kamakura
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西九州新幹線
西九州新幹線は、福岡市と長崎市を結ぶ整備新幹線です。博多~新鳥栖間は九州新幹線として開業済みで、武雄温泉~長崎間も2022年9月23日に開業しました。残る未開業区間は新鳥栖~武雄温泉間ですが、着工に向けた準備は進んでいません。
なお、西九州新幹線は、かつては「長崎新幹線」や「九州新幹線長崎ルート」「九州新幹線西九州ルート」などと呼ばれたこともありますが、現在は「西九州新幹線」の名称が定着しています。当記事でも「西九州新幹線」で統一します。
西九州新幹線新鳥栖~武雄温泉間の概要
西九州新幹線は、博多~新鳥栖間26.3km(営業キロ28.6km)と武雄温泉~長崎間66.0kmが開業済みで、新鳥栖~武雄温泉間が未着工です。
武雄温泉駅は、新幹線と在来線特急が対面で乗り換えられるホームが整備され、同じホームで乗り換えが可能です。この設備を利用して、武雄温泉で新幹線と在来線を乗り継ぐ「リレー方式」により、博多~長崎間を結んでいます。
本来は、フリーゲージトレイン(軌間可変電車)を投入して、博多~新鳥栖~武雄温泉~長崎を直通運転する計画でした。しかし、フリーゲージトレインの開発が頓挫して、リレー方式に変更されました。
新鳥栖~武雄温泉間の整備計画は示されていません。国と長崎県は、標準軌複線の「フル規格新幹線」の導入に前向きです。フル規格新幹線の場合、新鳥栖~武雄温泉間に高速新線を建設し、途中駅として佐賀駅を設けるのが基本的な構想です。江北に駅を設ける案もあります。
2021年度の国交省の調査によりますと、フル規格で佐賀駅を通るルートを建設する場合、博多~佐賀間が20分(現行35分)、新大阪~佐賀間が2時間44分(現行3時間13分)、博多~長崎間が51分(現行1時間20分)、新大阪~長崎間が3時間15分(現行3時間58分)で結ばれるとしています。
ただし、地元の佐賀県はフル規格新幹線の導入に消極的です。導入によるメリットが小さく、費用負担が重いためです。整備新幹線は地元自治体の合意と費用負担が前提のため、佐賀県が消極的である以上、フル規格新幹線建設の見通しは立っていません。
フル規格新幹線以外では、国交省が2018年にミニ新幹線の試算を明らかにしています。「単線並列」、「複線三線軌」の2つのパターンを検討しましたが、工期が長いほか、整備後のダイヤに影響が生じるといった課題があります。複数軌間を併用してのミニ新幹線にはメンテナンスの課題があり、JR九州が消極的です。
そうした事情もあり、ミニ新幹線案は採用されず、現在はフル規格新幹線に絞って議論がおこなわれています。
概算事業費と費用便益比
2021年度の国交省の調査によりますと、佐賀駅を経由するフル規格新幹線を整備する場合の概算事業費は約6,200億円。想定工期は12年、費用便益比は3.1、収支改善効果は年86億円と試算されました。
上記の調査では、佐賀市北部を経由するルート、佐賀空港を経由するルートも記されています。その場合の評価は下表の通りです。いずれも途中駅は一駅の想定ですが、決定したことではありません。
さかのぼる2018年の国交省の調査では、フル規格で新鳥栖~佐賀~武雄温泉を作った場合、事業費は約5,300億円、工期は約12年と見積もられていました。ミニ新幹線では単線並列が約500億円で約10年の工期、複線三線軌の場合は約1,400億円の約14年です。
費用便益比はフル規格が3.3、単線並列が3.1、複線三線軌が2.6となっていました。
並行在来線
整備新幹線は、開業後、並行在来線がJRから切り離されるルールです。しかし、西九州新幹線の新鳥栖~武雄温泉間の並行在来線がどこになるかは、いまのところ明らかにされていません。
佐賀県の強硬姿勢をみて、JR九州は、並行在来線の移管をしないことも検討しているようです。九州新幹線が開業した際に、鹿児島線博多~八代間は移管されていませんので、同様の扱いになる可能性が高そうです。
ただ、現時点では並行在来線の議論には至っておらず、扱いは不透明です。
西九州新幹線の沿革
短絡ルートの決定まで
1970年に全国新幹線鉄道整備法が制定され、1972年に九州新幹線長崎ルートとして福岡市~長崎市間の基本計画が公示されました。1973年には九州新幹線長崎ルートを含む、整備新幹線5路線の決定と建設の指示がなされました。
しかし、オイルショックや国鉄の経営悪化の影響を受けて着工は見合わせとなり、1982年9月24日に、九州新幹線を含む整備新幹線全線の着工凍結が閣議決定されました。ただ、計画の検討は進められ、1985年1月に、九州新幹線長崎ルートの経路について、国鉄が早岐経由とすることを公表しました。
1987年1月30日の閣議決定で整備新幹線の着工凍結が解除されましたが、JR九州が長崎ルートについて「早岐経由では収支改善効果は現れない」と意見を表明(1987年12月)して停滞します。運輸省が1988年8月に示した暫定整備計画案でも、九州新幹線長崎ルートの着工は盛り込まれませんでした。
こうした事態を受け、早岐経由とされていた当初ルート案の見直しが行われ、嬉野経由に変更して距離を短縮し、建設費の圧縮を図る案(短絡ルート)が浮上。1992年にJR九州が武雄市から諌早市・大村市を経由して長崎市に至る短絡ルートについて、スーパー特急方式の収支試算結果を公表します。
その後、地元自治体などで構成する九州新幹線長崎ルート建設促進連絡協議会も、短絡ルートによるスーパー特急方式を地元案として合意しました。この時点で、武雄温泉、新大村を経由する現ルートの骨格が固まったわけです。
スーパー特急方式での着工
スーパー特急方式というのは、在来線特急(狭軌)が高速新線に乗り入れる形を指します。フル規格ではなく、在来線の高速化で整備する方針となったわけです。
1998年2月に、日本鉄道建設公団が武雄温泉~新大村(仮称)間の駅・ルートを公表。10月には環境影響評価に着手し、この区間のスーパー特急方式での建設に向け準備が進みます。
2000年12月の政府与党申し合わせを受けて、2001年12月に同区間の暫定整備計画が決定され、2002年1月8日には、鉄建公団が武雄温泉~長崎間の工事実施計画をスーパー特急方式で認可申請しました。
2004年12月の政府与党申し合わせでは、武雄温泉~諫早間をスーパー特急方式で着工し、その際にフリーゲージトレインによる整備を目指すことが取り決められました。
しかし、並行在来線となる長崎線肥前山口~諫早間の沿線自治体が在来線の経営分離に強硬に反対し、整備新幹線着工の条件の一つである「並行在来線の経営分離への沿線自治体の合意」が達成されず、着工は先送りとなります。
事態打開のため、JR九州が譲歩し、2007年12月に、JR九州と佐賀、長崎両県は、肥前山口~諫早間の全区間をJR九州が継続して運行することで合意。新幹線開業後の同区間の赤字は、JR九州と両県が20年間負担することになりました。
それでも鹿島市は反対を続けましたが、並行在来線の経営分離が行われないことにより「沿線自治体の合意」が不要になったとして、2008年3月に、武雄温泉~諫早間の工事実施計画が認可され、4月28日に着工しました。
フル規格で長崎までの建設に
この時点では、建設区間は「諫早まで」でした。しかし、長崎までの整備を求める声は根強く、2008年12月16日に、長崎駅部を2009年末までに認可する方向で政府・与党が合意。しかし、2009年の政権交代で未着工の整備新幹線についてが、いったん白紙に戻ってしまいます。
民主党政権での議論の後、2011年12月に「整備新幹線の整備に関する基本方針」が決定され、武雄温泉~諫早~長崎間が「一体的な事業」として整備されることになりました。佐世保線肥前山口~武雄温泉間を複線化し、軌間可変電車(フリーゲージトレイン)方式(標準軌)により「諫早・長崎間の着工から概ね10年後に完成・開業する」との方針が決定しました。フル規格による武雄温泉~長崎間の建設が決まったわけです。
これを受け、2012年6月12日に、鉄道建設・運輸施設整備支援機構が長崎ルート武雄温泉~長崎間の工事実施計画を国土交通省に認可申請。6月29日に認可され、フル規格による武雄温泉~長崎間が着工。博多~武雄温泉間はフリーゲージトレインで乗り入れることになりました。開業予定は2022年度末頃と決められています。
フリーゲージトレインの頓挫
フリーゲージトレインの開発も進められました。2014年4月に、フリーゲージトレインの第三次試験車両での性能確認試験を開始します。
しかし、同年12月に車軸に摩耗などが発生し、試験が中断。これにより、2022年度末の武雄温泉~長崎間の開業時にフリーゲージトレインを全面導入することは困難になり、2016年3月、国や長崎、佐賀両県など関係6者は「リレー方式」で2022年度に開業させることで合意しました。
フリーゲージトレインは、2016年12月に検証走行試験を実施したものの、ふたたび車軸に磨耗が見つかってしまいます。2017年7月14日、国土交通省は、2022年度の長崎ルート暫定開業時に、フリーゲージトレインの先行車両を導入することができないことを認めました。
