東京~大阪間で、高速バスの新型車両が次々誕生しています。関東バスは全11席しかない完全個室型の豪華夜行バス「ドリームスリーパー東京大阪号」を投入。一方、JRバスはプレミアムシートとクレイドルシートだけの全18席の新型バスの開発を明らかにしました。
ドリームスリーパーが東京・大阪間に
関東バスは、各席にトビラが付いた「完全個室型」の豪華夜行高速乗合バス「DREAM SLEEPER東京大阪号」(ドリームスリーパー東京大阪号)を2017年1月18日より、東京・池袋駅と大阪・なんば(OCAT)/門真車庫間で運行することを発表しました。両備ホールディングスとの共同運行です。
「ドリームスリーパー」は、両備系の中国バスの広島~横浜線で、すでに運行されています。この元祖「ドリームスリーパー」は横2列シートで全14席ですが、今回運行開始となる「ドリームスリーパー東京大阪号」の総座席数は、全11席とさらに少なくなりました。
4列シートのバスは44席程度が標準なので、その4分の1。おおざっぱにいって、4列シートの4人分を1人で使える広さです。これまでの最小座席数は、海部観光「マイ・フローラ」の12席でしたから、それを下回り、日本の高速バス最小の座席数となります。
トビラ付き完全個室
「ドリームスリーパー東京大阪号」の各席には間仕切りとトビラが着いていて、「完全個室」になっています。これまでもカーテンなどで個室に近い形になっているバスはありましたが、トビラ付きは高速バス初とのこと。
シート形状やリクライニング角度などは未公表ですが、座席の写真を見ると、元祖「ドリームスリーパー」で採用となっているゼログラビティシートになっているようです。
ゼログラビティシートは、元祖「ドリームスリーパー」と同じなら、背もたれが40度倒れ、座席角度が30度沈み、足元が水平になっています。シートベルトをしつつ、フルフラットに近い感覚でくつろげるシート形状です。
その他の車内設備の詳細は明らかではありませんが、元祖「ドリームスリーパー」に準ずるなら、コンセント、USBポート、ドコモWi-Fi、イオン発生器(ナノイー)などが設置されるでしょう。
運賃と座席料金の合計は片道大人2万円・小児15,500円です。2017年2月28日までは運行記念割引として、片道大人18,000円・小児14,500円で利用できます。
「新しいドリーム号」は全18席
一方、JRバスでは、東京~京阪神路線に、2017年4月から「新しいドリーム号」を導入することを発表しました。「新しいドリーム号」は全18席の新型車両で、名称は「募集中」。全18席というのは、これまでのドリーム号で最小です。
「新しいドリーム号」の座席配置は、車両前方に2列シートが4席、後方に3列シートが14席です。2列シートには「プレミアムドリーム号」のプレミアムシートを採用し、従来よりもシートピッチを拡大、足元にはヒーターも設置します。
3列シートは「グランドリーム号」の新型クレイドルシート(「ゆりかご」のようなシート)をベースに、リクライニング機能を向上させた新座席を設置します。3列シートでも全シートピッチを1m以上確保します。
個室感覚のドリーム号
2列シートは前後と横がパーテーションで仕切られ、3列シートは横がパーテーション、前後はプライベートカーテンで仕切られます。JRバスでは「従来の『ドリーム号』にはない個室感覚」とPRしています。
コンセント、フリーWi-Fi、空気清浄機つきエアコンといった、最近の高速バスでは主流となった設備も配され、全席にタブレット端末も置かれるそうです。タブレット端末では、動画や雑誌などを無料で楽しめます。
運賃は未発表ですが、すでに運行されている「プレミアムドリーム」号や「グランドリーム号」に準ずると推測されます。プレミアムドリーム号は、東京~大阪間が11,500円~13,300円程度、グランドリーム号は7,600円~10,000円程度です。
旧高速路線バス系が巻き返し
東京~大阪線は高速バス業界の最激戦路線で、これまでにもJRバスの「プレミアムシート」やウィラートラベルの「エグゼクティブ」といった、2列シートの豪華車両が運転されてきました。
新たに登場する「ドリームスリーパー東京大阪号」は、これらよりもワンランク上の、本格的な個室型シートです。東阪間で最上級クラスに君臨しそうです。
JRバスの「新しいドリーム号」の位置づけはまだ不明瞭ですが、これまで以上の個室感覚を打ち出してきたことで、2列シートは「ドリームスリーパー」に次ぐクラスになりそうです。
高速バスの「新座席開発競争」では、ウィラーや海部観光といった旧ツアーバス系が先導してきたイメージがありますが、ここへきて、JRや両備といった旧高速路線バス系の雄が巻き返してきた印象です。
豪華シートに利用価値はあるか?
