JR四国「中期経営計画」に漂う手詰まり感。鉄道路線維持への展望なく

非鉄道事業への期待はあるが

JR四国が、2025年度を目標とする新たな中期経営計画を発表しました。鉄道運輸収入の現状維持を目指しながら、分譲マンションやホテルといった関連事業を強化します。しかし、鉄道路線の維持に向けた長期的な展望は見えておらず、手詰まり感も漂います。

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鉄道事業以外を伸ばす

2020年3月に、国土交通省はJR四国に対して、経営改善に向けた取り組みを着実に進めるよう行政指導文書を発出し、5年間(2021~2025年度)の事業計画を策定することを求めました。

これを受け、JR四国が公表したのが「中期経営計画2025」です。2025年度の単体の営業収益の目標は316億円。売上高経常利益率1%の達成を目指し、経常利益の目標を3億円としています。

新型コロナウイルス感染症の影響がなかった2018年度の営業収益が291億円、期末に影響を受けた2019年度が280億円でしたので、1割程度の上積みを狙います。

営業収益のうち、鉄道運輸収入の目標を236億円としました。2018年度が225億円、2019年度が224億円でしたので、ほぼ現状維持で若干の上乗せを狙います。

一方で、鉄道以外の事業分野を含んだ連結決算の営業収益の目標を555億円とし、13億円の経常利益を目指します。2018年度の営業収益が498億円、2019年度が489億円でしたので、1割以上の上積みを目指すことになります。

単体、連結とも、鉄道収入を増やすことは簡単ではないため、鉄道以外の事業で稼ごうとしているわけです。以下で、それぞれの具体的な施策を見てみましょう。

2800系、四国まんなか千年ものがたり

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鉄道事業の計画

鉄道運輸収入の確保のための具体的な施策として真っ先に挙げられているのが、都市圏の利便性向上。パターンダイヤの拡大など利用しやすいダイヤを設定します。また、交換設備などを整備して輸送を改善。そのほか、地域やバスなどと連携して駅の交通機能や拠点性を強化します。

販売面では、スマホアプリやQRコードなどを活用し、チケットレス・サービスやキャッシュレス決済サービスを導入。きっぷのネット販売や、「みどりの券売機プラス」(オペレーター対応型券売機)の設置も拡大します。これらの施策の一部はすでに始まっていて、旅客がきっぷを買いやすくすると同時に、駅窓口の負担を減らします。

観光列車も充実させます。「伊予灘ものがたり」には新型車両を投入し、2022年春に運行を開始。そのほか、観光列車を活用した広域観光周遊ルートを形成して商品化します。

インバウンドの需要回復に向けた準備も進めます。受け入れ環境の整備をおこなうほか、状況に応じてプロモーションも実施。観光型MaaSを導入するなど、地域と連携した観光誘客も促進します。

運賃改定も計画しています。実施時期は未定ですが、中期経営計画の終わる2025年度までに値上げをする方針です。また、特別企画乗車券や定期券、付加価値の高い座席で戦略的な価格を設定し、収益増を目指します。

ワンマン運転も拡大する方針を示していて、特急列車でもワンマン運行が増えそうです。信号自動化による駅運転業務の効率化や、列車運行計画業務のシステム化なども盛り込まれました。そのほか、多度津工場の近代化、検査・修繕の効率化なども実施します。

ものがたり列車
画像:JR四国中期経営計画2025
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非鉄道事業の計画

非鉄道事業における収益の拡大については、ホテル事業が中核となります。2021年秋にJRクレメントイン今治の開業を控えているほか、松山駅周辺などで宿泊特化型ホテルの出店候補地の選定を進め、四国外進出も目指します。さらに、ゲストハウス(簡易宿所)の展開も拡大します。

駅ビルに関しては、高松駅北側の開発を推進。松山駅高架下や松山駅周辺再開発も進めます。

不動産開発に関しては、マンションデベロッパーとしての地位確立を目指し、販売を拡大。高松市のほか、岡山市、松山市で分譲マンション開発を進めます。また、公共施設などの指定管理業務受託なども目指します。

飲食・物販事業については、注力する事業(伸ばす事業)の見極めや、グループ外企業とのタイアップ、買収などによる新業態の開発・展開を検討する段階で、収益貢献はまだみえません。

新幹線、ローカル線は?

