格安旅行の味方として知られる青春18きっぷ。磁気券にスタンプを押すという昭和的な利用方法が続いていますが、そろそろ電子化が検討されていてもおかしくありません。青春18きっぷの電子化、デジタル化、チケットレス化について考えてみました。
さまざまな課題を抱え
青春18きっぷは、JR全線の快速・普通列車が5日間乗り放題というきっぷです。国鉄時代から販売が継続されている、唯一のJR全線フリーきっぷとして愛されいます。
毎年春・夏・冬の3回に発売されていて、2024年度は春の利用期間が終了しています。例年は3回分の利用期間が一括で発表されるのですが、2024年度は夏・冬の発売に関しては未発表です。
夏・冬の発表が遅れている理由は定かではありませんが、青春18きっぷがさまざまな課題を抱えているのは確かです。何しろ国鉄時代に基本ルールが設定されたきっぷなので、現代のJRの事情に合っていない部分が多いのです。
※国鉄時代の青春18きっぷ
有人改札が削減され
最も大きな問題として認識されているのが、青春18きっぷでは自動改札を通過できない、ということでしょう。利用日ごとにスタンプを押してもらうというしくみ上、有人改札を経由するしかないのです。
ところが、最近、JRは駅窓口を片っ端から閉鎖しており、改札口の有人通路も削減しています。JRは改札の省人化を進めているわけですが、青春18きっぷはその障害になっています。
JRとしては、青春18きっぷを今後も存続させるには、自動改札を通過できるようにしたいはずです。その方法として考えられるのが、チケットレス化です。
QRコードを使用すれば
JRのチケットレス乗車は、長らく交通系ICカード乗車券が主流でしたが、最近はQRコード乗車券の活用が増えています。とくに、デジタルフリーきっぷとして全国に広まっているのは、QRコード乗車券です。
JR東日本も、2024年度から「QRコードを使用した新たな乗車サービス」を導入することを明らかにしています。「えきねっと」で購入したチケットを、えきねっとのアプリ上でQRコードとして表示させる仕組みです。QRコードを自動改札機にかざすと、チケットレスで列車を利用できます。
青春18きっぷに適用する場合、QRコード画面をスマホに表示できるようにすれば、自動改札(QRコード対応)も通過できます。有効日画面も表示できるようにすれば、有人改札も通過できますし、無人駅では列車の乗務員に提示できます。
利用日の設定をどうするか
問題は、5日間の利用日を任意に設定できる、という青春18きっぷ独特の仕様でしょう。これについては、青春18きっぷをオンライン専用販売とし、発売する際に「1日券を5枚セット」という形とすれば、解決できるかもしれません。1日券の有効日は、任意に設定でき、変更も可能なようにしておきます。
利用者はオンラインで有効日を設定し、利用開始日に「利用開始」の操作をアプリ上で行うとQRコードが表示される、という仕組みです。同一日に複数枚を利用できる仕様にしておけば、QRコード画面や有効日画面を転送することで、複数人で利用することも可能になるでしょう。
転売対策としては、一つのオンラインID(たとえば、えきねっとID)やクレジットカードにつき、利用期間内に購入できる青春18きっぷの枚数を制限すれば、ある程度の歯止めをかけることができます。
こうした方法が技術的可能なのかは、筆者にはわかりません。もっと単純に、「連続5日間有効」にしてしまえば、デジタルチケット化のハードルはぐっと下がります。
しかし、自動改札機問題があるにも関わらず、四半世紀以上にわたり「連続化」をしなかったのですから、いまさら実施する可能性は低いように思えます。
QR対応改札機が増えれば
「QRコード青春18きっぷ」の最大のハードルは、大都市圏におけるQRコード自動改札機の少なさかもしれません。
しかし、QRコード改札機は、インバウンド対応も含めて各地で増設される見通しなので、その少なさはいずれ解決されるとみられます。画面表示により有人改札通過可能という方法も残せば、問題は小さいでしょう。
2024年度からJR東日本だけでなく、JR西日本やJR九州もQRコードを使った乗車サービスを始めます。当面は特急列車を主対象にしたサービスになりそうですが、いずれJR各社で、QRコード乗車は一般化していくのではないでしょうか。
前時代的なシステムの青春18きっぷも、QRコード対応設備が整った段階で、オンライン販売によるチケットレス専用きっぷになる可能性はあるでしょう。
交通系ICカードは?
一方、交通系ICカードによるチケットレス化の可能性はどうでしょうか。JR東日本では、新型改札機でICカードのセンターサーバー化を進めています。将来的には鉄道チケットシステムと広く連携させる方針を示しているので、青春18きっぷの搭載ができるようになるかもしれません。
ただ、ICカードの場合、利用日を券面に表示させるには、券売機に通さなければなりません。そのため、ICカード対応券売機のない駅では、印字ができません。しかし、印字しないとICカード未対応エリアでの利用ができません。
印字しても読みづらいという問題もあります。そう考えると、交通系ICカードによる青春18きっぷのチケットレス化の実現は、QRコードよりハードルが高そうに思えます。
なお、いずれの方法であれ、実際に青春18きっぷをチケットレス化する計画は公表されていません。青春きっぷがいつまで存続するかも定かではありません。ただ、このきっぷを今後も残していくのであれば、電子化が避けて通れない道なのは確かでしょう。(鎌倉淳)