小田急電鉄は、代々木上原~登戸間の複々線化が完成する2018年3月以降の新ダイヤを発表しました。複々線化の完成にともなうダイヤ白紙改正で、列車の大増発を実施。ラッシュ時の大幅な所要時間の短縮も実現します。その概要を見てみましょう。
複々線が全面開業
小田急では、小田原線の代々木上原~登戸間の11.7kmで複々線化工事を進めており、東北沢~世田谷代田間を残して完成しています。2018年3月までに、この残る区間の複々線供用が開始され、予定されている全区間の複々線化か実現します。
これにより、大幅な列車本数増が可能になることから、小田急ではダイヤを一から作り直す「白紙ダイヤ改正」を、2018年3月に実施します。
その内容は多岐にわたるので、全てを紹介するのは困難です。通勤・通学時間帯を中心に、ポイントを見てみましょう。
「快速急行」を大増発
2018年ダイヤ改正の大きな注目点は「快速急行」でしょう。大増発と同時に多摩線への乗り入れも実施され、停車駅に登戸が加えられます。朝の通勤時間帯(代々木上原着6時~9時30分)の運転本数は、実に28本。この時間帯は、毎時平均で11本が運転される計算です。
これにより、ラッシュピーク時の所要時間が、町田~新宿間で最大12分短縮し、37分になります。多摩線内の停車駅は、栗平、小田急永山、小田急多摩センター、唐木田と発表されました。
「快速急行」以外の停車駅の変更としては、「急行」が平日の夕方下りのみ、経堂駅が通過となります。
「準急」は全て千代田線直通になり、千歳船橋、祖師ヶ谷大蔵、狛江の各駅にも停車します。世田谷区エリアから千代田線方面への利用者が多いことに対応した措置です。
「通勤急行」「通勤準急」登場
列車種別の新設としては、「通勤急行」と「通勤準急」が登場します。いずれも平日朝ラッシュ時の上り方向で運転されます。
「通勤急行」は多摩線系統のみの運転で、唐木田~新宿間を走ります。停車駅は、小田急多摩センター、小田急永山、栗平、新百合ヶ丘、向ヶ丘遊園、成城学園前、下北沢、代々木上原の各駅です。
登戸を通過するのが特徴で、「快速急行」と停車駅を分担します。ボトルネックとなる新百合ヶ丘~登戸間の複線区間を、効率的に運転させるための措置とみられます。
ダイヤ上、「通勤急行」は「快速急行」に続行します。平日上り新百合ヶ丘を例に取ると、07時57分に快速急行新宿行きが出た後、07時58分に通勤急行新宿行きが出発します。新宿着は快速急行が08時26分、通勤急行が08時28分と、所要時間に差はほとんどありません。
平日上りピーク時の小田原線系統(新百合ヶ丘~相模大野間)は、「快速急行」と「準急」のみの運転になります。江ノ島線系統から藤沢発の「急行」が約10分間隔で運転され、相模大野以東は「快速急行」として新宿まで直通します。
もうひとつ新設される「通勤準急」は、本厚木方面から東京メトロ千代田線方面に直通します。「準急」の新たな停車駅となった、千歳船橋、祖師ヶ谷大蔵、狛江を通過するのが、「準急」との違いです。小田急線内では本厚木~登戸間の各駅と、成城学園前、経堂、下北沢、代々木上原の各駅に停車します。
「通勤準急」と「快速急行」は、登戸駅で同時刻発着というダイヤになっており、複々線を活用した大胆な設定です。
多摩線に力点
今回のダイヤ改正で力が入っているのが、多摩線です。朝上りダイヤを見ると、約10分間隔で「通勤急行」を運転。小田急多摩センター~新宿間を、おおむね40分で結んでいます。
ライバルとなる京王相模原線は、朝ラッシュ時の優等列車が少なく、列車によりますが、京王多摩センター~新宿間が、おおむね50分かかります。ラッシュ時の10分差は大きく、今後、多摩ニュータウンエリアから新宿方面への通勤は、小田急優位になりそうです。京王は2018年3月に運賃を値下げすることで対抗します。
多摩線方面と千代田線方面を結んでいる「多摩急行」は廃止となりました。「快速急行」の多摩線乗り入れに対応するものです。千代田線系統の列車を、世田谷区内の停車重視に舵を切ったことも理由とみられます。
「急行」が「快速急行」を待避
平日夕ラッシュは、多摩線系統も「快速急行」が運転され、「通勤急行」はありません。町田方面行きは、「快速急行」と「急行」が併存します。「通勤急行」が設定されないため、「特急」以外の登戸通過はありません。
注目は、向が丘遊園での、「急行」の「快速急行」待避でしょうか。たとえば、登戸を18時54分に出た「急行伊勢原行き」は、後続の18時57分「快速急行藤沢行き」を、向が丘遊園で待避します。
そのため、「急行は必ずしも先着列車でない」という場合がありますので、利用者は注意が必要になりそうです。
この「急行」は登戸に各駅停車と同時刻に到着し、急行が先発して、向が丘遊園で「快速急行」を待避します。その間に、各駅停車が登戸を出発して、「急行」出発1分後に向が丘遊園のホームに滑り込み、そのまま新百合ヶ丘まで、待避なく逃げ切ります。こうした、京急顔負けのアクロバティックな待避設定も、新ダイヤの見どころでしょうか。