地元で建設機運が盛り上がりつつある四国新幹線については、地域など関係者と連携して「新幹線などによる抜本的高速化の実現に向けた検討」をおこなうとしています。JR四国が新幹線の建設主体になるわけではありませんが、「必要性について、より一層の理解を得るための継続的取組み」を実施します。

ローカル線の路線整理に関しては具体的な記述はありませんが、「持続的な鉄道網の確立に向け、地域と一体になって策定した利用促進等に関する5カ年推進計画の実施、検証」をおこないます。

これは、2017年から続いている「四国における鉄道ネットワークのあり方に関する懇談会Ⅱ」や、その県別会議などで「あるべき交通体系の検討」が進められていることから、それらと連携して検証する、という意味です。

具体的には、地元自治体と連携して利用促進に取り組んだ上で、「平均通過人員」(輸送密度)を基本指標とし、2025年度において、2019年度と同水準を目指します。加えて、列車運行本数に左右されない「列車キロ平均輸送人員」も関連指標とします。

そして2025年度には、利用促進の取り組みを振り返り、総括的な検証をし、事業の抜本的な改善方策について検討をおこなうとしています。

つまり、ローカル線の廃線によるネットワークの縮小は、中期経営計画の終了時に本格的に検討されることになります。ただ、JR四国は黒字路線がほとんどないため、廃線は経営改善の特効薬にはなりません。

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働きがいの創出

そのほか、注目点があるとすれば、従業員向けの施策の優先順位の変化でしょうか。2020年までの中期経営計画では「人材の育成」「働きがいの創出」「働きやすい職場環境づくり」の順でしたが、新たな中期経営計画では、「働きがいの創出」「働きやすい職場環境づくり」「人材の確保・育成」の順になっています。

「人材育成」という、どちらかといえば経営者目線の施策が後退して、「働きがい」という従業員目線の施策がトップにきたわけです。

背景として、JR四国の若手社員で離職者が続出しているという事情がありそうです。3月10日の国会答弁によれば、JR四国の2019年度の採用者数は123人だったのに対し、自己都合退職者は75人で、うち88%にあたる66人が10~30歳代。2020年度も50人が自己都合退職する見込みで、9割方が30歳代までだそうです。

従業員数約2100人のJR四国において、年数十人の自己都合退職は多いとまではいえません。ただ、若手の離職は、JR四国の経営の先行きへの不安感や、低賃金が理由でしょう。そのため、新たな中期経営計画では、若手社員つなぎとめの意味もあり「働きがい」の項目の優先順位を上げたのかもしれません。

具体的な施策としては、「デジタル化、業務の見直しによる生産性向上」「非効率な業務や働きづらさの改善」などを目指します。

長期経営ビジョン2030

JR四国では5年間の中期経営計画とあわせて、10年間の「長期経営ビジョン2030」という長期計画も発表しました。

それによりますと、2030年度の鉄道運輸収入の計画は235億円で、ほぼ現状維持。連結売上高は600億円とし、中期経営計画の555億円からさらに約1割の上乗せを狙います。

具体的な施策については、中期経営計画とほぼ同じです。長期ビジョンへの過程として中期経営計画が置かれているので、長期と中期で示されている具体的施策に大きな差異はありません。

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手詰まり感

以上が、新たなJR四国の中期経営計画の、利用者から見た注目点です。なお、上述した以外にも安全面や企業価値向上に関する記述もありますが、経営改善に大きな意味を持ちそうな内容は見当たらなかったので、省略しています。

計画全体から感じられるのは、手詰まり感です。JR四国の中核事業である鉄道事業に関しては、運輸収入の微増を掲げていますが、利用者数を維持した上で値上げするという目標と帳尻を合わせた印象です。

利用者数維持に向けた具体的な施策は乏しく、都市圏輸送と観光列車の強化くらいです。これらの施策だけで収支が大きく改善することはないでしょう。

大きな可能性があるとすればインバウンドを中心とした観光誘客ですが、集客に関する具体策に乏しく、期待先行の域を出ません。そもそも、鉄道会社の努力だけでインバウンドを大きく増やすのは難しく、自治体を含め四国全体で取り組まなければならない課題でしょう。

本来なら収益源にならなければならないはずの特急列車による都市間輸送について、利用者を増やすための明確な強化策が見当たらないのも気がかりです。「新幹線など抜本的な高速化」を目指す一方で、既存の在来線特急を見限っているわけではないでしょうが、少し心配になります。

関連事業では、ホテルとマンション開発には期待が持てるものの、事業規模は大きくはありません。そのほかに、目立った新規事業はありません。

一言でまとめれば、「これまでの中期経営計画と大差ない」というのが正直な感想で、JR四国の経営の手詰まり感が伝わってきます。

政府の仕事

JR四国の経営改革に本当に必要なのは、十年一日の中期経営計画や長期ビジョンではなく、上下分離などの新たな鉄道維持スキームでしょう。

国鉄分割民営化時につくられた「経営安定基金スキーム」が、低金利の長期化により事実上破綻してしまっている以上、新たな鉄道維持の枠組みが必要です。そして、それを作るのはJR四国ではなく、政府や地方自治体の仕事です。

政令指定都市もなく、総人口も少ない四国において、JR四国が現状の鉄道網で経営自立をするのはまず不可能でしょう。できないとわかりきっている無理難題を求めるよりも、政府が新たな経営スキームを考える段階に来ているのではないか、と思わずにはいられません。(鎌倉淳)

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