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北陸新幹線延伸、財源確保に暗雲。JR東日本、貸付料値上げに強く抵抗

「今後の整備新幹線の貸付のあり方に関する小委員会」第2回会合

整備新幹線の貸付料について検討する有識者会議の会合で、JR東日本が値上げに強く抵抗する構えを見せました。貸付料は今後の新幹線建設の財源になるため、値上げが実現しない場合、北陸新幹線新大阪延伸などにも影響が出そうです。

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「1991年に合意済み」

国土交通省は、「今後の整備新幹線の貸付のあり方に関する小委員会」の第2回会合を2025年12月11日に開催しました。

第2回会合では、整備新幹線を運行しているJR東日本への意見聴取がおこなわれました。JR東日本からは整備新幹線の責任者として松本雄一執行役員・経営企画部門長が出席し、貸付料に対する同社の考え方を示しました。

JR東日本の考え方は、1991年に運輸省(当時)と同社で施設使用料(貸付料)に関する合意がなされたというものです。開業後30年間は受益の範囲内で定額の貸付料を支払う一方で、31年目以降については施設の状態にあった維持管理等に要する費用を支払うことになっていると主張しました。

JR東日本は、これを「行政契約」と表現しており、31年目以降の貸付料の大枠はすでに決着済みという姿勢をみせたわけです。

北陸新幹線E7系

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これまでより低くなる?

整備新幹線は、鉄道建設・運輸施設整備支援機構が線路を建設・保有し、JR各社に貸し付ける枠組みで整備されています。

JR各社は機構に貸付料を支払い、そのお金が次の整備新幹線の建設費に充当されるという形です。JR各社が貸付料を支払う契約期間は30年間となっていて、その金額は「受益の範囲内」と定められていました。

整備新幹線は5区間あり、最初の北陸新幹線高崎~長野間は1997年に開業しました。開業から30年となる2027年に貸付・支払期間が終了します。2028年以降の貸付料や支払期間は決まっておらず、その金額や期間をどうするのかが、当面の焦点です。

JR東日本は、高崎~長野間について、貸付料としてこれまで年間175億円を国側に支払ってきました。同社の認識に基づけば、期限を迎える2027年9月以降については、設備の維持管理に必要な金額が新たな貸付料額になるわけで、これまでより低く抑えられる可能性も出てきます。

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大規模修繕を除く維持管理費

JR東の喜勢陽一社長は、2025年12月9日の定例会見で「施設の状態に見合った維持管理等に要する費用をお支払いするということになっている。それを前提に貸付料について協議をしていく」という、同社としての基本姿勢を示しました。

喜勢社長は、「貸借関係なので、大規模修繕は当然貸主がおこなう。それを除いた維持更新等の費用はどういうものになるのか、次の貸付契約はどのくらいの期間になるのかを、これから決めていく」とも述べていて、貸付料の議論は「大規模修繕を除く維持管理費用」がベースになるという考え方を、繰り返しました。

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政府の姿勢

しかし、政府の姿勢は、JR東日本とは異なります。政府の説明資料では、今後の貸付料についても受益の範囲をベースにすることが示唆されていて、論点は「受益の算定方法・範囲」としています。

たとえば、「鉄道収入のみならず、新幹線開業にかかわる関連収入についても算入すべき」としており、受益の範囲を、ホテルや駅ビルといった関連収入にまで広げようと構えています。

JR東日本の主張は、「そもそも31年目以降は受益と無関係」というものですが、委員会に出席した松本雄一執行役員は、受益の範囲に関しても「ホテルや商業施設という自己資金で始めた資産による収益は対象にならない」と念を押しています。

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空気の変化

政府の考え方の根底には、これまで貸付料を低く抑えすぎた=JRを儲けさせすぎた、という認識があるようです。

整備新幹線のスキームが決定されたのは国鉄民営化から間もない時期であり、JR側には政治による押しつけに対する強い警戒感がありました。政府側にも、JRの経営の重荷にならないよう配慮する空気があり、受益の範囲は限定的に設定されました。

しかし、結果として整備新幹線はこれまでのところ成功しており、JRの経営の重荷どころか、支えになっています。そのため、政府側の空気も変化し、「もう少し貸付料を上乗せしてもいいだろう」と考えるようになったようです。

政府側の資料には、JR東日本のいう「維持管理等の費用がベースになる」という考え方は、一切出てきません。これに対し、JR東日本が強く抵抗する姿勢を見せたのが、今回の構図です。

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新幹線建設の財源

貸付料は、今後の新幹線建設の財源となります。北海道新幹線札幌延伸の建設財源は、現状の貸付料設定が今後も続くという前提で、前借りする形で確保されています。

一方、北陸新幹線新大阪延伸は、当面、十分な貸付料財源を確保できておらず、確保できるのは北海道新幹線の札幌開業後です。

貸付料を値上げすれば、値上げ分を北陸新幹線に振り分けられます。そのため、貸付料更新の結果は、北陸新幹線延伸にも影響を及ぼします。万一、値下げとなれば、北陸新幹線はもとより、北海道新幹線延伸の財源を欠くことにもなりかねません。

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現実的な着地点は?

過去の合意の解釈はともかく、一般論として考えれば、JR東日本の主張は、「マンションを管理費だけで貸してくれ」と言っているのに近く、無条件に認めるのは難しいといえます。かといって、政府の主張する「ホテルや商業施設まで受益に加える」のも無理筋な印象です。

喜勢社長は「貸付料をお支払いしないと言っているわけではない」とも述べており、当然のことながら、現実的な着地点を見いだす姿勢を示しています。議論のスタート地点を低めに据えようとしているだけで、今後の貸付料が、これまでより安くなることは考えづらいでしょう。

ただ、最終的な着地点がどこになるかは、現時点では見通せません。つまり、北陸新幹線延伸の財源確保も見通せず、暗雲が漂っているということです。(鎌倉淳)

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旅行総合研究所タビリス代表。旅行ブロガー。旅に関するテーマ全般を、事業者側ではなく旅行者側の視点で取材。著書に『鉄道未来年表』(河出書房新社)、『大人のための 青春18きっぷ 観光列車の旅』(河出書房新社)、『死ぬまでに一度は行きたい世界の遺跡』(洋泉社)など。雑誌寄稿多数。連載に「テツ旅、バス旅」(観光経済新聞)。テレビ東京「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」ルート検証動画にも出演。