据え、2段階で新型車両を開発していきます。今後のグランクラスの設定については、慎重な表現にとどめました。
E10系を2030年度に投入
JR東日本の喜㔟社長は、2025年3月4日の定例記者会見で、東北新幹線の新型車両E10系の設計に着手することを明らかにしました。2027年秋以降に第1編成を落成し、試験走行を実施したあと、2030年度内に営業投入します。
JR東日本では、東北新幹線での360km/h運転を目指して、ALFA-Xという試験車両を導入して走行試験を重ねていました。
しかし、次世代車両と位置づけられるE10系の最高速度は320km/h運転にとどまり、現行のE5系と同じです。2030年に至っても、東北新幹線で360km/h運転に踏み切らないことについて、意外感を以て受け止めた人も多かったようです。
360km/h運転は可能
これについて、喜㔟社長は記者会見で、「ALFA-Xによって360km/h運転のデータの蓄積はもちろんあり、技術的にスピードを出すだけであれば、360km/h運転は可能」と断言しました。360km/h運転の実現に自信をみせた形です。
一方で、「360km/h運転をするなら、車両自体だけでなく、設備、環境問題などについてもさまざまな検討を加えなければいけない」と、車両以外にハードルがあるという認識を示しました。
そのうえで、「まずは320km/hを前提にして試験をして、360/km運転は次の課題」とし、段階を踏んで速度向上を図る方針を明らかにしました。
東北新幹線で活用
背景として、札幌延伸開業の時期が見通せないことが挙げられます。北海道新幹線は、2030年度に札幌延伸開業をする予定でしたが、工事が難航し、開業遅延が見込まれています。新たな開業時期は示されていません。
喜㔟社長は、「札幌開業の時期がいつになるかは確定していないので、この車両は、基本的には、いまの東北新幹線の営業エリアにおいて活用することを前提に設計していく」と説明しました。E10系は、札幌延伸開業を考慮せずに設計するということです。
札幌延伸開業を見据えた車両については、「気候条件など、いまの東北新幹線の営業区間にはない、さまざまな条件を設計のなかに取り込んでいかないといけない。札幌開業の時期がある程度明らかになったら、そこに向けて設計をしていく。そういう2段階のスケジュールになっている」と、理解を求めました。
設計に着手するE10系の第1編成については、「さまざまな方法で試験をおこなって、データを取り、営業車両につなげていく」と説明し、営業用車両の前段階にあたる位置づけであることを説明しました。
グランクラスは「ご利用状況を踏まえ」
E10系の第1編成には、グランクラスが連結されません。喜㔟社長は「第1編成にはグランクラスはつけません」と明言しました。
第2編成以降については、「現在のグランクラスのご利用状況を踏まえ、第1編成を作った後に、具体的に営業用車両を作るにあたっての検討課題と位置づけている」「2030年度に営業運転をするにあたって、グランクラスをどうするかについては、試験走行を踏まえて検討していきたい」と、慎重な物言いに終始しました。
さらに、「グランクラスのサービスは、長距離客の移動空間をより豊かなものにしていくということで設定をしている」と、グランクラスの設定理由について説明したうえで、「札幌開業時には乗車時間が長くなるので、グランクラスのような車両は、お客様のニーズにお応えするものになると思う」と述べ、札幌延伸開業時に投入する車両で、グランクラスのような上級席を設定する可能性があることを示唆しました。
グランクラスについての説明は、喜㔟社長の歯切れが悪く、言葉を選んでいる様子がうかがえました。「ご利用状況」「長距離客」というキーワードからも、札幌乗り入れを考慮しないE10系でのグランクラスは、廃止が規定方針と受け止めたほうがよさそうです。
TRAIN DESK車両の意義
E10系第1編成の目玉は、TRAIN DESK用車両です。座席配置はグリーン車と同じ2列+2列とし、座席間のひじかけを拡大したうえで、仕切り板を設け、プライバシーが保たれやすい設計になっています。
喜㔟社長は、TRAIN DESK用車両について、「より快適な移動空間を創造させていただく」と意義を説明。「現時点で発表できる内容はここまでだが、これから設計や試験を繰り返すなかで、少し時間があるので、車両内でのサービス提供について、お客様のご期待に応えていけるかを多面的に検討して、営業用車両を作っていきたい」と意欲をみせました。
「やまびこ」「なすの」で運用か
喜㔟社長の記者会見の内容からE10系の運用を予想すると、おそらくは「やまびこ」「なすの」を中心に使用されるのでしょう。したがって、「やまびこ」「なすの」には、グランクラスなしの、TRAIN DESK車両付きの列車が走ることになりそうです。
「はやぶさ」はE5系での運用を継続し、札幌延伸開業時には、北海道新幹線直通列車が新型車両に置き換わるのでしょう。その際、新列車名が付けられ、360km/hでの運転になるとみられます。
2031年以降の東北新幹線は、E5系とE10系が混在する形になります。どちらも最高速度320km/hですが、最高速度300km/hのE8系(山形新幹線)が存在しますので、全列車が320km/h運転になるわけではありません。
列車の高速化が全体的に進むなか、「はやぶさ」加算料金がどうなるかも気になりますが、現時点では未定です。札幌開業までは現状のままで、360km/h運転開始とともに、加算料金も整理されるのではないでしょうか。(鎌倉淳)