飛行機のオーバーブッキング発生率を調べてみた。JALよりANAが確率高く、アメリカ系はさらに高い

アメリカのユナイテッド航空で、搭乗済みの旅客を引きずり出して降ろす、という事件が起こりました。乗員4人を運ぶために席が足りなくなったという「オーバーブッキング」です。こうしたオーバーブッキングの発生率を調べてみました。

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日本では「フレックストラベラー」

オーバーブッキングは、日本語に直訳すると「過剰予約」。一定のキャンセルを見込んで予約を多めに取ることで、世界中の多くの航空会社で導入しています。

日本国内線では、オーバーブッキングは「フレックストラベラー制度」という、美しい名称に言い換えられています。国土交通省からそのデータが公表されていて、最新の数字である2016年度第二四半期をみると、3ヶ月間でJAL680件、ANA1,912件の「不足座席」が発生しています。不足座席数は、オーバーブッキングで足りなくなった座席数を意味します。

不足座席に対し、航空会社が協力金を提示して降りてもらう「自主協力旅客」(いわゆるボランティア)を募るわけですが、同四半期ではJALで515人、ANAで1,572人が応じています。残るJAL 165人、ANA 340人が、乗る意思を示しながら「搭乗できなかった旅客」(搭乗拒否)となります。

空港

10万人に2~3人が搭乗拒否

全輸送人員に対する「不足座席数」の割合は、1万人あたりでJALが0.93人、ANAが1.81人。同じく搭乗拒否の割合はJALが0.23人、ANAが0.32人です。

他の主要航空会社の搭乗拒否の割合(1万人あたり、2016年度第二四半期)を記しておくと、ソラシドエアが0.49人、琉球エアコミューターが0.32人、日本エアコミューターが0.18人、日本トランスオーシャン航空が0.12人、スカイマーク、エアドゥ、スターフライヤーが0人となっています。

統計を眺めてみると、航空会社によって割合は違えど、日本国内線でもオーバーブッキングは日常的に発生していて、おおむね10万人につき10~30人程度の割合で不足座席が生じています。ボランティアを募っても、10万人につき0~5人程度が搭乗拒否に遭っているわけです。

全体的にANAのほうがJALよりもオーバーブッキングや搭乗拒否の確率が高く、ANAのほうが予約を多めに取っていることが見て取れます。中堅航空会社ではソラシドエアで搭乗拒否の確率が高いのが目立ちます。

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アメリカ系は日系の3~10倍

アメリカの航空会社では、オーバーブッキングはもっと日常的です。今回の事件で、米エコノミスト誌で報道された資料を見ると、ユナイテッド航空では10万人につき100~120人程度のボランティアが発生し、10万人につき11人~12人程度が搭乗拒否に遭っているそうです。日系大手航空会社のざっと3~10倍です。

アメリカのオーバーブッキング
出典:http://www.economist.com/

実際にアメリカを旅していると、空港で「オーバーブッキングによるボランティア募集」の告知をしばしば見かけます。アメリカ系航空会社でオーバーブッキングが多いというのは、旅慣れた人の間ではよく知られているのではないでしょうか。

先ほどの資料を見ると、アメリカ系航空会社でも、スカイウェストやエクスプレスジェットでオーバーブッキングが特に多く、ジェットブルー、ハワイアン、バージンアメリカはきわめて少ないです。ジェットブルーは、そもそも座席数以上の予約を受け付けないので、オーバーブッキングは発生しないようです。

3大航空会社ではアメリカンがやや少なく、デルタはボランティアは多いものの搭乗拒否は少なめ、ユナイテッドはボランティア、搭乗拒否ともに多くなっています。

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ユナイテッド事件は特殊

オーバーブッキングによる座席調整は、どの国であれ、通常、旅客が飛行機に搭乗する前に行われます。チェックインカウンターか、ゲート前がほとんどで、ユナイテッド航空の事件のように、シートに座った旅客に対し降機を求めることは多くありません。

たまに、機内放送でボランティアの募集を聞くことはありますが、嫌がる旅客を引きずり出して降ろすなど、聞いたことがありません。

まして、今回のユナイテッドの事件は、乗員4人を急遽乗せるために旅客を降ろしたようなので、「過剰予約」というよりオペレーションのミスに見えます。その点でも、今回のユナイテッド航空の事例は、かなり特殊といえます。

身軽な旅行者ほど狙われる?

