JR東日本の東京近郊区間が、2014年4月に中央本線松本駅まで拡大されることになりました。「東京近郊区間」とは、JRが定める大都市近郊区間の一つ。大都市近郊区間内では、実際に利用する経路にかかわらず、最も安くなる経路で計算した運賃で乗車することができます。そのかわり、途中下車はできません。「最短経路で計算」というのは利用者にはメリットですが、「途中下車不可」はデメリットです。
黒磯、いわき、伊東も範囲に
この東京近郊区間、国鉄時代はいわゆる「国電区間」を中心に、高頻度運行路線だけがエリアに指定されていました。ところが、JRになって範囲は拡大。1999年に宇都宮、高崎、熱海、高崎、勝田まで広がったのを皮切りに、最近では、北は黒磯、水上、東はいわき、南は房総半島全体や伊東までが範囲に含まれるに至りました。そして2014年に、ついに松本まで拡大されるのです。
Suicaの普及が背景に
拡大の背景には、ICカード・Suicaの普及があります。Suicaはシステム上、最短経路を選ぶしくみになっていますので、Suicaを導入するなら大都市近郊区間の拡大は欠かせない、とJRが判断していると思われます。利用者からすれば「新宿でSuicaで改札を抜け、特急券を買って松本まで乗り、降りることができたら便利」ということになりますから、利便性の向上といえなくもありません。
450kmが途中下車不可に
一方で、「千葉から新宿まで出て、新宿で途中下車して買い物し松本まで特急に乗る」というようなことはできなくなります。極論をいえば、「いわきから松本まで利用しても途中下車不可」になりますが、この距離は約450kmもあります。現在はこの区間の乗車券は4日間有効ですが、2014年4月以降は、当日限り有効、途中下車不可になってしまいます。
とはいうものの、「途中下車」という制度を知っている一般の利用者がどれだけ存在するのかは微妙。鉄道ファン以外ほとんどの人が知らない仕組みかもしれません。そもそも鉄道の速度がもっと遅い時代に設定された規則ですし、そんな古いマニアな制度にこだわるより、Suicaの利便性を上げた方がいい、とJRが考えていても不思議ではありません。
東京近郊区間の最終形は?
となると、「東京近郊区間」はさらに広がる可能性があります。今回、松本までと同時に水郡線の水戸~常陸大子間も東京近郊区間に組み入れられました。同時に仙台近郊区間が創設され、東北本線の矢吹~平泉間、常磐線の原ノ町以北などが設定されています。
これを見る限り、「茨城県までが東京近郊区間、福島以北が仙台近郊区間」となるようです。新潟近郊区間も今回、直江津まで拡大されましたが、同県内にとどまっています。となると、上信越方面は長野県までが東京近郊区間の守備範囲と見て取れます。
仙台近郊区間
東京近郊区間が長野県の守備範囲になるなら、今後、そのエリアはさらに拡大されるかもしれません。具体的には、大糸線の松本~南小谷間、篠ノ井線全線、小海線の野辺山~小諸間が東京近郊区間に組み入れられる可能性もあるでしょう。
また、群馬県でまだエリアに入っていない吾妻線も遠からず東京近郊区間とされるかもしれません。
途中下車前途無効を避ける裏ワザは?
旅行者としては、大都市近郊区間指定によるデメリットは歓迎できません。途中下車前途無効を避けるには、乗車券に新幹線区間を挟むという裏技があります。たとえば、「いわき~松本」のきっぷの場合、「上野~東京」を新幹線区間に挟むことで、東京近郊区間特例から除外され、途中下車可能な4日間有効なきっぷにすることができます。
新幹線と在来線は選択乗車が可能ですので、上野~東京間で新幹線に乗らなくても構いません。同様な手法は、各地で使うことができます。ただし、発券は窓口のみで、時間も手間がかかりますのでご承知おきください。
もっと単純に「エリア外まで一駅余計に買う」という方法もあります。たとえば、東京~松本なら途中下車前途無効ですが、東京~北松本の乗車券にすると、同運賃で途中下車可能になります。ただ、この手法はエリアの端駅まで訪れる場合には有効ですが、「水戸から大月」というような場合には使えません。
大回りルートに変化なし
鉄道ファンに人気の「大回り乗車」は、今回の東京近郊区間拡大で変化はありません。しかし、仙台近郊区間の設定や、新潟近郊区間の拡大により、それらのエリアで新たな「大回り乗車ルート」が登場しました。
たとえば仙台~長町のきっぷで、新庄や福島までぐるりと回ることができます。これは、鉄道旅行者には小さいながらも新しい楽しみを提供してくれるでしょう。