日本貨物鉄道(JR貨物)の鉄道事業が、2017年3月期に初めて黒字化する見通しとなりました。田村修二社長が見通しを明かしました。JR旅客各社に支払っている線路使用料のアボイダブルコストルールの議論にも影響を及ぼしそうです。
人手不足が追い風
JR貨物は、2007年3月期に初めて部門別収益を公開して以来、鉄道事業は常に赤字でした。2016年3月期決算でも、33億円の赤字を計上しています。
同社は2016年度を「中期経営計画 2016」の最終年度とし、鉄道事業の黒字化(営業利益0億円)を達成することを目標としています。
日本経済新聞2017年2月15日付によりますと、これに関し、田村修二社長は、同日の記者会見で、「達成できるのではないか」との見通しを示したとのことです。実現すれば、部門別収益を公開した2007年3月期以来、初めての鉄道部門黒字となります。
黒字化の背景として、人手不足があります。鉄道貨物の運賃がトラックよりも安いとは限りませんが、トラック運転手の不足があり、荷物が道路から鉄路へ移る「モーダルシフト」が起きており、運輸収入の増加を支えています。
2017年3月ダイヤ改正でも、トヨタ自動車の自動車部品輸送の対応として、笠寺~盛岡間の専用列車「TOYOTA LONG PASS EXPRESS」を増発するといった施策を実施します。
2018年度に「経営の自立」
JR貨物では、2017年3月期に関連事業として91億円の営業利益をめざしており、全体として経常利益68億円、当期純利益88億円を計画しています。外部収入の拡大も進め、鉄道事業以外でも安定した利益を上げていくことのできる企業グループを目指しており、2018年度の「経営の自立」を掲げています。
これまで東京・飯田町貨物駅跡地を再開発した「アイガーデンエア」など不動産事業を手がけてきましたが、現在は東京貨物ターミナルの再開発に力を注いでいます。これらの関連事業が、JR貨物の経営を支えています。
赤字企業が黒字企業を支援できない
国鉄分割民営化から30年。当初、経営が難しいと言われていたJR貨物が鉄道事業で黒字化し、関連事業も含めて数十億円の利益を計上できるようになったことは素晴らしいことです。
ただ、JR貨物は、JR各社に支払う線路使用料において「アボイダブルコストルール」のメリットを享受しています。これは、仮に貨物列車が線路を走行したことによってどれだけ保守経費が増加したかを計算し、この増加費用分だけをJR貨物が支払うという方式です。線路の固定費の負担を免れているため、JR貨物にとっては有利なルールです。
経営難のJR北海道では、このルールの見直しが議論されています。赤字企業が黒字企業を支援する枠組みは、理屈として通りにくいでしょう。JR貨物の鉄道黒字化は、今後、「アボイダブルコストルール」の議論に影響を与える可能性がありそうです。(鎌倉淳)