同7月25日には、JR九州の青柳俊彦社長が、与党の整備新幹線推進プロジェクトチーム(与党PT)の会合で、「フリーゲージトレインによる運営は困難」と述べ、長崎新幹線へのフリーゲージトレイン導入そのものを断念することを明らかにしています。
与党PTでは、新鳥栖~武雄温泉間の整備方法を再検討。2018年3月30日に開かれた会合で、国交省が「九州新幹線(西九州ルート)の整備のあり方について(比較検討結果)」を報告し、対面乗換開業時・FGT・ミニ新幹線(単線並列と複線三線軌の2パターン)・全線フル規格の試算を公表しました。
与党PTは、2018年7月19日の会合でフリーゲージトレインの導入を正式に断念し、2019年8月にはフル規格で整備すべきとの方針を決定しています。
ただし、佐賀県はフル規格の建設方針に一貫して反対。与党PTのほか、国交省やJR九州、長崎県を交えた協議もおこなわれてきましたが、これまでのところ合意に至っていません。
西九州新幹線新鳥栖~武雄温泉間のデータ
西九州新幹線新鳥栖~武雄温泉間データ
営業構想事業者
JR九州
整備構想事業者
鉄道・運輸機構
路線名
西九州新幹線
区間・駅
新鳥栖~武雄温泉
距離
約50km(佐賀駅ルート、フル規格)
想定輸送密度
--
総事業費
6200億円(佐賀駅ルート、フル規格)
費用便益比
3.1
収支改善効果
約86億円/年
種別
第一種鉄道事業
種類
新幹線鉄道
軌間
1,435mm
電化方式
交流25,000V
単線・複線
未定
開業予定時期
未定
備考
全国新幹線整備法
※データは2021年九州新幹線西九州ルートに関する「幅広い協議」の資料(国土交通省鉄道局)より。
西九州新幹線新鳥栖~武雄温泉間の今後の見通し
西九州新幹線の新鳥栖~武雄温泉間は、全区間が佐賀県です。しかし、その佐賀県が新幹線建設をする気がありません。整備新幹線は「地元が要望して、費用の一部を負担する」というスキームです。西九州新幹線の場合、地元が要望しておらず、費用負担にも難色を示している以上、建設することは難しいでしょう
スキームを変更するか、何らかの特例を設ける方法も考えられます。しかし、新幹線ができれば在来線特急が廃止また削減されます。佐賀県は、低価格で利用できる在来線特急の廃止による利便性低下も懸念しているため、新幹線を迷惑に感じている気配すらあります。こうなると、建設費負担の話だけではなくなりますので、「金で解決する」ことも難しいといえます。
ということで、現時点で、西九州新幹線新鳥栖~武雄温泉間に着工の見通しはありません。国が新たなスキームを考案できるかにかかっているといえそうです。
北海道新幹線旭川延伸
北海道新幹線は、青森県青森市から北海道札幌市を経て旭川市までを結ぶ計画の新幹線です。このうち、青森市から札幌市までの区間が整備計画路線(整備新幹線)、札幌市から旭川市までが基本計画路線です。
現在、新青森駅~新函館北斗駅間148.8kmが開業済みで、新函館北斗~札幌間211.5kmが建設中です。この記事では、基本計画路線の札幌~旭川間を取り上げます。
北海道新幹線旭川延伸の概要
札幌~旭川間は在来線で136kmです。北海道新幹線旭川延伸促進期成会によれば、旭川新幹線のルートは、現在の函館線に沿って、最高速度360km/hが可能になるよう、できるだけ直線的に設定します。
フル規格単線の新幹線路線を想定します。駅位置、駅数については、現在の特急停車駅、人口集積度、在来線との接続を考慮して設定します。
こうした条件でみてみると、候補となる途中駅は、岩見沢、美唄、滝川、深川あたりでしょうか。
所要時間
札幌~旭川間の現在の所要時間は在来線特急で約1時間25分です。この区間に新幹線を建設し、最高速度を360km/hとした場合、29分で結ばれます。最高速度260km/hの場合は35分です。
東京~旭川間の所要時間については、最高速度が360km/hの場合で4時間25分、260km/hの場合で5時間50分とされています。なお、現状は9時間23分です。
需要予測
駅間通過人員は、旭川~滝川間で8,734人、旭川~岩見沢間で9,866人、岩見沢~札幌間で9,945人になると予想しています。
新幹線整備により、おおよそ50%増えるという見込みです。
JR北海道による在来線高速化計画
JR北海道は、北海道新幹線の旭川延伸について、特段の動きをみせていません。いっぽう、2026年までの中期経営計画で函館線札幌~旭川間の高速化を掲げていて、現在1時間25分の所要時間を最速60分にすることを目指しています。
JR北海道の構想は在来線の高速化であって、新幹線建設ではありません。新幹線計画路線に並行する在来線で高速化を掲げたことは、「新幹線建設ではなく、在来線改良で高速化を実現する」姿勢を示したともいえます。
ただ、在来線高速化は必ずしも新幹線計画と相反するものではありません。というのも、国土交通省は、「新たな新幹線整備手法」として、在来線改良による高速化を検討しているからです。その目標は最高速度200km/hです。
JR北海道は、この方式で「旭川新幹線」を実現しようとしているのかもしれません。言い方を変えれば、JRの構想は、新幹線の基本計画路線を在来線改良に落とし込む内容といえます
つまり、将来的には、在来線改良による「最高時速200km/hの狭軌新幹線」として、北海道新幹線旭川延伸が実現する可能性もあるということです。
北海道新幹線旭川延伸の沿革
北海道新幹線は、「全国新幹線鉄道整備法」に基づいて整備が進められている新幹線です。1972年7月3日運輸省告示第243号により青森市~札幌市が基本計画区間に追加され、1973年11月13日に、同区間の整備計画を決定しています。同日、札幌市~旭川市も基本計画区間に追加されました。
このうち、新青森~新函館北斗間は2016年3月26日に開業しています。新函館北斗~札幌間は2030年度末の開業を目指していますが、工事は順調に進んでおらず、開業は2030年度半ば以降になりそうです。
札幌~旭川間は「基本計画路線」と位置づけられていて、現時点で着工の見通しはありません。事業着手するとしても、新幹線の札幌開業後ということになります。
そもそも、旭川に新幹線という考え自体が、かつては夢物語でした。しかし、札幌開業の実現が視野に入ってきたのを受け、建設促進運動が始まりました。2021年3月29日に「北海道新幹線旭川延伸促進期成会」が設立され、毎年夏に、与党や国交省に陳情をしています。
いっぽう、JR北海道は、上述のように2024年に公表した中期経営計画で、在来線の高速化を盛り込み、将来的に函館線札幌~旭川間を60分で結ぶことを目標にすると明らかにしています。完成時期は明確ではありませんが、「新幹線札幌開業後」と位置づけています。
北海道新幹線旭川延伸のデータ
北海道新幹線旭川延伸データ
営業構想事業者
JR北海道
整備構想事業者
鉄道・運輸機構
路線名
北海道新幹線
区間・駅
札幌~旭川
距離
136km(在来線)
想定輸送密度
--
総事業費
--
費用便益比
--
累積資金収支黒字転換年
--
種別
第一種鉄道事業
種類
新幹線鉄道
軌間
1,435mm
電化方式
交流25,000V
単線・複線
単線
開業予定時期
未定
備考
全国新幹線整備法
※データはおもに北海道新幹線旭川延伸促進期成会ウェブサイトに基づく。
北海道新幹線旭川延伸の今後の見通し
新幹線の基本計画路線は全国で11路線あり、その多くの沿線で「整備新幹線」への格上げを求める運動が始まっています。旭川延伸に向けた期成会設立は、その波に乗り遅れまい、という動きとみられます。
現段階で即座の着工を求めているわけではなく、「次のリスト」に盛り込まれることを目的としているのでしょう。
実際に建設するとなれば採算性が問われますし、財源や並行在来線の問題も生じます。「次のリスト」に盛り込まれたとしても、着工へのハードルは低くありません。
いっぽう、JR北海道は、2024年に在来線の高速化構想を掲げました。JR北海道が、このタイミングで、新幹線札幌開業後の目標として在来線高速化を掲げたのは、旭川新幹線建設運動の動きが影響しているのかもしれません。
背景として、仮に旭川新幹線を建設した場合、並行在来線の扱いに困る、という点が挙げられます。輸送密度からすれば、函館線岩見沢~旭川間の維持が困難になりますが、廃止となると、旭川で接続する富良野線や宗谷線、石北線が宙に浮きます。JRとしては、新幹線を作るより、並行在来線問題が生じない在来線高速化のほうが都合がいい、ということでしょう。
新幹線札幌駅は2面2線の通過式で、線路は旭川方面へ抜けられるようになっています。しかし、線路容量は小さく、ホームの増設余地も乏しく、延伸を考慮した形になっているとも言いがたいです。
こうしたことからも、フル規格の新幹線を旭川方面に伸ばすより、在来線高速化のほうが現実的です。いずれ、新幹線建設スキームを在来線高速化に適用する形が検討されるかも知れません。
