ドーミーイン・NHK「受信料訴訟」を考える。1泊50円も負担するなら、ホテルにテレビなんていらない

NHKがビジネスホテル「ドーミーイン」などを運営する共立メンテナンスに受信料支払いを求めた訴訟の判決で、東京地裁(永谷典雄裁判長)は契約締結と約6100万円の支払いを命じました。客室にテレビを設置した場合、部屋ごとに受信契約をしなければならない、というNHKの主張が認められた形です。

NHKはホテルの部屋にテレビがある場合、部屋ごとに受信料契約をするよう求めています。当然、この受信料は間接的に宿泊者が負担することになります。

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9690台分の受信契約を要求

この訴訟は、NHKがホテルチェーン「ドーミーイン」などをを経営する「共立メンテナンス」に9690台の受信料計約7530万円の支払いを求めたものです。2015年10月29日、東京地裁の永谷典雄裁判長は、すでに支払い済みの分を除く約6178万円の支払いを命じる判決を言い渡しました。

放送法は「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない」としています。NHKのウェブサイトによりますと、ホテルのテレビの受信料については、「テレビのある部屋ごとに受信契約をいただくことになります」としており、1部屋ごとに1契約をするよう求めています。

ドーミーイン

2台目半額の事業者割引

とはいえ、これではさすがに非現実的とも思えます。実際、筆者がNHK関係者から聞いた話では、過去にはホテルの稼働率などに応じて受信料の割り引きも行ったりしていたそうです。2009年には事業者割引の制度が導入され、一定の条件を満たせば2契約目以降の受信料が半額となりました。

この事業者割引制度はホテルも利用できます。したがって、ホテル事業者は、NHK受信料満額を1部屋ごとに支払う必要はなく、半額でいいわけです。

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1台あたり7,770円の請求

今回の訴訟では、提訴を受けたとき、共立メンテナンス側は、「当社はかねてより NHK の放送受信料についても NHK と誠心誠意協議を継続してまいりました」とコメントしており、割引交渉があったことを示唆しています。

訴状を見てないので細かいことはわかりませんが、報道されている範囲でまとめてみると、訴訟でNHKが請求しているのは、テレビがあるのに受信契約をしていない43のホテルと、契約後に未払いになっている28のホテルの主に2012年4~7月分で、9,690台の受信料計約7530万円とのことです。

単純計算で1台あたり7,770円で、4ヶ月分の価格ですから、2ヶ月あたりなら3,885円となります。受信料の定価は地上契約が2ヶ月2,520 円、衛星契約で同4,460 円ですので、今回の訴訟は主に衛星契約で、事業者割引は考慮されていないようです。

判決では、すでに支払い済みの分を除く約6178万円の支払いを命じたということですから、ほぼNHKの主張通りだったように見受けられます。6178万円の内訳は、細かい判決要旨を見ていないのでわかりませんが、総額を見る限り、「ホテルの全室でNHK受信料を払え」という判決だったようです。

受信料の二重取り?

さて、この判決についての最大の疑問点は、宿泊者が自宅で受信料を支払っていた場合、ホテル宿泊時にも受信料負担をしなければならず、受信料の二重取りにあたるのではないか、という点です。

ホテルが部屋に設置したテレビの受信料を支払う場合、それを最終的に負担するのが宿泊者であるのはいうまでもありません。仮に事業者割引がされていたとしても、地上波放送だけで受信料は2ヶ月1,260円です。2ヶ月を61日として計算すると、1日あたり20.65円です。これを宿泊者は負担しているわけです。

実際は、ホテルの稼働率は100%ではありませんので、稼働率75%とすれば1日あたり27.5円となります。同じ計算を衛星放送契約で計算すると、1日あたり48.7円となります。NHK-BSが見られるホテルに泊まるとき、その対価として宿泊者は1泊約50円を支払っているわけです。

ビジネスホテルでテレビを見るか?

「50円くらいなら払うよ」というオトナの意見もあるでしょう。実際、微々たる額といえば額です。とはいえ、私たち旅行者は、お金を払うほど旅先でNHKを見ているのか、という疑問も頭をよぎります。

ドーミーインのようなビジネスホテルに泊まるとき、部屋でテレビを見ている時間は長くないはずで、つけていたとしても、「あるからつけている」という程度のことが多いでしょう。オンデマンド課金制度にして見たい人は50円払う、というのが、最も合理的な話に思えます。

この判決が確定し、今後、全てのホテルがNHK受信料を部屋ごとに支払わなければならなくなるのだとすれば、もうテレビなんてホテルに置かなくていいよ、と思うのは、筆者だけでしょうか。どうせほとんど見ないのです。

それよりも、これからのビジネスホテルは、テレビをなくして、その50円でWi-Fiなり朝食なりを充実させたほうがいいように思えます。

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