新見ルート
話を岡山駅に戻し、「出雲→尾道」で回るルートを検証してみましょう。岡山駅の案内所で教えられた、きびプラザ方面へのバスに乗車していたらどうなっていたでしょうか。
▽1日目
岡山駅10:37→11:33きびプラザ13:17→14:14高梁バスセンター14:30→15:30坂本16:35→17:20新見18:38→19:34新見千屋温泉
▽2日目
新見千屋温泉→徒歩12.9km→日野病院09:10→10:12米子駅10:45→11:07安来駅12:20→12:33荒島駅12:40→13:18松江駅14:55→15:46大東駅前/JR出雲大東駅17:07→17:43三刀屋バスセンター19:15→19:58出雲市駅
これを「新見ルート」と呼ぶことにします。新見ルートでは、1日目に新見市北部の千屋温泉まで行くことができます。
しかし、新見千屋温泉に営業中の宿泊施設が見当たりません。その先、米子へのバスが出ている日野(根雨)へは、峠を越える約13kmもの道のりで、日没後に歩くのは困難です。新見千屋温泉に泊まれず、先にも進めない以上、1日目は実質的に新見までしか行けません。
したがって、上記の乗り継ぎの実現性には疑問符が付くものの、新見千屋温泉に泊まれたと仮定して先を見てみます。
日野病院9時10分発のバスに乗れたとして、出雲市に到着するのは2日目の20時前。尾道経由の実際ルートと同じです。言うまでもありませんが、この乗り継ぎではまだ尾道のチェックポイントをクリアしていませんので、実際ルートより大幅に劣後します。
以下、3日目以降も見てみましょう。
▽3日目
出雲市駅07:30→08:07出雲大社連絡所→出雲大社(☆)→出雲大社連絡所09:20→09:49出雲市駅12:21→13:05三刀屋バスセンター13:44→14:00掛合の里15:13→16:15赤名駅/赤名17:40→18:28三次駅前
▽4日目
三次駅前06:49→08:10甲山営業所08:25→09:32尾道駅前09:38→09:41長江口→徒歩0.1km→千光寺山ロープウェイ山麓駅09:45→09:48千光寺山ロープウェイ山頂駅(☆)10:00→10:03千光寺山ロープウェイ山麓駅→徒歩0.1km→長江口10:12→10:17尾道駅前10:22→10:35鳴滝登山口→徒歩0.9km→福地11:57→12:21三原駅前12:35→13:36竹原駅13:45→14:44西条駅15:03→16:33呉駅前17:00→17:48熊野営業所18:00→18:53紙屋町/広島バスセンター20:00→20:53阿品台西
このように、4日の21時頃に阿品付近に到達したところで、バスが途絶えます。すなわち、新見ルートでは、仮に新見千屋温泉に泊まれたとしても、ゴールできません。
逆算してみると
ここで、ゴールの最低要件となる広島16時発の阿品台行きバスに間に合うための乗り継ぎを尾道方面から逆算してみます。以下のように、三原駅前8時45分発が、ゴールへの「最終バス」になります。
▽4日目
三原駅前08:45→09:46竹原駅10:40→11:43西条駅13:00→14:30広島バスセンター
問題になるのが、尾道のチェックポイントです。番組では「千光寺山ロープウェイ山頂」をチェックポイントと紹介していますが、ロープウェイの運行時間は9時~17時15分です。3日目の夜や、4日目の早朝には乗車できません。つまり、「出雲→尾道」で回った場合、遅くとも3日目の夕方には尾道駅に着いていなければなりません。
そういう事情を考慮して、さらに逆算してみると、以下のようになります。
▽2日目
出雲大社連絡所14:50→15:26出雲市駅15:36→16:20三刀屋バスセンター16:29→16:45掛合の里18:07→18:59赤名駅
▽3日目
赤名08:10→08:58三次駅前10:49→11:59甲山営業所15:35→16:42尾道駅前16:50→16:53長江口→徒歩0.1km→千光寺山ロープウェイ山麓駅17:00→17:03千光寺山ロープウェイ山頂駅(☆)17:15→17:18千光寺山ロープウェイ山麓駅→徒歩0.1km→長江口17:29→17:37尾道駅前18:02→18:15鳴滝登山口→徒歩0.9km→上福地18:27→18:51三原駅前
▽4日目
三原駅前08:45→09:46竹原駅10:40→11:43西条駅13:00→14:30広島バスセンター
「出雲→尾道」という順序でチェックポイントをたどるのであれば、2日目の14時頃には出雲大社に到着していなければならないようです。
これはとても厳しい条件で、実現できるルートは見つかりませんでした。
津山ルート
最初に戻って、岡山から新見ではなく、津山を目指したらどうなるでしょうか。津山へは、「岡山エクスプレス津山号」というバスが国道53号を走っています。
▽1日目
岡山駅10:30→12:05津山駅14:08→15:04追分口15:42→15:55真庭市役所18:50→19:39新庄村役場前
▽2日目
新庄村役場前→徒歩8.8km→板井原07:44→07:54日野病院前07:55→08:55米子駅10:15→10:40米子鬼太郎空港11:00→11:45松江駅12:35→13:26大東駅前/JR出雲大東駅15:39→16:19三刀屋バスセンター16:45→17:28出雲市駅17:30→18:07出雲大社連絡所
