青春18きっぷ「リニューアル」の衝撃。連続化で格安旅行はどう変わるか

明確な改悪で

JRグループが、「青春18きっぷ」のリニューアルを発表しました。2024-2025年冬季設定分で、有効期間が連続する3日間または5日間になり、日にちをあけての非連続利用や、複数人による分割利用ができなくなります。

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連続利用が条件に

JRグループは、2024-2025年冬季の「青春18きっぷ」の概要を発表しました。これまでの「5日分、非連続/複数人利用可」という大枠を改め、単独の旅行者による連続利用の設定に変更します。有効期間は3日間用と5日間用の2種類を設定しました。

ルール変更にあわせて自動改札機が通過できるようになり、利用開始日ごとに改札印を押す必要はなくなります。また、「1日」の利用時間が、その日の定期列車の終電までに延長されました。

価格は5日間用は「据え置き」で12,050円、3日間用は10,000円です。利用期間は12月10日~1月10日で、これまでと同じです。

下灘駅

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「青春18きっぷ」2024年冬季の概要

「青春18きっぷ」2024年冬季の概要は以下の通りです。

■ 青春18きっぷの概要(2024年度冬季)

●販売期間
[3日間用]2024年11月26日~2025年1月8日
[5日間用]2024年11月26日~2025年1月6日

●利用期間
 2024年12月10日~2025年1月10日

●価格
[3日間用]10,000円
[5日間用]12,050円
※大人、子供とも同額

●販売場所
 全国のJRの主な駅や旅行センター、主な旅行会社

●効力
 全国のJRの普通・快速列車の普通車自由席、BRT(バス高速輸送システム)、JR西日本宮島フェリーが乗り放題。

通過利用と特急利用の特例は従来通りです。詳細は略します。

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青春18きっぷ北海道新幹線オプション券

「青春18きっぷ北海道新幹線オプション券」も発売されます。普通列車が運転していない津軽海峡区間で利用できるきっぷです。

青春18きっぷと組み合わせて、北海道新幹線と道南いさりび鉄道を連続して利用できます。こちらもルール変更があり、従来の新幹線利用区間は奥津軽いまべつ~木古内間でしたが、冬季は新青森~木古内間となります。

すなわち、北海道新幹線オプション券は、北海道新幹線新青森~木古内間と道南いさりび鉄道木古内~五稜郭間を連続して利用する場合に、片道1回乗車できるきっぷとなります。

概要は以下の通りです。

■青春18きっぷ北海道新幹線オプション券(2024年度冬季)

●販売期間
2024年11月26日~2025年1月10日

●利用期間
2024年12月10日~2025年1月10日

●運賃:4,500円(大人/子供同額)

●販売場所
全国のJRの主な駅や旅行センター、主な旅行会社

北海道新幹線の利用区間が新青森まで拡大したのは、奥津軽いまべつ駅で接続していた津軽線が、蟹田以北で災害による不通が続いていて、廃止の方針が決まったためでしょう。

新幹線を新青森から利用できるようになった点は改善ともいえますが、それにあわせて、価格も値上げされます。これまで2,490円だったところ、4,500円となっています。この価格だと、青森~函館間のフェリーよりだいぶ高いため、お得感は薄れます。

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別のきっぷに

以上が、2024-25年冬季の青春18きっぷの概要です。JRはプレスリリースで「リニューアル」と告知していますが、利用者からみるとデメリットが多く、「改悪」といわれても仕方のない内容です。

とくに、日にちをあけての「非連続利用」や、複数人で使う「分割利用」ができなくなったことは、青春18きっぷの性質を大きく変えるものです。これまでの「青春18きっぷ」とリニューアルされた「青春18きっぷ」は、名称は同じでも別のきっぷと受け止めた方がいいでしょう。

実用的には使いづらく

「新青春18きっぷ」では、非連続利用ができなくなったことにより、たとえば帰省で1日分ずつ片道利用する、といった使い方がしづらくなります。

首都圏~関西圏を例に挙げると、帰省で1週間実家に滞在する場合、これまでは片道あたり2,410円、往復4,820円相当で利用できました。残りの3日分は他の用途に使ったり金券店などに売ることで有効に活用できました。

ところが、新青春18きっぷで同じ使い方をすると、3日間用が2枚必要となり、往復20,000円もかかります。それなら普通乗車券を買った方が安いので、帰省のためだけに青春18きっぷを使う人は激減するでしょう。

帰省を例に挙げましたが、今後、滞在型の用途で青春18きっぷはあまり役に立たなくなります。スポーツやライブ観戦など、日をあけての複数箇所でのイベント訪問といった用途にも使いにくくなるでしょう。

複数人利用ができなくなるので、たとえば大学のゼミやサークルでのグループ利用といった使い方もできません。

ざっくりいうと、「実用的な節約旅行」がしづらくなります。

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短期間の鉄道旅行はしやすくなるが

いっぽう、3日間用ができたことで、短期間の鉄道旅行はしやすくなります。たとえば、週末に絡めた2泊3日の鉄道旅行にはぴったりのきっぷといえます。

ただ、利用者が増えそうなシーンはこの程度で、他にはほとんど思い浮かびません。

「3日間用」は2泊3日の観光旅行に向いている、といいたいところですが、2日目を滞在日とすると、きっぷの割安感が薄れてしまいます。「3日間乗り放題」というのは、観光旅行では微妙に使いづらいです。

価格が安ければ、たとえば往復2日だけ使うという考えもありますが、3日間10,000円ですから、2日間で元を取るには東京~名古屋(片道運賃6,380円)くらいの距離を往復しなければなりません。それでもお得感は小さく、実用的に使おうという人は少ないのではないでしょうか。

そう考えると、「鉄道に乗る」ことを目的とする旅行以外で、青春18きっぷを使う人は激減しそうです。

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東海道線の混雑も緩和?