ボトルネックの登戸~新百合ヶ丘間をどうやりくりするか、上下線とも工夫を凝らしています。
千代田線直通は緩行線系統が主体に
千代田線直通は、平日上りが「通勤準急」と「各駅停車」がそれぞれ毎時6本運転されます。「通勤準急」が相模大野~本厚木始発、「各駅停車」は向が丘遊園始発です。早朝時間帯には、「急行」も運転されます。
平日夕下りの千代田線直通は、「急行」が毎時2本、「準急」が4本、「各駅停車」が2本の運転です。「急行」は伊勢原または本厚木行きです。
日中時間帯の千代田線直通は、向が丘遊園発着の「準急」が毎時3本(土休日は6本)のみです。
千代田線直通は、緩行線系統(「準急」と「各駅停車」)が主体となりました。先に少し触れましたが、千代田線直通列車は世田谷区民の利用者が多いことが理由のようです。
「新宿~小田原60分以内」が実現
「特急ロマンスカー」にも注目です。トピックスは、なんと言っても新宿~小田原間60分切りでしょう。土休日の「スーパーはこね号」で、新宿~小田原間がノンストップで最速59分(5分短縮)、新宿~箱根湯本間が最速73分(9分短縮)となりました。
新宿~小田原間60分以内は、戦後、小田急の長期目標として掲げられましたが、約70年を経て、ようやく実現することになります。
新型特急車両70000形電車もダイヤ改正にあわせてデビューする予定です。新宿~小田原59分の「スーパーはこね」に、70000系が投入されるとみられます。
「モーニングウェイ」の愛称を導入
そのほか、「特急ロマンスカー」は、朝に運行されている上り列車の名称を「モーニングウェイ」(小田原・片瀬江ノ島~新宿)と「メトロモーニングウェイ」(本厚木~北千住)に変更。通勤向けの座席指定列車の性格を明確にします。
また、土曜・休日のみ、北千住~片瀬江ノ島間で運転する「メトロえのしま」を新設します。
詳細は省きますが、朝夕時間帯を中心に、「特急ロマンスカー」の運転本数も増加します。また、「特急ロマンスカー」全体で、向ヶ丘遊園、新松田両駅の停車がなくなります。
ダイヤ改正で、各駅停車の列車が減る区間もあります。平日朝は小田原線新宿~代々木上原間と江ノ島線、多摩線で各駅停車を削減します。また、日中時間帯は、小田原線新松田~小田原間の各駅停車が削減されます。
京王の旅客を奪う
小田急によると、今回のダイヤ大改正により、混雑率が現在の192%から150%程度に下がった後、利便性の向上による利用者の増加で160%程度まで上昇すると見込んでいます。
つまり、輸送力増強で便利になった分、他路線から旅客を奪うので利用者が増えると皮算用しているわけです。
実際、ダイヤ改正では、多摩線の利便性向上に力を入れており、京王相模原線の旅客が小田急多摩線に、相当数、転移することが見込まれます。また、世田谷区内の準急停車駅増で、並走する京王線の旅客を奪える可能性もあります。
田園都市線からも転移か
さらに、江ノ島線からも、ラッシュ時は10分間隔で新宿直通の「快速急行」(江ノ島線内「急行」)が運転され、所要時間が短縮されますので、中央林間で東急田園都市線に乗り換えていた利用者の一部も、小田急線経由に転移するかもしれません。
田園都市線は、朝ラッシュ時の「準急」は長津田始発が主体で、中央林間からは「各停」が主体です。中央林間を07時40分に出た場合、長津田で準急に乗り換えて渋谷に着くのが08時38分。小田急は中央林間07時39分発の「急行」(相模大野から「快速急行」)で、08時26分に新宿に着きます。
都内の最終目的地がどこになるかにもよりますが、都内までの所要時間では小田急の優位性が高まりそうです。
さらなるダイヤ改正も
それにしても、これだけの白紙改正は、近年の大手私鉄では例をみません。増発と所要時間短縮はすさまじく、複々線化の効果が絶大であることを、改めて感じさせてくれました。
ただ、白紙改正だけに、実際の運用に当てはめてみると不具合などは生じてくるとみられます。そのため、今後もダイヤの修正は行われていくでしょう。
また、小田急では、ホームの10両対応工事を進めており、代々木八幡駅を最後に、2018年度中にも完成する予定です。これが完成すれば、各駅停車を含め、新宿~新松田間で全列車の10両化が可能になります。
これまで8両編成に制限されていた「各駅停車」で、10両編成運転ができるようになるため、現在は分けられている急行系の運用と各停系の運用の共通化が可能になり、新宿に着いた「各駅停車」が「急行」で折り返すといったことができるようになります。
すでに、小田急では各停用3000形8両編成の10両編成化を進めています。「各駅停車」の10両化が完了すれば、そのタイミングで、新たなダイヤ改正が行われるとみられます。つまり、2018年新ダイヤも完成形ではないということで、今後のさらなる輸送改善に期待しましょう。(鎌倉淳)