福井県が「北陸・中京新幹線」の整備を検討するための調整会議の設置を提案しました。北陸新幹線の「米原ルート」をベースにし、東海道新幹線に乗り入れるというもの。北陸新幹線の「小浜・京都ルート」決定を受けて、次なる新幹線の要望に入ったようです。
中部圏知事会議で提案
北陸・中京新幹線の検討が提案されたのは、中部9県と名古屋市で構成する「中部圏知事会議」です。2017年6月2日に開かれ、西川一誠福井県知事が、敦賀と名古屋を結ぶ北陸・中京新幹線の検討を提案しました。提案は受け入れられ、今後、沿線の関係自治体でつくる事務レベルの調整会議が設置されます。
北陸・中京新幹線は、新幹線の基本計画路線の一つで、敦賀~名古屋間を結びます。福井新聞2017年6月3日付によりますと、「敦賀―米原は北陸新幹線敦賀以西の3案の一つだった米原ルートと同じ区間を通り、事業費も同額の約5900億円と見込む」とのこと。
中日新聞同日付では、「米原-名古屋間は東海道新幹線に乗り入れ」るとし、「名古屋からはリニアに乗り換える」場合に、「福井-東京間の所要時間は1時間52分と、現在の北陸新幹線利用より1時間半短縮されるとの試算を明らかにした」と報じています。
ルートは未定
北陸・中京新幹線は、1973年に新幹線の基本計画に位置づけられました。敦賀~名古屋間が該当しますが、ルートは何も決まっていません。今回、福井県が提示した資料は、北陸新幹線の敦賀以西の「米原ルート」を、北陸・中京新幹線用として流用したもののようです。
北陸新幹線米原ルートが実現しなかった大きな理由は、「東海道新幹線とシステムが異なり直通できない」として、JR東海が事実上乗り入れを拒否する姿勢を見せたことでした。
にもかかわらず、福井県が、北陸・中京新幹線で東海道新幹線との直通を前提にした資料を出したのだとすれば、「実現性はともかく、とりあえず提案をぶち上げた」程度の話なのでしょう。
中部圏知事会議では、建設エリアの沿線自治体は福井県のみですし、強い異論を唱える自治体はありません。
中日新聞によりますと、「大村秀章・愛知県知事は、経済面での結び付きに触れ『敦賀-米原間の高速化は必要。一緒にやっていきたい』と歓迎。谷本正憲・石川県知事も『足並みがそろっているのかは事務的に確認する必要がある』と述べた」とのことで、あっさり受け入れられたようです。
「遺憾」と言っていた
とはいえ、いま、こうした提案を出す福井県の姿勢に疑問がないわけではありません。そもそも、北陸新幹線敦賀ルート検討時から、「米原ルートは北陸・中京新幹線と共用できるメリットがある」と言われてきたからです。
にもかかわらず、福井県は小浜市を経由するルートを推し続け、米原ルートには反対の姿勢を貫いてきました。2013年に関西広域連合が「米原ルート案」を国に提出した際には、西川知事は「誠に遺憾」とするコメントまで発表しています。福井県としては、北陸新幹線を小浜市経由を実現させることを最優先し、北陸・中京新幹線は二の次、という姿勢だったわけです。
最終的に、2016年12月に、北陸新幹線敦賀以西は小浜・京都ルートで最終決定しました。「小浜市に新幹線」の目標が達成できたことを受け、わずか半年後に、福井県は「北陸・中京新幹線として米原ルートも作れ」と言い始めたわけです。
滋賀県が同意するのか
「小浜・京都ルートも、米原ルートも、両方ほしい」という、福井県のおねだり。現時点では、検討段階以前の話ですし、経緯からしても、すぐに予算が付く話ではありません。
もちろん、ルートの大半を占める滋賀県も容易には同意しないでしょう。現在の整備新幹線建設スキームをそのまま当てはめると、滋賀県は多額の財政負担を強いられるうえに、北陸線の第三セクター化を求められます。
長浜市に新幹線駅が一つできるくらいでは、簡単に受け入れられる話ではないでしょう。
次の整備新幹線狙う
それでも福井県が提案した背景としては、山陰新幹線や四国新幹線の沿線自治体が「次の整備新幹線」を狙って運動を開始しているなか、遅れを取るわけにはいかない、という政治的事情があるとみられます。
地方の政治家が、中央に対してそうした政治的ポーズを取らなければならない立場にあることを、理解しないわけではありません。とはいえ、もし本当に福井県が北陸・中京新幹線を求めるなら、北陸新幹線敦賀以西のルートとセットで考え直すべきでは、とも思います。
新幹線建設資金は有限で、福井にばかり配分するわけにはいきません。要するに、「大阪へも名古屋へも新幹線が必要なら、北陸新幹線は米原ルートでいいのでは」ということです。(鎌倉淳)