これを「津山ルート」と呼びます。2日目夜に出雲大社に到着できます。
津山ルートでは、3日目早朝に出雲大社を参拝すれば、出雲市を8時に出るバスで三次へ向かうことができます。
▽3日目
出雲大社(☆)→出雲大社連絡所06:40→07:18出雲市駅08:00→08:44三刀屋バスセンター10:09→10:25掛合の里10:38→11:30赤名駅/赤名14:30→15:18三次駅前17:44→18:54甲山営業所19:15→20:22尾道駅前
このように、3日目の20時すぎに尾道駅前に到着します。
すでに千光寺山ロープウェイの運行時間は終わっていますので、この日のうちにチェックポイントをクリアすることはできません。かといって、翌朝9時のロープウェイ営業開始を待つと、最終的にゴールできないのは、前述した通りです。
尾道のチェックポイントへ行くのに、ロープウェイを使わなくてもいいと仮定すると、千光寺公園は尾道駅から徒歩20分もあれば登れるようです。尾道に泊まり、4日目の早朝に登ったとして、以下のようにつながります。
▽4日目
尾道駅前→徒歩1.2km→千光寺山ロープウェイ山頂駅(☆)→徒歩1.2km→尾道駅前06:20→06:27尾商入口→徒歩1.1km→鳴滝登山口07:05→07:28三原駅前08:45→09:46竹原駅10:40→11:43西条駅13:00→14:30広島バスセンター
この後は、広島発16時の阿品方面行きバスに乗ればゴール可能です。
重ねて書きますが、尾道のチェックポイントを「歩いて登ってもいい」というのは仮定に過ぎません。オンエアでは、「尾道のチェックポイントは、千光寺山ロープウェイ山頂駅」とナレーションがあったのみで、ロープウェイ乗車が必須との表現ではありませんでしたので、そう解釈することも可能かもしれない、という程度の話です。
何であれ、「出雲→尾道」の順で回ると、難易度がきわめて高くなるのは確かです。津山ルートにしても、実際に上記のように乗り継げるかというと、困難でしょう。つまり、尾道のチェックポイントの時間制限を外したとしても、ゴールは不可能に近かったとみられます。
「出雲→尾道」は不正解か
まとめてみると、チェックポイントの回り順は「尾道→出雲」が正解で、「出雲→尾道」という逆回りは不正解という結論にならざるを得ません。つまり、岡山駅の選択いかんで、結果がほぼ決まってしまうという、ある意味恐ろしい回でした。
実際、先の見通しを持たずに、岡山から新見方面へ突き進んでいたら、中国山地の険しい山の中で宿探しに苦労していた可能性が高く、ロケ全体が窮地に陥った可能性すらあります。
裏を返せば、制作側は「出雲→尾道」をほとんど想定していなかったことが察せられます。もう少しはっきり書くと、出雲大社だけをチェックポイントにすると、岡山市からすぐに北上してしまうかもしれないので、尾道をチェックポイントに加えて、新見へ向かわないように一行を誘導したようにも感じられる、ということです。
尾道のロープウェイの営業時間の問題も、「出雲→尾道」を想定していなかったと考えれば合点がいきます。新型コロナウイルス感染症が収束していない状況で、一行の行動を限られた想定の範囲に収めなければならない事情もあり、「尾道→出雲」が既定だったのかもしれません。
どちらから回っても可、というルールにしたのは、そのほうが岡山駅で盛り上がるからでしょう。案内所で聞き込めば、先に尾道を目指すのが賢明と判断できるので、一行が「出雲→尾道」を選択することはないと、制作側は読んでいた、ということでしょうか。
全体を通して、一行がルート選択に迷う場面は、あまりありませんでした。最大の分岐点は出雲市の二択で、三次へ戻るか、大田に展開するかがポイントでしたが、どちらを選んでもゴール可能でした。大田ルートは高速バスの下道利用を見抜く必要がありますが、選択肢が限られる状況で、発見するのが困難だったとまではいえません。
このように振り返ってみると、お題としてはやや平易だったという印象です。
穏やかなロケ
まとめると、田中・羽田コンビは、想定される適切な解の一つをほぼ走破したといえそうです。よりベターな乗り継ぎがあったとしても、寄島~笠岡間くらいでしょうか。
徒歩区間も短く、時間にも余裕があり、「Z」シリーズにしては穏やかなロケだったといえます。岩国を前にした最終局面で、羽田は「だんだん時間が迫ってきている」と自ら煽りましたが、その台詞が軽く感じられるほどでした。
テレビ番組として考えれば、出雲市から三次市に折り返すのではなく、大田市方面へチャレンジをして欲しかったという感想もあるでしょう。ただ、制作側から「負け越したら引退」という匕首を突きつけられている以上、田中・羽田コンビが、より確実性の高いルートを選ぶのはやむを得ませんし、真剣勝負の証左ともいえます。
とまれ、これで、田中・羽田コンビの結果は9勝7敗となり、2つの勝ち越しです。次回は新型コロナウイルス感染症の状況が緩和していることを願いつつ、より挑戦的なルートを期待したいところです。(鎌倉淳)