最近、紅葉の取材で北海道の層雲峡を訪れ、とある大規模ホテルに宿泊しました。
10月の3連休に絡んだ時期でしたので、層雲峡のホテルは紅葉目当ての日本人観光客で混んでいるだろう、と思って出かけたのですが、日本人の姿は多くはありません。宿泊者の多数派は台湾人観光客。大浴場で湯に浸かっても、飛び交っている言葉は中国語です。なんだか、台湾の温泉にいる気分になりました。
黒岳ロープウェイやリフトにも乗ってみました。こちらも乗客の過半数は台湾人と見受けられます。昼食にラーメン店に入ったら、こちらも客の何組かは台湾人。右を向いても左を向いても台湾人です。北海道観光が台湾人に人気、というのは今さらの話ではありますが、ここまでの状況とは、ちょっと驚かされました。
一方、韓国・中国人の姿は見かけません。領土問題に関する政治的緊張もあるでしょうが、そもそも北海道では圧倒的に台湾人観光客が多いようです。層雲峡を訪れる外国人のうち、台湾人の占める割合は58.3%にも上るというデータもあります。一方、中国人は10.0%、韓国人は2.2%に過ぎません(「東日本大震災後の訪日台湾人観光客動向」、2012年、一般財団法人 アジジア太平洋研究所によるデータ)。
もし、こうした台湾人がいなかったら、北海道の観光地はどうなっていたでしょうか。まず、筆者が宿泊したような大規模ホテルはかなり厳しい経営状況に追い込まれていたでしょう。仮に、現在の客の半分が台湾人とすれば、半分の宿泊施設が潰れていたはずです。層雲峡の宿泊施設の多くは団体旅行に向けに作られていて、いわば「昭和的」な宿です。日本人の個人客にはあまり魅力的ではありませんし、日本人はもうあまり団体旅行をしなくなっています。
こういう昭和的な観光施設は、何も層雲峡に限った話ではありません。数年前に函館山のロープウェイに乗った時や、サホロのリゾートホテルに泊まったときも同じようなことを感じました。個人主義に走ってしまった日本人の穴を埋めるのは、団体旅行者の多い外国人観光客であり、その主力は台湾人なのです。
ただ、ひとつ心配があるとすれば、台湾人でも団体旅行客は減っているのではないか、ということでしょうか。
今回、層雲峡で見た台湾人は、団体客ばかりでなく、個人客も多いようでした。チケット売り場で自動販売機に悪戦苦闘している台湾人の姿も見かけました。上記のデータによると、訪日台湾人のうち個人旅行者は44%にのぼり、団体旅行者に近い数字になっています。個人旅行者は旅慣れてくれば来るほど、大規模なホテルを避けるもので、小さめのペンションやゲストハウス、あるいはビジネスホテルを利用するようになります。そのほうが個人客には居心地がいいからです。
台湾人団体観光客が姿を消すまでには、まだしばらく時間はあるでしょう。その残された時間を使って、昭和的な施設が外国人便りから抜け出せるかどうかが、今後の北海道の観光を占うカギになるかもしれません。