鹿児島市電の延伸計画で、ルートの絞り込み作業が進んでいます。6案に絞られた検討ルートの課題を抽出。また新線区間では架線を設けずに、バッテリー搭載方式の車両を走らせることも検討しています。
観光路線の位置づけ
鹿児島市では、ウォーターフロントの鹿児島港本港区へ市電を延伸する事業を計画していて、現在、ルート案などの検討を進めています。延伸区間は「観光路線」という位置づけで、次のような考え方を基本としています。
① 鹿児島中央駅とウォーターフロント地区の結節を強化し、新幹線からの2次アクセスを充実させる。
② 天文館地区とウォーターフロント地区の回遊性を向上させ、相乗効果を狙う。
③ 桜島や錦江湾を車窓から眺められ、ウォーターフロントに立地する施設を結ぶルートとすることにより、観光客に雄大な景色を楽しんでもらい、魅力ある都市景観の創出を図る。
④ 乗車すること自体が目的となる魅力ある車両を導入する。
要するに観光客向けに、鹿児島駅、天文館とウォーターフロントを路面電車で回ってもらおう、という考え方です。
6つのルート案
この鹿児島市電「ウォーターフロント新線」のルート案は6つに絞り込まれています。ウォータフロントを南北に貫く区間を縦軸に、既存の市電路線への接続線として「A」~「E」の5つの道路が候補として上がっています。このうち2つの道路を組み合わせて巡回ルートとします。
具体的には、下図の「A-E」「A-D」「B-E」「B-D」「C-E」「C-D」の6つのルートが候補となっています。
A-Eルートは新屋敷電停からパース通りを経てウォーターフロントに入り、桜島フェリーターミナル付近から水族館口電停に至ります。A-Dルートは、同じくパース通りからウォーターフロントに入り、みなと大通りから市役所前電停付近に至ります。
B-Eルートは、いづろ通電停から中央通りを南下、パース通りからウォーターフロントに入り、水族館口電停に抜けます。B-Dルートは、同じくいづろ通電停からパース通りを経てウォーターフロントに入り、市役所前電停付近に抜けます。
C-Eルートは、いづろ通電停からいづろ通り(マイアミ通り)を経てウォーターフロントに入り、水族館口電停に抜けます。C-Dルートは、同じくいづろ通からウォーターフロントに入り、市役所前電停付近に抜けます。
単線一方通行で運転
2018年3月に行われた「第3回鹿児島市路面電車観光路線導入連絡会議」では、具体的に各ルートの課題の抽出が行われています。
前提として、「ウォーターフロント新線」は、単線で設置され、巡回運転します。一方通行を前提とし、交換設備を設けません。
「鹿児島中央駅と天文館とをつなぐ」という目的からすると、鹿児島中央駅から天文館を経て、ウォーターフロントを巡回して鹿児島中央駅に戻る、という運行形態になります。
そのため、A-DとA-Eは、単線環状運転の場合、往路か復路のどちらかで天文館を経由できない、という欠点が生じます。
Cのいづろ通りを経由するルートは、高速船旅客ターミナルを経由しません。また、いづろ通りには大型の立体駐車場があり、その出入口の支障になる可能性があります。
Dのみなと大通りは広くて軌道を敷設しやすそうですが、地下埋設物の支障があります。また、桜島フェリーの発着所や水族館からはやや離れるルートとなります。
ルートを比較すると
どのルートも一長一短ですが、いちばん課題が少なそうなのはB-Eルートでしょうか。ただ、巡回線部分が長くなり、鹿児島中央駅とウォーターフロントを結ぶ役回りとしては難があります。
C-D、C-Eは距離が短く、建設は容易そうですが、ウォーターフロント内の走行区間も短くなるため、「乗車すること自体が目的」「魅力ある都市景観の創出を図る」という条件にはやや不足する印象です。
導入空間の確保の容易さや、課題の少なさ、適度な距離、「桜島や錦江湾を車窓から眺められる」「魅力ある都市景観の創出」といった条件面からみると、B-Dあたりが有力でしょうか。
バッテリー路面電車の課題
車両に関しては、架線式と架線なしのバッテリー搭載方式が候補になっています。架線式は、一般的な路面電車の給電方式で、鹿児島市電の既存路線でも使われています。架線や架線柱を設置しますので、観光路線として景観上の配慮が必要となります。
一方、架線なしの「バッテリー路面電車」を導入する場合は、景観の阻害要因となる架線をなくすことが可能ですが、日本の路面電車で実用化された例はありません。
バッテリー路面電車を導入する場合、営業先行車まで開発が進んでいるのは近畿車輛の「ameriTRAM」のみです。リチウムイオン電池を使った次世代LRV(Light Rail Vehicle)で、2010年に開発されました。
会議資料では「開発から10年を経ており、導入にあたっては最新技術への対応等、見直しが必要な状況にある」としています。とはいえバッテリー搭載車は、鉄道車両ではJR 東日本の烏山線や JR九州の筑豊本線などで営業運行されていますので、そうした対応は不可能ではなさそうです。。
バッテリー路面電車の課題として、車両価格が架線タイプより高いこと、既存の鹿児島市電車両が新線区間に乗り入れできないため予備車両の購入が必要になること、維持費用として5~7年ごとにバッテリー交換が必要なこと、を挙げています。
課題はあるものの、導入できれば「全国唯一のバッテリー式路面電車」を掲げることができ、観光客へのアピールポイントとなるでしょう。「乗車すること自体が目的となる魅力ある車両」という条件にも合致し、バッテリー式を第一選択肢として検討が進みそうです。
2020年代前半にも開業か
鹿児島市のウォーターフロントは再開発が予定されていて、現在、整備方針を鹿児島県が検討しています。その内容は2018年度中に決定する見通しで、鹿児島市電の「ウォーターフロント新線」は、それを踏まえてルートなどを最終決定するとしています。ウォーターフロント内でどの道路を通すかも、県の整備方針を見極めてからになります。
鹿児島市の森博幸市長は、県による整備方針が決定してから、4~5年後に鹿児島市電の延伸を実現したいと意欲を見せています。そのため、鹿児島市電の新線開業は、早ければ2020年代前半に実現しそうです。(鎌倉淳)