北海道南回り新幹線
北海道南回り新幹線は、北海道の長万部町から室蘭市を経て札幌市に至る新幹線です。全国新幹線鉄道整備法における基本計画路線と位置づけられています。
着工の予定はいまのところなく、開業予定時期も未定です。
北海道南回り新幹線の概要
北海道南回り新幹線は、長万部から室蘭を経て札幌に至る新幹線の基本計画路線です。長万部から室蘭本線・千歳線に沿う形で札幌に至ります。
1973年に「建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画」に盛り込まれました。しかし、現在に至るまで建設へ向けた動きはなく、具体的なルートや途中駅などは一切未定です。
建設される場合、長万部から洞爺湖町、伊達市(伊達紋別)、室蘭市、登別市、白老町、苫小牧市、千歳市を経由して札幌駅に至り、北海道新幹線と合流する形になるでしょう。
北海道南回り新幹線の沿革
1970年の全国新幹線整備法制定後、北海道に新幹線を敷設する計画が持ち上がりました。そこで問題になったのが、長万部から札幌へのルートを、倶知安・小樽経由の「北回り」にするか、室蘭・苫小牧経由の「南回り」にするか、という点です。
新幹線の誘致合戦は、当時日本各地で加熱しており、政府は1973年に、新幹線の整備計画策定に向けたルート選定の調査を全国的に実施しました。
北海道新幹線においては、「北回り」は長万部から札幌に至る最短ルートであるものの沿線人口が少ない点がデメリットとされ、「南回り」は大回りながら沿線人口が多いことがメリットされました。当初は、採算面で優れる南回りルートが有力視されていました。
1973年9月18日に、国鉄と日本鉄道建設公団による調査結果の概要が公表されました。全国の新幹線計画のほとんどが大きな論争なく決着しましたが、北海道新幹線と北陸新幹線の金沢以西については、国鉄と日本鉄道建設公団の間で意見が対立しました。
結局、当時の田中角栄首相が最終判断し、北陸新幹線については「若狭ルート」、北海道新幹線については「北回りルート」が選択されました。
毎日新聞1973年9月19日付けによりますと、「新幹線は大都市という点と点を早く結ぶ輸送機関か、在来線の " 線増 " として中都市を結ぶ線の輸送機関か、と判断を迫られたかたちとなったが、田中首相は列島改造の大動脈と南北海道や若狭、北京都の開発も考慮、小樽経由と若狭ルートを支持した」としています。
しかし、南回りルートの沿線自治体から不満が噴出します。そのため、調査結果公表の翌19日には早くも、札幌から苫小牧までの枝線の建設について、政府・与党・国鉄・日本鉄道建設公団4者のトップ会談によって確認されました。室蘭市長と登別市長は目白の田中邸へ赴き、直接田中首相に陳情し、田中の指示により札幌~室蘭間を基本計画路線とすることで合意しました。
そして、1973年11月13日、北海道新幹線は青森~札幌間で倶知安経由の整備計画が決定し、同15日には札幌~旭川間と、北海道南回り新幹線の基本計画が決定したのです。
とはいえ、札幌までの北海道新幹線すら半世紀経っても実現しておらず、開業は2030年代を待たねばなりません。北海道南回り新幹線については、計画実現に向けた動きすらほとんどないのが実情です。
参考:北海道新幹線をめぐる政治過程と並行在来線問題(角一典、地理学論集、2011)
北海道南回り新幹線のデータ
北海道南回り新幹線データ
営業構想事業者
JR北海道
整備構想事業者
鉄道・運輸機構
路線名
北海道南回り新幹線
区間・駅
長万部~室蘭~札幌
距離
約180km
想定輸送密度
--
総事業費
--
費用便益比
--
累積資金収支黒字転換年
--
種別
第一種鉄道事業
種類
新幹線鉄道
軌間
1,435mm
電化方式
交流25,000V
単線・複線
未定
開業予定時期
未定
備考
全国新幹線整備法
北海道南回り新幹線の今後の見通し
北海道新幹線は、東京と札幌を新幹線で結ぶという列島の大動脈としての意味があります。一方、北海道南回り新幹線は、倶知安・小樽ルートとなった北海道新幹線から漏れた沿線を救済する意味合いの強い計画です。そのため、路線の重要性としては残念ながら高くありません。
他の基本計画路線と比べてみても、四国新幹線や東九州新幹線などに比べると、重要度では低くなります。そのため、建設の優先順位としては低くくならざるを得ないでしょう。
また、北海道南回り新幹線を建設すると、並行在来線(室蘭線)の維持が問題になります。長万部~苫小牧間の普通列車の旅客輸送は少ないですが、貨物列車が走るため維持せざるを得ません。その費用負担が問題になります。
そうした状況から、北海道南回り新幹線がフル規格で事業着手する可能性は限りなく低いでしょう。
ただ、JR北海道は、札幌~新千歳空港の在来線(千歳線)の高速化を目指しています。この構想が新幹線整備スキームでおこなわれる可能性はあります。その場合、北海道南回り新幹線の新千歳空港~札幌間のみ事業化という形になります。フル規格にはならず、狭軌路線として高速化されることになるでしょう。
羽越新幹線
羽越新幹線は、富山市から新潟市、秋田市を経て青森市に至る新幹線です。全国新幹線鉄道整備法における基本計画路線と位置づけられています。
北陸新幹線と共用する富山~上越妙高間と、上越新幹線と共用する長岡~新潟間が開業済みです。それ以外の区間の着工予定はいまのところなく、開業予定時期も未定です。
羽越新幹線の概要
羽越新幹線は、富山~青森間を日本海側に沿って結ぶ新幹線の基本計画路線です。在来線では、北陸線、羽越線、奥羽線に沿う形です。
1973年に「建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画」に盛り込まれました。上越新幹線と共用する長岡~新潟間と、北陸新幹線と共用する富山~上越妙高間が開業済みです。それ以外には、建設予定はありません。ただ、最近になり、とくに山形・秋田県で、建設に向けた運動が始まっています。
上越新幹線の長岡駅の新幹線ホームは、現在11・12番線の相対式2面2線になっていますが、それぞれのホームを島式に改造し、2線を増やして2面2線にできるスペースが確保されています。北陸新幹線の上越妙高駅も、羽越新幹線接続を考慮して2面4線の構造になっています。
建設する場合、北陸新幹線上越妙高駅から分岐して柏崎市を経て、上越新幹線長岡駅に至り、同新潟駅から延伸して、新発田市、村上市、鶴岡市、酒田市、にかほ市、由利本荘市、秋田市、能代市、北秋田市、大館市、弘前市を経由して東北新幹線新青森駅に至ると思われます。
以下では、2020年3月にまとめられた『羽越・奥羽新幹線の早期実現に向けた費用対効果算出等業務報告書』を基に、羽越新幹線の概要を見て行きます。
所要時間と運転本数
報告書によりますと、羽越新幹線の総延長は656.3kmを想定します。
所要時間は、320km/h運転の場合、富山~新青森間が3時間10分、上越新幹線と直通した場合の東京~鶴岡間が2時間24分、東京~秋田間が2時間56分、東京~弘前間が3時間32分などとなっています。
1日あたりの運転本数は、羽越・奥羽両新幹線が開業した場合、新大阪~新潟、新大阪~新青森、東京~新青森(新潟経由)、東京~新青森(山形経由)、東京~秋田(同)の5系統が、各16往復と試算しています。各系統が毎時1本程度、複数系統が走る区間は毎時2本程度です。
概算工事費
概算工事費は、全線を複線フル規格で、これまでの新幹線と同等のものを建設する場合、羽越新幹線が3兆5250億円です。羽越・奥羽新幹線を同時開業で工事した場合、5兆4833億円と試算しました。
単線化、駅舎の簡略化、高架ではなく地平・盛土構造での建設などにより費用を圧縮した場合、羽越新幹線で2兆5942億円、同時開業で4兆393億円となります。
ただし、単線整備の場合は列車交換による表定速度の低下や運行本数の制限が生じます。地平構造の場合は、交差道路との立体交差対応や、排水・排雪設備の整備が必要になります。
輸送密度は、320km/h運転の場合で、新潟~新青森間が11,000~16,700、上越妙高~長岡が14,000~18,000と試算されました。
費用便益比(B/C)は、320km/h運転の羽越新幹線単独整備が0.70、羽越・奥羽新幹線同時整備が0.62となっています(下記の表の上)。一方、単線化など建設費圧縮を全体の33.9%にわたって実施した場合、羽越新幹線単独整備が0.96、羽越・奥羽新幹線同時整備が0.86となります(下記の表の下)。いずれも、基準となる「1」を上回ることはできません。
ただし、社会的割引率を3%と仮定した場合、羽越新幹線単独整備が1.21、同時整備が1.08となり、いずれも基準の「1」をクリアします。2%と仮定した場合は、それぞれ1.55、1.38となり、より高い数字となります。
「社会的割引率」とは、便益・費用の当該年度発生額を現在価値に割り戻すときの割合で、国の指針では過去の国債利回りを基に4%を使用することになっていますが、調査では、近年の国債利回りが低いことを理由に、参考値として3%、2%の割引率の場合も計算しています。