オーバーブッキングを確実に避ける方法はありませんが、なるべく被害に遭わないようにする方策はあります。ひとつは、搭乗前に当該便が満席かどうかを確認し、満席の場合は早めにチェックインし、保安検査場を超えてしまうことです。

できれば受託手荷物を預けたほうがいいでしょう。というのも、飛行機に荷物を積み込んだ場合、それを降ろすのには手間がかかるからです。受託手荷物を預け終えた旅客を搭乗拒否することは、航空会社にとっては負担が増えますので、できれば避けたいことでしょう。

逆にいうと、チェックインが遅く、身軽な旅行者ほど、航空会社からすれば「搭乗拒否しやすい旅客」なのです。

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スターアライアンスは確率が高い?

また、上述の通り、統計的には日系よりアメリカ系のほうがオーバーブッキングの確率は高く、JALよりもANAのほうが確率が高いです。

アライアンスで見ると、アメリカンとJALが属するワンワールドよりも、ユナイテッドとANAが属するスターアライアンスのほうが、オーバーブッキングの確率は高いことになります。ただし、日米の航空会社だけの比較であり、他国のキャリアを含めた数字はわかりません。

もう一つ、航空会社は高価格のチケットの旅客を優先する、ということも頭の隅に入れておきましょう。同じエコノミーでも、航空券の価格はチケットによってだいぶ違います。低価格の旅客のほうがオーバーブッキング時に搭乗拒否の対象にされやすいようです。

激安チケットは、そういう部分も含めての価格だと心得て、格安トラベラーは「万一」に備える気持ちを持っていていいかもしれません。

搭乗拒否をされたら

搭乗拒否をされた場合の原則は、できるだけ交渉し、自分に有利になるように条件を持っていくことです。どうしてもその飛行機に乗りたいなら、断固として搭乗拒否を拒めば、航空会社側が他の客にアタックしてくれるかもしれません。

それでもダメなら受け入れて、経路変更にするか、後続便にするか、選択肢を提示してもらい、冷静になって判断しましょう。

国際線の場合、たとえばソウルや香港などの経由便への変更を提案されることもあります。一般論として、「オーバーブッキング時の経由便変更」はロストバゲッジや乗り継ぎ不備など、さらなるトラブルが生じたときの疲労がきついので、あまりおすすめはしないです。心労を減らすなら、ホテル代をもらって1日遅れの同じ便にしたほうがいいでしょう。選択肢があればの話ですが。

逆にボランティアしてみるのも

なんであれ、航空会社にはオーバーブッキングが認められており、その場合に搭乗拒否する権利があるのは事実です。

逆に捉えて、オーバーブッキングの「ボランティア」に応じてみるのも面白いかもしれません。航空会社にもよりますが、数万円の現金(またはクーポン)が謝礼としてもらえます。

謝礼額の多寡は、当該便に乗らなかった場合の次便の時刻などにより変動します。当然ですが、待ち時間が長いほど金額は高くなります。ANA国内線の場合は、当日で1万円、翌日以降は2万円が「協力金」の価格として定められています。

ルフトハンザやエールフランスといったヨーロッパ系の場合、ボランティアではありませんが、搭乗拒否を受けた旅客に対する「補償金」が定められています。日本線の場合で600ユーロ、次便の到着時刻遅れが4時間以内なら300ユーロです。アメリカ系では国内線2時間以上(国際線4時間以上)の到着遅れで片道運賃の4倍、最大1,300ドルという基準があるそうです。

チケットの購入価格と、こうした「謝礼」や「補償」の金額によっては、タダ同然で飛行機に乗れるかもしれません。

せっかく空港まで来てスタンバイしているのに、その飛行機に乗らないのはアホらしいことです。しかし、時間に余裕があるバックパッカーなどには、ちょっと美味しい話だったりすることもあります。(鎌倉淳)

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