では、こうした豪華シートには、どの程度の利用価値があるのでしょうか?
まず、コストパフォーマンスの視点でみてみましょう。「ドリームスリーパー東京大阪号」の片道20,000万円は、4列シートの4倍の面積を専有しますから、4列シートの片道5,000円と同価値があります。
東京~大阪間片道5,000円は、4列シートなら相場より高くもなく安くもない、という印象です。タイミングにもよりますが、平日なら片道3,000円台でも購入できますが、週末なら6,000円くらいすることも珍しくありません。
その意味で、「ドリームスリーパー東京大阪号」の片道20,000円は、高速バスの価格としては妥当でしょう。
「プレミアムドリーム」は、片道12,000円くらいが平均価格帯になりそうです。「ドリームスリーパー」と同じ2列シートで、価格は4割安いので、コストパフォーマンスとしてはこちらのほうが上かもしれません。
新幹線や飛行機と比べると?
では、他の交通機関と比べるとどうでしょうか。新幹線「のぞみ」号は、東京~新大阪間のグリーン車が19,230円。飛行機は、ANAの普通運賃が25,490円、特割が14,000円程度、プレミアムクラスの普通運賃が34,490円、特割が23,000円程度です。
「ドリームスリーパー東京大阪号」の値段は、新幹線のグリーン車とほぼ同等で、飛行機のプレミアムクラスより安い、という印象です。飛行機の普通運賃よりも安いとも表現できますが、飛行機に普通運賃で乗る人はあまりいないでしょうから、「飛行機の普通席の割引運賃よりは高い」という表現が適切に思えます。
一方、JRバスの「プレミアムシート」は、新幹線普通車や、飛行機の普通席割引運賃と価格的に同水準です。寝台列車よりは明らかに安く、やはりコスパに優れます。
夜行列車と比較すると
夜行列車との比較はどうでしょうか。現在、唯一残る寝台特急「サンライズ出雲・瀬戸」の上り列車を東京~大阪間だけ乗ると、B寝台ソロが18,140円、シングルが19,220円です(運賃・料金の総額)。「ドリームスリーパー東京大阪号」は、寝台特急のB個室と価格的に同水準です。
ちなみに、2008年に廃止された急行銀河のB寝台は16,070円、A寝台は20,270円でした。物価や税金の違いは多少ありますが、急行「銀河」のA寝台ともほぼ同水準というわけです。
仮に、急行「銀河」が現在も存続していたとして、銀河のA寝台のアコモデーションと「ドリームスリーパー東京大阪号」のそれを比べると、「ドリームスリーパー」に軍配が上がるでしょう。
「サンライズ」のシングルと比べるとどうでしょうか。完全に横になれるという点では「サンライズ」が有利ですが、Wi-Fiなど現代的な装備では、「ドリームスリーパー」が上回るかもしれません。
寝台列車と互角の内容
設備や価格を総合的に見た場合、「ドリームスリーパー東京大阪号」は、寝台列車と互角の内容で、「寝台列車の代わり」になるのではないか、と思います。
惜しむらくは、フルフラットシートにならないことですが、日本の現法令ではフルフラットシートの「寝台バス」は認められていません。安全上の問題なので法令改正の可能性は低く、「完全に横になれる」という意味で寝台列車の代わりになるバスは、今後も登場しそうにありません。
一方、JRバスの「プレミアムシート」は、コスパに優れものの、快適性に関しては「ドリームスリーパー」や「サンライズ」の「シングル」「ソロ」などには劣りそうです。
ただ、1万円台前半というのは、バス会社にも利用者にも使い勝手のいい価格帯です。現実的に「高速バスの代わり」として各地に路線展開をできそうな豪華高速バスは、このクラスでしょう。(鎌倉淳)