羽越新幹線の沿革
1970年の全国新幹線整備法制定後、1973年11月15日に羽越新幹線の基本計画が決定しました。
しかし、上越・北陸新幹線の共用部分を除き、2000年代まで具体的な建設の動きはほとんどありません。2010年代になり、整備新幹線の完成が視野に入ってきてから、山形県を中心に建設運動が始まっています。
2016年5月22日には、山形県が、地元自治体や経済界で構成する「山形県奥羽・羽越新幹線整備実現同盟」を発足させました。
2017年8月9日には、奥羽、羽越両新幹線のフル規格での整備を目指し、山形県を事務局として沿線6県(青森、秋田、山形、福島、新潟、富山)の担当課長などで構成される「羽越・奥羽新幹線関係6県合同プロジェクトチーム(羽越・奥羽新幹線PT)が発足。日本海側の県で連携して建設運動に取り組む方針が示されました。
羽越・奥羽新幹線PTは沿線エリアの地域ビジョンや費用対効果、整備手法の3項目について調査・検討を進め、2020年3月付で最終報告書を公表しました。実際に一般公表されたのは2021年6月です。
羽越新幹線のデータ
羽越新幹線データ
営業構想事業者
JR東日本
整備構想事業者
鉄道・運輸機構
路線名
羽越新幹線
区間・駅
富山~新潟~秋田~青森
距離
656.3km
想定輸送密度
11,000~16,700人(新潟~新青森)
総事業費
2兆5942億~3兆5250億円
費用便益比
0.53~0.96
累積資金収支黒字転換年
--
種別
第一種鉄道事業
種類
新幹線鉄道
軌間
1,435mm
電化方式
交流25,000V
単線・複線
未定
開業予定時期
未定
備考
全国新幹線整備法
※データはおもに『羽越・奥羽新幹線の早期実現に向けた費用対効果算出等業務調査報告書』(2022年)に基づく。
羽越新幹線の今後の見通し
羽越新幹線の総延長は約560kmに及び、新幹線の基本計画路線のなかでも最長です。関連する県は富山、新潟、山形、秋田、青森の5県で、これも最大規模です。
ただ、沿線自治体でも建設に向けた温度差があります。富山県内は実質的に完成しており、今後の路線建設とは直接的に無関係です。
青森県はすでに東北新幹線が開業しており、羽越新幹線の開業で恩恵を受けるのは弘前市だけです。
一方、羽越新幹線開業に大きな期待をかけるのが、フル規格新幹線の通っていない山形、秋田の両県です。そのため、建設運動の旗振り役も両県で、同様に両県を貫く奥羽新幹線とあわせて、建設運動が展開されています。
新潟県は、すでに上越、北陸両新幹線が主要部を通っていますが、羽越新幹線が完成すれば県内を縦貫する意味が見込めます。そのため、上越妙高~長岡間について「鉄道高速化」という観点でミニ新幹線などの調査を独自におこなっています。ただし、直接的に羽越新幹線の建設は遠いとみていて、秋田・山形両県とは立ち位置が異なります。
いずれにせよ、羽越新幹線は総延長が長いわりに沿線に大都市が少なく、同じ基本計画路線の四国新幹線や東九州新幹線などに比べると、費用対効果が小さいという難点があります。また、並行在来線の普通列車の利用者が少ない一方、貨物列車の運行本数は多いため、移管後の路線維持に課題があります。
奥羽新幹線と比べても、山形、秋田両県庁所在地を結ぶ奥羽新幹線のほうが、優先順位は高くなりそうです。そのため、フル規格での羽越新幹線を全線建設するということは、正直なところ非現実的に思えます。
奥羽新幹線
奥羽新幹線は、福島市から山形市を経由して秋田市に至る新幹線計画です。全国新幹線鉄道整備法における基本計画路線と位置づけられています。
ミニ新幹線として開業している山形新幹線と秋田新幹線とは別の、フル規格の新幹線を作る構想です。着工予定はいまのところなく、開業予定時期も未定です。
奥羽新幹線の概要
奥羽新幹線は、福島~秋田を結ぶ新幹線の基本計画路線です。在来線の奥羽線に沿う形です。
1973年に「建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画」に盛り込まれましたが、現在に至るまで、具体的な建設予定はありません。
ただし、奥羽新幹線の計画区間では、在来線を改軌した山形新幹線が福島~新庄間と、同じく秋田新幹線が大館~秋田間で開業してます。これらは、在来線に新幹線の車両を乗り入れさせ新在直通運転をしているものです。在来線区間(ミニ新幹線区間)は最高時速130km程度に過ぎませんが、フル規格の東北新幹線に直通して東京まで運転しています。
ミニ新幹線は、新幹線鉄道整備法に定義されたフル規格の高速新線とは異なります。したがって、運行中の山形・秋田新幹線と奥羽新幹線は、基本的には別の構想です。
奥羽新幹線がフル規格で建設される場合の経路は、東北新幹線福島駅から、米沢市、南陽市、上山市、山形市、天童市、村山市、尾花沢市、新庄市、湯沢市、横手市、大仙市を経由して、秋田駅に至ると思われます。
奥羽新幹線の建設計画は具体化していませんが、板谷峠に山形新幹線用として23kmの長大トンネルを掘る計画が検討されています。2017年までにJR東日本が調査し、山形県にその結果を伝えました。それによりますと、板谷峠トンネルが完成すれば、現在の山形新幹線の所要時間が10分程度短縮されるそうです。
板谷峠トンネル事業費は1500億円で、将来のフル規格新幹線を想定した大きさにする場合は、120億円余分にかかります。板谷峠トンネルがフル規格新幹線仕様で作られるならば、その部分だけ、実質的に奥羽新幹線が着工することになります。
以下では、2020年3月にまとめられた『羽越・奥羽新幹線の早期実現に向けた費用対効果算出等業務報告書』を基に、奥羽新幹線の概要を見て行きます。
所要時間と運転本数
報告書によりますと、奥羽新幹線の総延長は265.6kmを想定します。
所要時間は、320km/h運転の場合、東京~秋田間が2時間23分、東京~山形間が1時間40分です。秋田駅は鉄道が有利とされる3時間を大きく下回り、山形は2時間を切ることが想定されます。
1日あたりの運転本数は、羽越・奥羽両新幹線が開業した場合、新大阪~新潟、新大阪~新青森、東京~新青森(新潟経由)、東京~新青森(山形経由)、東京~秋田(同)の5系統が、各16往復と試算しています。各系統が毎時1本程度、複数系統が走る区間は毎時2本程度です。
概算工事費
概算工事費は、全線を複線フル規格で、これまでの新幹線と同等のものを建設する場合、奥羽新幹線が1兆9525億円です。羽越・奥羽新幹線を同時開業で工事した場合、5兆4833億円と試算しました。
単線化、駅舎の簡略化、高架ではなく地平・盛土構造での建設などにより費用を圧縮した場合、奥羽新幹線で1兆4451億円、同時開業で4兆393億円となります。
ただし、単線整備の場合は列車交換による表定速度の低下や運行本数の制限が生じます。地平構造の場合は、交差道路との立体交差対応や、排水・排雪設備の整備が必要になります。
輸送密度は、320km/h運転の場合で、福島~秋田が19,300~25,100と試算されました。
費用便益比(B/C)は、320km/h運転の奥羽新幹線単独整備が0.65、羽越・奥羽新幹線同時整備が0.62となっています。一方、単線化など建設費圧縮を全体の33.9%にわたって実施した場合、奥羽新幹線単独整備が0.90、羽越・奥羽新幹線同時整備が0.86となります。いずれも、基準となる「1」を上回ることはできません。
ただし、社会的割引率を3%と仮定した場合、奥羽新幹線単独整備が1.13、同時整備が1.08となり、いずれも基準の「1」をクリアします。2%と仮定した場合は、それぞれ1.44、1.38となり、より高い数字となります。
奥羽新幹線の沿革
1970年の全国新幹線整備法制定後、1973年11月15日に奥羽新幹線の基本計画が決定しました。
しかし、2000年代まで具体的な建設の動きはほとんどありませんでした。2010年代になり、整備新幹線の完成が視野に入ってくると、山形県を中心に建設運動が始まります。
2015年には、山形県知事がJR東日本を訪れ、板谷峠トンネルの掘削調査を依頼。2017年11月にその調査結果が山形県に伝えられました。
また、2016年5月22日には、山形県が、地元自治体や経済界で構成する「山形県奥羽・羽越新幹線整備実現同盟」を発足させています。
2017年8月9日には、奥羽、羽越両新幹線のフル規格での整備を目指し、山形県を事務局として沿線6県(青森、秋田、山形、福島、新潟、富山)の担当課長などで構成される「羽越・奥羽新幹線関係6県合同プロジェクトチーム(羽越・奥羽新幹線PT)が発足。日本海側の県で連携して建設運動に取り組む方針が示されました。
羽越・奥羽新幹線PTは沿線エリアの地域ビジョンや費用対効果、整備手法の3項目について調査・検討を進め、2020年3月付で最終報告書を公表しました。実際に一般公表されたのは2021年6月です。
奥羽新幹線のデータ
奥羽新幹線データ
営業構想事業者
JR東日本
整備構想事業者
鉄道・運輸機構
路線名
奥羽新幹線