青春18きっぷの人気が高かったのは、鉄道ファン以外の利用者が幅広く存在したからです。

そうした利用者が使いにくくなるのであれば、今後、青春18きっぷ期間の普通・快速列車の利用者の減少は避けられません。たとえば、混雑で知られる東海道本線でも、期間中の普通列車の利用者が激減しそうで、「大垣ダッシュ」などの光景も見られなくなるかもしれません。

年末年始に1日ずつの日帰り旅行を数日おきに繰り返す、といった使い方もできませんので、大都市近郊のエキチカ観光地の人出が減る可能性すらあるでしょう。

いっぽう、学割の発行枚数は増えるでしょう。学生団体割引の申請も増えるかもしれません。これまでは青春18きっぷが安いので、それで済ませていた層が学割に回帰するわけです。学割対応には手間がかかり、窓口混雑の原因にもなっているので、JRとしては悩みどころでしょう。

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旅行スタイルのひとつが消滅

青春18きっぷの歴史は1982年にさかのぼり、非連続/分割利用は発売当初以来のルールです。それが変更されるということは、40年にわたって定着してきた格安旅行術が失われてしまうことを意味します。大げさにいえば、日本人の旅行スタイルのひとつが消滅するわけです。

では、そうしたスタイルを失った格安旅行者はどこにいくのでしょうか。

青春18きっぷの代替と考えられるのは高速バスですが、運転士不足を背景に便数は縮小傾向で、価格は値上がり傾向です。したがって、青春18利用者の受け皿としては不十分です。

長距離なら格安航空会社LCCが受け皿になりますが、青春18きっぷの主な利用者は短中距離区間なので、利用できる人は限られます。

新幹線や特急への遷移も多少はあるでしょうが、価格帯がだいぶ違うので、青春18きっぷ利用者がそのまま移るとは考えづらいです。JRなら普通列車に乗るほうが想像しやすいですが、定価を払って普通列車を乗り継いで旅をする人が、どれだけいるかというと疑問です。

残るはマイカー利用か、旅行を諦める、という選択になります。その場合、公共交通機関の利用が減ることを意味します。

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自動改札対応せざるを得なかった?

今回の青春18きっぷのリニューアルで、利用者の激減は容易に予測できます。減った利用者がJRの新幹線や特急を使ってくれるとも限りません。つまり、JRとしては減収が予想されるわけです。

にもかかわらず、JRはなぜこのようなリニューアルをおこなうのでしょうか。多くの方が指摘しているように、自動改札対応が最大の目的でしょう。青春18きっぷを磁気券として自動改札機に対応させるには、システム的に「連続化」を避けて通れなかったというわけです。

最近は駅改札口の係員の削減が進んでいて、青春18きっぷシーズンには、限られた有人通路に大行列が生じることも珍しくありません。

利用者にとってもストレスでしたし、鉄道各社にとっても軽視できない負荷になっていたのでしょう。その解消が、今回のリニューアルの最大の目的であることは、ほぼ間違いありません。

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1996年以来の大変革

青春18きっぷの過去の大きなルール変更といえば、1996年の「綴り販売の廃止」が挙げられます。5枚の綴り販売だった青春18きっぷを1枚の券片にまとめました。金券ショップなどでのばら売り対策です。

このときも改悪と批判され、一般紙で取り上げられるほどの騒ぎになりました。とはいえ、非連続/分割利用が可能という基本仕様に変化はなかったので、販売枚数が大きく減ることはなかったようです。

しかし、今回の「連続化」は、青春18きっぷの根本的な魅力を失わせるルール変更なので、おそらく販売枚数は大きく減るでしょう。

改札人員を確保できず

全くの想像ですが、JR各社も、販売枚数の減少につながるこの改悪は、できれば避けたかったのではないでしょうか。

しかし、JRは国鉄時代に採用した職員の大量退職期にさしかかっていて、人員不足に直面し始めています。コロナ禍後の経営難もあり、改札の省力化は避けて通れず、青春18きっぷを何とかしなければならないところまで追い詰められてきたのではないか、と推察します。

青春18きっぷを維持して得られる収益は、JR全体で年数十億円規模です。その大半を諦めなければならないほど、改札口の人員を確保できない状況になってきた、ということです。

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これからどうなるのか

では、青春18きっぷは、これからどうなるのでしょうか。

使い勝手が悪くなるとはいえ、全国のJR線に乗り放題というのは、鉄道ファンには高い利用価値があります。これまでも連続利用していた鉄道ファンは少なからずいましたので、3日間用が加わることで、鉄道ファンの利用者が増える要素もあります。

上述したように、実用的な利用者は激減するでしょうが、ファンの需要が底堅いのであれば、青春18きっぷが廃止に追い込まれるほど販売枚数が減少することもないように感じられます。

改札問題が解消し、一部区間の列車での期間中の異様な混雑もなくなれば、JR各社としても青春18きっぷ発売による負荷がほとんどなくなります。「刷れば売上げになる」経営的にはおいしいきっぷですから、販売枚数が激減したとしても、廃止する理由も乏しく、当面は連続利用の形態で存続するのではないでしょうか。

学割対応が増えることが問題になるなら、U25向けにより手頃な価格のきっぷを販売するかもしれません。

利用者として将来的に期待したいことがあるとすれば、QRコード改札機の普及です。今回の連続化が、磁気券利用の自動改札システムに起因しているならば、QRチケット化で解決可能です。すなわち、ネット販売のQR改札利用という形での、非連続利用の復活を期待したいところです。(鎌倉淳)

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