「成田縛り」ルールは崩壊するか。ヴァージン撤退でANAがコードシェア失い、羽田運航ができなくなる?

航空会社の「成田縛り」ルールは、業界関係者にはよく知られた話です。羽田空港の昼間帯に国際線を運航する場合、同じ国へ飛ぶ成田路線を維持しなければならない、というルールです。法的根拠のない行政指導に過ぎませんが、無視すれば羽田発着枠を失いかねないため、各航空会社はこの指導に従ってきました。

ところが、この成田縛り、早くも崩壊しそうな雰囲気が漂ってきました。ヴァージンアトランティック航空が成田~ロンドン線を2015年1月末で廃止することを決めたからです。

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イギリスが成田縛り解除を要求

ヴァージンは羽田路線を持っていません。にもかかわらず、成田縛りルールと関係するのは、ヴァージンがANAとコードシェアをしているからです。

ANAは2014年3月に羽田~ロンドン線を開設した際に、成田~ロンドン路線を廃止しています。しかし、ヴァージンの成田~ロンドン線とコードシェアすることで、成田縛りルールをクリアしました。となると、ヴァージンが成田から撤退すれば、ANAは成田縛りルールに適合しなくなり、羽田~ロンドン線を維持する裏付けを失います。

そのため、成田縛りを厳密に適用するなら、ANAは2015年2月から、羽田~ロンドン線を運航できなくなります。もしくは、自社で成田~イギリス線を開設する必要があります。しかし、現時点で、ANAが2015年2月からイギリス向けの成田路線を開設するという情報は入ってきていません。

どうなるのだろうか、と注目している関係者は多いようですが、最近の日本経済新聞に興味深い記事が出ました。2014年10月3日付け同紙によりますと、イギリス政府が日本政府に対し、成田縛りルールそのものの解除を求めてきたとのことです。解除されない場合、イギリス側がANAの羽田~ロンドン線の認可を取り消す姿勢もみせているそうです。

ヴァージンアトランティック航空

ヴァージンは羽田就航を断念

なぜ、成田縛りにイギリス政府が口出しをするのでしょうか。それを説明するには、2013年秋の羽田昼間発着枠の配分時にさかのぼらなければなりません。

2013年秋、羽田昼間のイギリス向け発着枠は、日英各2枠の計4枠と決定されました。日本側がJAL、ANAに1枠ずつ、イギリス側がブリティッシュエアウェイズ(英国航空)とヴァージンに1枠ずつ割り当てています。

この配分枠を使い、JALとANAは羽田~ロンドン線を1日1便開設し、両社とも成田~ロンドン線を廃止しました。ブリティッシュは、深夜早朝枠で運航していた羽田~ロンドン線1日1便を昼間枠に移管しました。同社は成田~ロンドン線も1日1便運航していましたが、これは現在も継続運航しています。

残るヴァージンは羽田就航を見送り、成田~ロンドン線1日1便の運航を継続しました。その理由は明らかにはされていませんが、成田縛りルールの存在によるとみられます。ヴァージンは成田路線を維持したまま新規に羽田路線を開設するだけの余力はなく、かといって羽田路線のみの開設は許されません。したがって、羽田~ロンドン線を断念したわけです。

そして前述の通り、ANAはヴァージンの成田路線とコードシェアすることで成田縛りをクリアしました。JALもANAと同様に、ブリティッシュが1便残している成田~ロンドン線とコードシェアをして、成田縛りをクリアしています。

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ブリティッシュ成田撤退の可能性

こういう経緯で、羽田昼間発着枠のうち、ヴァージンが獲得した1枠は宙に浮いたままとなりました。日経よりますと、成田縛りについて、イギリス政府はかねてから疑問視してきたそうです。日英両国に平等に羽田枠を分配する体裁を整えながら、実際にはイギリス側の羽田参入を妨げる仕組み、とみていたのかもしれません。

そして、ヴァージンの日本路線撤退により、この1枠はブリティッシュの手に渡ったようです。そこで成田縛りルールの解除が行われると、どのようなことが起こるのでしょうか。

簡単に想像できますが、ブリティッシュが宙に浮いている1枠を使って、成田~ロンドン線を羽田に移管すると思われます。つまり、ブリティッシュは羽田~ロンドン線を1日2便にして、成田から撤退する可能性が高いです。これはブリティッシュの経営効率化と競争力強化につながりますので、イギリスにメリットがあります。かねてからの不満に加え、こうした背景もあり、イギリス政府は成田縛りの解除を求めているとみられます。

これが実現した場合、ANA、JALも含めて、1日4便の東京~ロンドン路線がすべて羽田発着になってしまいます。また、JAL・ブリティッシュのワンワールド陣営が、羽田~ロンドン線で1日3便を運航することになります。

最近の政府によるANA優遇方針をみる限り、国土交通省がこれを容認するかは疑問です。さらに、成田縛りが解除されれば、他国路線でも、成田から撤退する動きが出てくるとみられます。それを避けようと、千葉県や成田近辺の政治家もルール解除阻止へ介入してくるかもしれません。

ヒースローの枠の問題

ANAが成田からイギリス路線を開設すれば、当面の問題は解決します。ところが、これも簡単な話ではなさそうです。というのも、ロンドン・ヒースロー空港の発着枠の問題があるからです。ANAがヒースロー空港の枠を持っていればいいのですが、そうでないなら、成田~ヒースローの路線をANAが開設することはできません。そしてこのヒースロー枠は枯渇しています。

たとえば、2014年9月14日に、キプロス・エアウェイズからアメリカン航空へヒースローの発着枠が譲渡されましたが、この譲渡金額は3,100万ドル(約33億円)だったそうです。時間帯にもよるでしょうが、それだけの価値が生ずるほど、ヒースロー空港の発着枠は不足しているのです。ANAが30億円も払って成田路線のためにヒースロー枠を買うかは疑問ですし、買いたくても買う枠があるとは限りません。どこかに眠っている枠があるのなら話は別ですが、そもそもANAはロンドン進出当初にヒースローの枠が取れずにガドウィックに就航したくらいですから、余った枠を持っていることはないでしょう。

となると、ガドウィックなどロンドンの他の空港か、エジンバラなどイギリス内の他都市への就航が選択肢になるわけですが、いずれも採算性に難がありそうです。したがって、成田縛りを絶対に守らなければならないという結論に至った場合、ANAは羽田~ロンドン線から撤退して、成田~ロンドン線を復活させるのが合理的な選択です。しかし、それでは何のために羽田に昼間枠を設定したのかわからなくなるので、現実的にはありえないでしょう。

形式的にクリアする方法はあるのか?

ANAと国交省にとっては八方ふさがりに見えますが、成田縛りを形式的にクリアする方法は、探せばあるのかもしれません。まったくの妄想ですが、たとえばルフトハンザのフランクフルト~ロンドン線とコードシェアして、成田~フランクフルト~ロンドンという経由路線を形だけ作り、成田縛りをクリアしたことにする、などです。とはいえ、これがOKなら、他国路線でも応用できますので、やはり実質的に成田縛りが崩壊することに変わりありません。

成田縛りが日本の役所の都合で作られた、不合理なルールであることは間違いありません。しかも、ルールを作った国交省自身が自縄自縛に陥っている感すらあります。イギリスからの「外圧」は、八方ふさがりの役所にとって、ルールを解除する言い訳としてちょうどよいかも知れません。うがった見方をすれば、だからこそマスコミにリークされ、日経に掲載されたのかもしれません。

制度としてのEU共通航空政策の展開

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