区間・駅
福島~山形~秋田
距離
265.6km
想定輸送密度
19,300~25,100人
総事業費
1兆4451億~1兆9525億円
費用便益比
0.50~0.90
累積資金収支黒字転換年
--
種別
第一種鉄道事業
種類
新幹線鉄道
軌間
1,435mm
電化方式
交流25,000V
単線・複線
未定
開業予定時期
未定
備考
全国新幹線整備法
※データはおもに『羽越・奥羽新幹線の早期実現に向けた費用対効果算出等業務調査報告書』(2022年)に基づく。
奥羽新幹線の今後の見通し
奥羽新幹線の建設を強く推進しているのは山形県です。山形県の主要都市を貫くフル規格新幹線が実現して、もっとも恩恵を受けるのが山形県だからでしょう。秋田県も前向きですが、いまのところ建設運動は山形県が中心となっている印象です。
奥羽新幹線の計画区間の半分以上には、すでにミニ新幹線が通っています。奥羽新幹線を建設する場合は、このミニ新幹線を活かしつつ、フル規格に「格上げ」していく手法が現実的です。
具体的には、おそらく板谷峠トンネルがフル規格仕様で作られ、福島~米沢間が実質的にフル規格の先行開業区間になるのでは、と予想されます。福島~米沢間で260km/h運転ができれば本物のフル規格ですが、そうなるのかはわかりません。
米沢以北に関しても、フル規格を高速新線で作るよりは、在来線の高架化や短絡線整備などによる高速化が図られるのではないでしょうか。
北陸・中京新幹線
北陸・中京新幹線は、敦賀市から名古屋市に至る新幹線計画です。北陸新幹線と東海道新幹線とを結ぶ路線で、全国新幹線鉄道整備法における基本計画路線と位置づけられています。
計画の具体化はしておらず、着工予定も決まっておらず、開業予定時期も未定です。
北陸・中京新幹線の概要
北陸・中京新幹線は、敦賀~名古屋を結ぶ新幹線の基本計画路線です。在来線の北陸線・東海道線に沿う形です。
1973年に「建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画」に盛り込まれましたが、現在に至るまで、具体的な建設予定はありません。
北陸・中京新幹線のルートは、基本計画では敦賀市~名古屋市の約50kmとなっていますが、両市間の距離は直線距離でも約90kmあります。そのため、実際には、北陸新幹線敦賀駅から東海道新幹線米原駅(または近江長岡駅)付近までが建設区間とみなされています。この距離は約46kmです。
米原駅付近~名古屋駅間は、東海道新幹線との共用が想定されています。途中駅などもまったく未定ですが、近江長岡駅付近で東海道新幹線と合流するなら、その手前の長浜駅郊外に「新長浜駅」ができるかもしれません。
北陸・中京新幹線の敦賀~米原間は、北陸新幹線敦賀以西のルート検討時に「米原ルート」として候補になっていました。しかし、結局、北陸新幹線は「小浜・京都ルート」に決定したため、敦賀~米原間を北陸新幹線として建設する計画は消滅しました。
ただ、東海道新幹線と北陸新幹線を結ぶ路線として、北陸・中京新幹線の建設構想は残されています。
北陸新幹線米原ルートとして2016年に滋賀県が試算した資料では、敦賀~米原間に新幹線ができた場合、名古屋~金沢間が1時間7分に短縮されます。概算建設費は4,141億円です。国土交通省が同年におこなった試算では5,900億円とされました。
ただし、これは北陸新幹線(新大阪方面)の試算であって、北陸・中京新幹線(名古屋方面)とは異なります。
北陸・中京新幹線の沿革
1970年の全国新幹線整備法制定後、全国で新幹線を敷設する計画が持ち上がりました。新幹線の誘致合戦は、当時日本各地で加熱しており、政府は1973年に、新幹線の整備計画策定に向けたルート選定の調査を全国的に実施しました。
1973年9月18日に、国鉄と日本鉄道建設公団による調査結果の概要が公表されました。全国の新幹線計画のほとんどが大きな論争なく決着しましたが、北海道新幹線と北陸新幹線の金沢以西については、国鉄と日本鉄道建設公団の間で意見が対立しました。
北陸新幹線については、当初、いわゆる「米原ルート」が有力視されていましたが、「若狭ルート」を推す意見もあり、最終的に田中角栄首相(当時)が最終判断し、「若狭ルート」が選択されています。
毎日新聞1973年9月19日付けによりますと、田中首相は「若狭、北京都の開発も考慮」したうえで、若狭ルートを支持したとしています。
その救済をする形で盛り込まれたのが、北陸・中京新幹線です。北陸新幹線から外れた米原ルートが北陸・中京新幹線として基本計画路線に盛り込まれ、1973年11月15日に北陸・中京新幹線の基本計画が決定しました。
しかし、北陸新幹線の敦賀以西は、そこで最終決着とはならず、その後も議論が続き、北陸・中京新幹線は、北陸新幹線の米原ルートとして検討されてつづけました。北陸新幹線が小浜・京都ルートで最終決着したのは、2017年のことです。そこで、敦賀~米原間が、基本計画路線の北陸・中京新幹線として再浮上してきたわけです。
そのため、北陸・中京新幹線が単独で検討されはじめたのは、最近です。2017年6月に、中部9県と名古屋市で構成する「中部圏知事会議」で、西川一誠福井県知事が北陸・中京新幹線の整備を検討する必要性を訴えたのが、ほとんど最初でしょう。この会議で、検討の場として、沿線の関係自治体でつくる事務レベルの調整会議が設置されることになりました。
今後、全国の新幹線基本計画路線が整備計画へと格上げが議論されることが見込まれているため、その中に盛り込もうという動きといえます。
しかし、その後、京都・小浜ルートの費用が高騰し、米原ルート案を求める声が高まってきたこともあり、福井県から北陸・中京新幹線を求める声は上がらなくなりました。
北陸・中京新幹線のデータ
北陸・中京新幹線データ
営業構想事業者
未定
整備構想事業者
鉄道・運輸機構
路線名
未定
区間・駅
敦賀~名古屋
距離
約50km
想定輸送密度
--
総事業費
--
費用便益比
--
累積資金収支黒字転換年
--
種別
第一種鉄道事業
種類
新幹線鉄道
軌間
1,435mm
電化方式
交流25,000V
単線・複線
未定
開業予定時期
未定
備考
全国新幹線整備法
北陸・中京新幹線の今後の見通し
北陸新幹線のルートとして1970年代に候補に挙げられたものの、最終的に整備新幹線になり損ねた区間が北陸・中京新幹線といえます。「米原ルート」として2010年代まで議論が続きましたが、最終的に北陸新幹線としては日の目を見ませんでした。
北陸・中京新幹線はほとんどが滋賀県を通過しますが、当事者の滋賀県はこれといった動きを見せていません。旗振り役は福井県ですが、北陸新幹線のルート決定で、米原ルートを拒否し続けた福井県が、いまさらそれに近いルートを作ろうと旗を振っても説得力はいまひとつです。
今後、通過県となる滋賀県が、どの程度この新幹線整備に力を入れるかがポイントですが、現状の整備新幹線建設スキームが変わらないなら、滋賀県にとっては負担の大きさのわりにメリットの小さい新幹線です。そのため、見通しが明るいとはいえません。
山陰新幹線
山陰新幹線は、大阪市から鳥取県鳥取市、島根県松江市を経て、山口県下関市に至る新幹線です。全国新幹線鉄道整備法における基本計画路線と位置づけられています。
詳細なルートは未決定で、着工の予定はいまのところなく、開業予定時期も未定です。
山陰新幹線の概要
山陰新幹線は、大阪から鳥取県、島根県を経由して山口県に至る新幹線の基本計画路線です。おおざっぱなルートとしては、新大阪駅から福知山線・山陰本線に沿う形で新下関駅に至ります。
1973年に「建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画」に盛り込まれました。しかし、現在に至るまで建設へ向けた動きはなく、具体的なルートや途中駅などは一切未定です。
建設する場合、新大阪駅から福知山市、豊岡市、鳥取市、倉吉市、米子市、松江市、出雲市、大田市、江津市、浜田市、益田市、萩市、長門市を経由して新下関駅に至り、山陽新幹線と合流する形になるでしょう。
山陽新幹線の新下関駅は2面3線ですが、将来的に1線増設できる構造になっており、山陰新幹線との接続が考慮されています。ただ、山陰新幹線の建設準備として目にするものはこの程度で、現時点ではまったくの構想段階にすぎません。
3段階建設案
沿線自治体では、山陰縦貫・超高速鉄道整備推進市町村会議を結成して建設運動を進めています。2018年2月に行われた同会議による「山陰新幹線の早期実現を求める松江大会」資料(京都大学藤井聡教授作成)によりますと、山陰新幹線と伯備新幹線(中国横断新幹線)の整備を3段階で目指すとしています。
第1段階として、北陸新幹線・大阪~東小浜間を「山陰新幹線との共用区間」とみなし整備します。第2段階として、山陰新幹線の東小浜~鳥取~米子間と、伯備新幹線(中国横断新幹線)の岡山~米子~松江~出雲間を整備します。第3期として残りの区間(出雲市~下関市)を整備するとしています。
また、区間によっては単線整備や、山形新幹線のようにミニ新幹線で整備したうえで、フル規格化を目指すという方式も検討するとしています。
藤井氏の『山陰新幹線の意義とプロセス』(2019年)によりますと、の「北陸新幹線共用方式」で整備した場合、京都~西舞鶴が36分、新大阪~西舞鶴が59分、京都~豊岡が63分、新大阪~豊岡が85分、京都~鳥取が63分、新大阪~鳥取が82分、新大阪~松江が131分になるとしています。
山陰新幹線の第1段階の整備は、北陸新幹線として実現の見通しが立っています。したがって、今後の建設運動の焦点になるのは第2段階の「小浜~鳥取~米子」です。
藤井氏の試算によれば、新大阪~鳥取間の建設費は全線フル規格で約9000億円、単線で約6900億円。新大阪~米子間は複線で約1兆6000億円、単線で約1兆1800億円です。
山陰新幹線の沿革
1970年の全国新幹線整備法制定後、1973年11月15 日に「建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画」に山陰新幹線が盛り込まれました。いわゆる「基本計画路線」の一つです。
ただ、その後建設に向けた具体的な動きはほとんどありませんでした。2010年代になり、整備新幹線の完成が視野に入ってくると、ようやく沿線自治体に整備新幹線への格上げを狙った動きがみられはじめます。2013年には沿線自治体で構成する山陰縦貫・超高速鉄道整備推進市町村会議が発足。新幹線整備へ向けての調査を実施するなど、建設運動を開始しました。
その後は、毎年会合を実施したり、陳情をおこなっていますが、建設へ向けた具体的な進捗はありません。
山陰新幹線のデータ
山陰新幹線データ
営業構想事業者
JR西日本
整備構想事業者
鉄道・運輸機構
路線名
山陰新幹線
区間・駅
大阪市~鳥取市~松江市~下関市
距離
約550km
想定輸送密度
--
総事業費
--
費用便益比
--
累積資金収支黒字転換年
--
種別
第一種鉄道事業
種類
新幹線鉄道
軌間
1,435mm
電化方式
交流25,000V
単線・複線
未定
開業予定時期
未定
備考
全国新幹線整備法
山陰新幹線の今後の見通し
山陰新幹線の総延長は約550km。新幹線の基本計画路線では、羽越新幹線に次ぐ長さです。ただ、羽越新幹線が上越・北陸新幹線との共用区間が部分開業しているのと比べて、山陰新幹線の開業区間はゼロ。したがって、未開業の新幹線基本計画路線として、山陰新幹線は最長距離となります。
推進市町村会議では、建設費がかかりすぎる大阪近郊を北陸新幹線と共用することで建設せずに済ませ、小浜市付近から舞鶴市、豊岡市、鳥取市へと向かうルートをたどることを想定。単線区間を容認し、ミニ新幹線も活用するという現実策を提案しています。
また、米子・松江エリアでは、東小浜ルートは迂遠です。そのため、山陰新幹線よりは中国横断新幹線(伯備新幹線)の誘致に力を入れることになるでしょう。したがって、山陰新幹線を本当に作るとしても、まずは東小浜~鳥取間となります。
東小浜~鳥取に限っても、全線フル規格で作るとなると1兆円規模の建設費が見込まれます。一方、費用を節約してミニ新幹線にしても速度向上効果は限られます。どちらも費用対効果が悪そうで、効果的に整備する方法が思い浮かばず、事業着手は当面難しいというほかありません。
中国横断新幹線(伯備新幹線)
中国横断新幹線は、岡山市から島根県松江市に至る新幹線です。全国新幹線鉄道整備法における基本計画路線と位置づけられています。「伯備新幹線」とも呼ばれます。
詳細なルートは未決定で、着工の予定はいまのところなく、開業予定時期も未定です。
中国横断新幹線(伯備新幹線)の概要
中国横断新幹線は、岡山市から島根県松江市に至る新幹線の基本計画路線です。「中国横断新幹線」が正式名称ですが、伯備線に沿うルートなので「伯備新幹線」とも呼ばれます。
1973年に「建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画」に盛り込まれました。しかし、現在に至るまで建設へ向けた動きはなく、具体的なルートや途中駅などは一切未定です。
建設する場合、岡山駅から新見市、米子市を経て松江市に至るルートが想定されます。中国横断新幹線の距離は約150kmとされていますが、これは伯備線で岡山~米子間の距離に相当します。米子~松江間は山陰新幹線も基本計画にあることから、同区間は山陰新幹線との共用を想定して、計画距離を150kmと定めたようです。
ただ、現実には山陰新幹線と伯備新幹線が同時着工する見通しはありません。そのため、伯備新幹線を単独で整備する場合、岡山~出雲市間が計画区間になるとみられます。沿線自治体で組織する「中国横断新幹線(伯備新幹線)整備推進会議」でも、岡山~出雲市間を想定しています。
所要時間と建設費
京都大学の藤井聡教授による『伯備新幹線の意義とプロセス』(2019年)によりますと、岡山~出雲市間をフル規格で整備した場合、岡山~米子間が33分、岡山~松江間が44分、岡山~出雲市間が58分で結ばれます。
新大阪までは岡山から45分ほどかかりますので、新大阪~松江間が89分、つまり約1時間半という試算になります。
建設費は、岡山~出雲市間をフル規格で整備すると約1兆2700億円、単線の場合は1兆1100億円と試算しています。
中国横断新幹線(伯備新幹線)の沿革
1970年の全国新幹線整備法制定後、1973年11月15日に「建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画」に中国横断新幹線が盛り込まれました。いわゆる「基本計画路線」の一つです。
ただ、その後建設に向けた具体的な動きはほとんどありませんでした。伯備線に関しては、1990年代からフリーゲージトレインによる山陽新幹線直通列車導入を目指す運動が、沿線自治体で続いてきたためです。沿線3県では「JR伯備線フリーゲージトレイン導入促進鳥取、島根、岡山三県協議会」を設置して運動を続けていました。
しかし、フリーゲージトレインの技術開発が停滞していること、開発しても山陽新幹線への乗り入れにJR西日本が難色を示していること、時短効果に乏しいことなどから、協議会は2017年に方針を転換。フル規格新幹線の導入を目指し、中国横断新幹線の整備新幹線への昇格に目標を切り替えます。
おりしも整備5新幹線の完成が視野に入ってきた段階でもあり、「次の整備新幹線」に乗り遅れまいとする動きです。結局、2019年に「中国横断新幹線(伯備新幹線)整備推進会議」を設立し、フル規格新幹線の建設促進運動に本腰を入れ始めます。
その後は、新幹線整備へ向けての調査を実施したり、陳情をおこなったりしていますが、建設へ向けた具体的な進捗はありません。
中国横断新幹線(伯備新幹線)のデータ
中国横断新幹線(伯備新幹線)データ
営業構想事業者
JR西日本
整備構想事業者
鉄道・運輸機構
路線名
中国横断新幹線(伯備新幹線)
区間・駅
大阪市~松江市
距離
約150km
想定輸送密度
--
総事業費
--
費用便益比
--
累積資金収支黒字転換年
--
種別
第一種鉄道事業
種類
新幹線鉄道
軌間
1,435mm
電化方式
交流25,000V
単線・複線
未定
開業予定時期
未定
備考
全国新幹線整備法
中国横断新幹線(伯備新幹線)の今後の見通し
中国横断新幹線(伯備新幹線)は、山陰新幹線と密接に関わる路線です。山陰新幹線は、北陸新幹線の東小浜から分岐して、舞鶴、豊岡を経て鳥取、米子に至るルートを想定しています。このルートの場合、大阪から松江方面は遠回りになります。
そのため、山陰新幹線が小浜ルートで建設運動をしている以上、松江方面には迂遠なので、島根県としては伯備新幹線の建設を促進する立場となります。その想定区間は岡山~出雲市間で、中国横断新幹線の基本計画の岡山~松江間よりも長くなっています。
ただ、フル規格で作るとなると1兆円規模の事業になりますし、並行在来線である伯備線の扱いも問題になります。伯備線の普通列車の利用者は少なく、特急を抜きにして旅客鉄道として維持するのは難しい水準です。しかし、貨物列車が走っていますので、廃止するわけにもいきません。
財源問題にくわえ並行在来線問題もあるわけです。こうしたことから、伯備線のフル規格建設は、当面難しいというほかなさそうです。
四国新幹線
四国新幹線は、大阪市から徳島県徳島市、香川県高松市、愛媛県松山市を経て大分市に至る新幹線です。全国新幹線鉄道整備法における基本計画路線と位置づけられています。
ただ、最近は、岡山から瀬戸大橋を渡って四国4県に延びる十字型ルートを「四国新幹線」と呼ぶことも多いです。この意味での四国新幹線についても、当記事でご紹介します。
四国新幹線の詳細なルートは未決定で、着工の予定はいまのところなく、開業予定時期も未定です。
四国新幹線の概要
四国新幹線は、大阪市から徳島市、高松市、松山市を経て大分市に至る新幹線の基本計画路線です。総延長は約480kmです。
おおまかなルートとしては、大阪から淡路島を経由して大鳴門橋を経て徳島市に入ります。そこから高徳線、予讃線に沿う形で松山に進み、豊予海峡を橋またはトンネルで渡って大分市に達します。
大鳴門橋は鉄道道路併用橋となっていて、新幹線が通るルートが確保されています。明石海峡大橋は道路単独橋のため、新幹線は通れません。したがって、本州と淡路島の間には、別途トンネルを掘るなどの工事が必要になります。
四国新幹線は、1973年に「建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画」に盛り込まれました。しかし、現在に至るまで、大鳴門橋以外で建設へ向けた動きはなく、具体的なルートや途中駅などは一切未定です。
2014年に四国4県と四国経済連合会、JR四国などによる「四国の鉄道高速化検討準備会」が四国新幹線について建設費などを調査しました。
それによりますと、四国新幹線を大阪~大分間で淡路島経由で整備した場合、路線延長は477km、概算事業費は4兆0200億円(建設費は3兆9900億円、車両費330億円)と試算しています。
整備後の所要時間は新大阪~徳島が40分、新大阪~高松が61分、新大阪~松山が98分です。この試算では、平均輸送密度は1日16,200人を確保するものの、、費用便益比は0.31にとどまるとしています。
十字型ルート
このため、同準備会では、四国横断新幹線とあわせたコンパクトな新幹線網を提言。具体的には、四国新幹線は徳島~松山間にとどめ、四国横断新幹線を岡山~高知間で建設するというものです。両新幹線の経路が重なる宇多津町~四国中央市付近は、線路を共用します。
これを「十字型ルート」と呼びます。最近では、「四国新幹線」という場合、この十字型ルートを指すことが多いです。
同準備会の試算によれば、四国新幹線十字型ルートの場合、路線延長は302km、概算事業費は1兆5700億円(建設費1兆5300億円、車両費410億円)です。瀬戸大橋に、すでに新幹線の導入空間が確保されているため、本四間に新たなトンネルや橋を作らなくてすむのが強みです。
完成すれば新大阪~徳島が95分、新大阪~高松が75分、新大阪~松山が98分、新大阪~高知が91分で結ばれるとしています。輸送密度は1日9,000人ですが、費用便益比は1.03になるとしました。
四国4県の方向性としては、上記のように、徳島、高松、松山、高知の4県庁所在地までの新幹線建設でまとまってきました。新大阪~徳島間と松山~大分間については先送りを容認する姿勢です。
駅位置
四国新幹線の駅位置について、公式に発表されたことや、確定した事実はありません。ただ、国土交通省の「幹線鉄道ネットワーク等のあり方に関する調査」の「令和元年度調査」では、四国新幹線をイメージしたケーススタディが掲載されています。下図は、その想定図です。
これを当サイトの独自解釈で四国新幹線十字型ルートに当てはめると、以下のようになります。括弧内は上表の仮定駅です。
■瀬戸大橋・予讃ルート
岡山(A)~児島(B)~宇多津(C)~観音寺(D)~伊予三島(E)~新居浜(F)~伊予西条(G)~松山(H)
■高徳ルート
宇多津(C)~高松(I)~三本松(J)~徳島(K)
■土讃ルート
四国中央(E)~高知(L)
松山、高松、徳島、高知、宇多津、伊予三島が2面4線で、それ以外は2面2線の構成です。
これはあくまでも、一つの仮定としての駅配置です。実際に建設するとなると、政治的な動きもあるでしょうし、駅数はもう少し増えるのではないか、と予想します。
県庁所在地駅の候補地
各駅の詳細な位置も未定ですが、2022年6月1日に、四国アライアンス地域経済研究会が各県庁所在地駅位置の候補地を発表しています。
「高松駅」は、JR高松駅、JR栗林駅、琴電伏石駅、高松空港の4案があります。古くから栗林駅が有力とされていますが、事業費と線形問題を克服できるなら高松駅もあり得るでしょう。
「松山駅」は、JR松山駅の高架化に際しスペースを確保してありますので、松山駅併設で決定です。その場合、線路は北方向から入ります。
「徳島駅」は、鳴門エリア、徳島空港、JR徳島駅の3案があります。将来的な紀淡海峡への延伸を考慮するなら鳴門エリアが有力ですが、当面の利便性を重視するなら徳島駅になるでしょう。
「高知駅」は、JR高知駅、JR後免駅の2案があります。利便性を考えるなら高知駅になりますが、建設費を縮減するなら後免駅もあり得るでしょう。
これらもあくまで民間団体の私案にすぎません。実際にどこに駅ができるかは、事業着手前に検討されることになるでしょう。
豊予海峡ルート
四国新幹線の終点となる大分市は、松山~大分間の新幹線計画について「豊予海峡ルート」として調査をしています。
2つのルート案が検討され、いずれも松山~大分間に3駅を作る設定です。1ルートが大洲市、伊方町、大分市幸崎付近に、2ルートが内子町、八幡浜市、大分市幸崎付近に、それぞれ駅を作ります。最終的には距離の短い1ルートで試算がなされました。総延長は146.0kmです。
この試算によると、豊予海峡を海底トンネルで結び、単線の新幹線を建設した場合、松山~大分間の所要時間は上り42分、下り36分になるとしました。
単線新幹線でも1日32往復の運転が可能とし、利用者は1日あたり約18,000人と予測しています。事業費は6,860億円で、費用便益比は1.20~3.32、初年度から黒字化が可能になるとしています。
なお、四国新幹線計画で残る新大阪~徳島間については、全くの未定です。この区間を推進するのは主に徳島県ですが、関係者の発言などから、明石海峡経由ではなく紀淡海峡経由を前提とする方向に傾きつつあります。関西空港を経由地とすることで採算性が改善するとの見通しからです。ただ、実現のメドは全く立っていません。
四国新幹線の沿革
1970年の全国新幹線整備法制定後、1973年11月15 日に「建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画」に四国新幹線が盛り込まれました。いわゆる「基本計画路線」の一つです。
その後建設に向けた具体的な動きはほとんどありませんでしたが、2010年代に入り、地元自治体などが新幹線誘致に本腰を入れ始めます。「四国の鉄道高速化検討準備会」が設立され、2014年4月に「四国における鉄道の抜本的高速化に関する基礎調査」の結果をまとめました。
2016年3月に国土交通省が公表した「四国圏広域地方計画」では、「鉄道の抜本的な高速化」が「長期的な検討課題」とされました。
2017年7月6日にはオール四国で新幹線誘致を推進する新組織として「四国新幹線整備促進期成会」が発足しています。2022年6月1日には、四国アライアンス地域経済研究会が各県庁所在地の新幹線駅候補地を発表しています。
2023年には、徳島県の後藤田正純新知事が、岡山ルートの四国新幹線計画に対して支持を表明。四国4県が一致して十字型ルートを推進する方向でまとまりました。
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四国新幹線のデータ
四国新幹線データ
営業構想事業者
JR四国
整備構想事業者
鉄道・運輸機構
路線名
四国新幹線
区間・駅
大阪市~徳島市~高松市~松山市~大分市(基本計画)徳島~高松~松山、岡山~宇多津、伊予三島~高知(十字型ルート)
距離
477km(基本計画)302km(十字型ルート)
想定輸送密度
16,200人/日(基本計画)9,000人/日(十字型ルート)
総事業費
4.02兆円(基本計画)1.57兆円(十字型ルート)
費用便益比
0.31(基本計画)1.03(十字型ルート)
累積資金収支黒字転換年
--
種別
第一種鉄道事業
種類
新幹線鉄道
軌間
1,435mm
電化方式
交流25,000V
単線・複線
未定
開業予定時期
未定
備考
全国新幹線整備法
四国新幹線の今後の見通し
新幹線の基本計画では、四国新幹線は大阪から四国を経由して大分に抜けるルートです。この場合、本土・淡路島間と、四国・九州間のそれぞれに、海峡を越える橋またはトンネルが必要となります。
建設費が非常にかさむため、四国新幹線の実現は非現実的と見られてきました。しかし、四国4県が「四国新幹線」と「四国横断新幹線」をひとまとめにして、十字型のルートに当面の計画を絞ったため、現実感が出てきたと言えるでしょう。
現在の構想では、すでに新幹線の導入空間が確保されている瀬戸大橋を本四間のルートとし、宇多津で高松・徳島方面に分かれ、伊予三島で松山・高知方面に分かれる系統となります。全線建設しても建設費は1兆円程度という試算で、実現性としては基本計画路線のなかで上位にありそうです。
主力となるのは松山方面の予讃ルートでしょう。一方で、大阪方面からの経路が大回りになる徳島への路線や、長大な山岳トンネルを掘らなければならない高知方面への土讃ルートを、本当に作るのか、という疑問もあります。
一方で、高知方面については、土讃線(在来線)の山岳区間の設備の老朽化が激しいため、その更新をするくらいなら新幹線を作ったほうが効果的という指摘もあります。
十字型ルートは「オール四国」の形を整えるには適していますが、実際に事業着手するとなると、優先順位を付けざるをえません。そのため、岡山~松山・高松が優先着工されて、高知、徳島は後回しにされる可能性は否めません。
四国横断新幹線
四国横断新幹線は、岡山市から高知市に至る新幹線です。全国新幹線鉄道整備法における基本計画路線と位置づけられています。また、「四国新幹線」の計画とあわせて検討されることもあります。
詳細なルートは未決定で、着工の予定はいまのところなく、開業予定時期も未定です。(当記事の内容は、四国新幹線の記事と重複します)
四国横断新幹線の概要
四国横断新幹線は、岡山市から高知市に至る新幹線の基本計画路線です。瀬戸大橋を渡り、四国を南北に貫く新幹線計画です。総延長は約150kmです。
おおまかなルートとしては、山陽新幹線岡山駅から、瀬戸大橋線の児島駅に至り、瀬戸大橋を渡り宇多津駅に出て、そこから高知を目指します。
宇多津から高知への経路は未定ですが、最新の構想では、宇多津駅~四国中央市(伊予三島付近)までは四国新幹線(徳島~高松~松山)と線路を併用します。四国中央市から南に向かい、高知市に達します。四国中央~高知間は、四国山脈を貫くルートになります。
瀬戸大橋は鉄道道路併用橋となっていて、児島~宇多津間は新幹線が通るルートが確保されています。本州側の児島駅と、四国側の宇多津駅には、新幹線のホームを設置するスペースが確保されていて、いずれも駅前広場として使われています。
四国横断新幹線は、1973年に「建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画」に盛り込まれました。しかし、現在に至るまで、瀬戸大橋区間以外で建設へ向けた動きはなく、具体的なルートや途中駅などは一切未定です。
2014年に四国4県と四国経済連合会、JR四国などによる「四国の鉄道高速化検討準備会」が四国横断新幹線について建設費などを調査しました。それによりますと、四国横断新幹線を岡山~高知間で単独整備した場合、路線延長は143km、概算事業費は7,260億円(建設費は7,100億円、車両費160億円)となります。
整備後の所要時間は新大阪~高知間が92分で結ばれます。
この試算では、平均輸送密度は1日6,100人で、費用便益比は0.59にとどまるとしています。
十字型ルート
このため、同準備会では、四国新幹線と四国横断新幹線とあわせた四国の県庁所在地を結ぶ新幹線網を提言。具体的には、四国横断新幹線の岡山~高知間と、四国新幹線の徳島~松山間を整備するというものです。
両新幹線の経路が重なる宇多津駅~四国中央市付近は線路を共用します。これを「十字型ルート」と呼びます。
十字型ルートは、四国横断新幹線の岡山~高知間全線と、四国新幹線の徳島~松山間を整備する計画です。最近では、「四国横断新幹線」「四国新幹線」と分けずに、この十字型ルートを四国全体の新幹線計画とし、「四国新幹線」と呼ぶことが多いです。
同準備会の試算によれば、四国新幹線十字型ルートの場合、路線延長は302km、概算事業費は1兆5700億円(建設費1兆5300億円、車両費410億円)です。
完成すれば新大阪~徳島が95分、新大阪~高松が75分、新大阪~松山が98分、新大阪~高知が91分で結ばれます。輸送密度は1日9,000人ですが、費用便益比は1.03になるとしました。
四国4県の方向性としては、この十字型ルートでまとまってきています。
駅位置
四国新幹線・四国横断新幹線の駅位置について、公式に発表されたことや、確定した事実はありません。ただ、国土交通省の「幹線鉄道ネットワーク等のあり方に関する調査」の令和元年度報告書では、四国新幹線をイメージしたケーススタディが掲載されています。下図は、その想定図です。
これを当サイトの独自解釈で四国新幹線十字型ルートに当てはめると、以下のようになります。括弧内は上表の仮定駅です。
■瀬戸大橋・予讃ルート
岡山(A)~児島(B)~宇多津(C)~観音寺(D)~伊予三島(E)~新居浜(F)~伊予西条(G)~松山(H)
■高徳ルート
宇多津(C)~高松(I)~三本松(J)~徳島(K)
■土讃ルート
四国中央(E)~高知(L)
岡山~伊予三島・高松間が複線で、それ以外は単線。駅設備は松山、高松、徳島、高知、宇多津、伊予三島が2面4線で、それ以外は2面2線の構成です。
これはあくまでも、一つの仮定としての駅配置です。実際に建設するとなると、政治的な動きもあるでしょうし、駅数はもう少し増えるのではないか、と予想します。
県庁所在地駅の候補地
各駅の詳細な位置も未定ですが、2022年6月1日に、四国アライアンス地域経済研究会が各県庁所在地駅位置の候補地を発表しています。
「高松駅」は、JR高松駅、JR栗林駅、琴電伏石駅、高松空港の4案があります。古くから栗林駅が有力とされていますが、事業費と線形問題を克服できるなら高松駅もあり得るでしょう。
「松山駅」は、JR松山駅の高架化に際しスペースを確保してありますので、松山駅併設で決定です。その場合、線路は北方向から入ります。
「徳島駅」は、鳴門エリア、徳島空港、JR徳島駅の3案があります。将来的な紀淡海峡への延伸を考慮するなら鳴門エリアが有力ですが、当面の利便性を重視するなら徳島駅になるでしょう。
「高知駅」は、JR高知駅、JR後免駅の2案があります。利便性を考えるなら高知駅になりますが、建設費を縮減するなら後免駅もあり得るでしょう。
これらもあくまで民間団体の私案にすぎません。実際にどこに駅ができるかは、事業着手前に検討されることになるでしょう。
四国横断新幹線の沿革
1970年の全国新幹線整備法制定後、1973年11月15日に「建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画」に四国横断新幹線が盛り込まれました。いわゆる「基本計画路線」の一つです。
その後建設に向けた具体的な動きはほとんどありませんでしたが、2010年代に入り、地元自治体などが新幹線誘致に本腰を入れ始めます。「四国の鉄道高速化検討準備会」が設立され、2014年4月に「四国における鉄道の抜本的高速化に関する基礎調査」の結果をまとめました。
2017年7月6日にはオール四国で新幹線誘致を推進する新組織として「四国新幹線整備促進期成会」が発足しています。2022年6月1日には、四国アライアンス地域経済研究会が各県庁所在地の新幹線駅候補地を発表しています。
2023年には、徳島県の後藤田正純新知事が、岡山ルートの四国新幹線計画に対して支持を表明。四国4県が一致して十字型ルートを推進する方向でまとまりました。
四国横断新幹線のデータ
四国横断新幹線データ
営業構想事業者
JR四国
整備構想事業者
鉄道・運輸機構
路線名
四国横断新幹線
区間・駅
岡山市~高知市(基本計画)
徳島~高松~松山、岡山~宇多津、伊予三島~高知(十字型ルート)
距離
143km(基本計画)
302km(十字型ルート)
想定輸送密度
6,100人/日(基本計画)
9,000人/日(十字型ルート)
総事業費
7,300億円(基本計画)
1兆5700億円(十字型ルート)
費用便益比
0.59(基本計画)
1.03(十字型ルート)
累積資金収支黒字転換年
--
種別
第一種鉄道事業
種類
新幹線鉄道
軌間
1,435mm
電化方式
交流25,000V
単線・複線
未定
開業予定時期
未定
備考
全国新幹線整備法
四国新幹線の今後の見通し
新幹線の基本計画では、四国横断新幹線は岡山から宇多津を経て高知に至るルートです。本州と四国を結ぶ新幹線で、大きく分けて北半分の瀬戸大橋区間と、南半分の四国山地区間があります。
瀬戸大橋区間は利用者も多いので新幹線が必要とされますが、四国山地区間は多くの利用者を見込めません。四国に新幹線を建設する場合、岡山~宇多津~松山がメインルートになるとみられ、四国山地区間の建設の優先度は低いと言えます。
しかし、四国への新幹線実現を目指す四国4県が「四国新幹線」と「四国横断新幹線」をひとまとめにして、十字型のルートを当面の計画としたため、セットで建設運動が進められそうです。
現在の構想では、すでに新幹線の導入空間が確保されている瀬戸大橋を本四間のルートとし、宇多津で高松・徳島方面に分かれ、伊予三島で松山・高知方面に分かれる系統となります。全線建設しても建設費は1兆円程度という試算で、実現性としては基本計画路線のなかで上位にありそうです。
主力となるのは松山方面の予讃ルートでしょう。一方で、大阪方面からの経路が大回りになる徳島への路線や、長大な山岳トンネルを掘らなければならない高知方面への土讃ルートを、本当に作るのか、という疑問もあります。
一方で、高知方面については、土讃線(在来線)の山岳区間の設備の老朽化が激しいため、その更新をするくらいなら新幹線を作ったほうが効果的という指摘もあります。
十字型ルートは「オール四国」の形を整えるには適していますが、実際に事業着手するとなると、優先順位を付けざるをえません。そのため、岡山~松山・高松が優先着工されて、高知、徳島は後回しにされる可能性は否めません。